第10話

ファミレスで向かいに座る俺と少年。少年は無言のままだ。


「怪しいものじゃないって口で言ってもな。だから、まずはこれ」


俺は少年に名刺を渡した。


「公務員ですか」

「ああ、本田祐也。市役所職員だ」

「市役所職員さんが何でその人を探してるんですか」


まあ、そう思うよな。でも向こうの世界の事は言えないし、どうやってごまかすか。でもその前に自己紹介だ。自分から名乗れば向こうも流れで名乗ってくれるだろう。


「まあ待て、お互い自己紹介しようじゃないか。俺は本田祐也、22歳の市役所職員だ」

「白銀翼です。市立仁原西高校の2年です」


白銀翼、市立仁原西高校か。やっぱりな。ここで人を覚えられる方法(効果のほどは疑問)を発動!白銀は黒の髪を目が隠れるか隠れないかの長さまで伸ばしている。顔つきは普通。美でも醜でもなく普通。体型も中肉中背、身長も170cm位と平均だ。服装も学生服。いわゆる、普通の高校生という感じだ。


「よろしくな。白銀」

「よろしくお願いします」


固いな。まだ警戒しているようだ。


「黒宮探してる理由だっけ。まあ簡単に言えば一度会った時に怒らせちゃって。謝りたいんだが、見つからなくてな」

「知り合い、何ですか?その、黒宮さん?と」


あくまでも知らない振りか。別にいいけど。


「財布を拾ってくれたお礼に教えるけど、こっちは大体の事は把握したから本当は白銀と話す必要は無いんだ」

「把握って何を・・・」

「これも普段は言わないんだけどな。スマホの録音切ったら話すよ」

「っ!!バレてたんですね・・・」


白銀が俺の目の前にスマホを置く。画面は録音のアプリのもので既に5分ほど録音されていた。ファミレスに入った直後くらいからだな。


「それは消さなくてもいいぞ。大した話はしてないしな」

「・・・」

「少しは信用してくれたか?」

「でも、録音を止めさせたじゃないですか!」

「ああ、それはちょっと格好つけただけ。録音再開していいよ。それを消すのか警察に渡すのかは白銀の自由だ」

「ああもう!本田さんは何がしたいんですか!」


怒られてしまった。録音とか盗聴とかそういうのに鋭く気付くのって格好いいと思うんだけど、俺だけか?


「悪い悪い、で、俺が何を把握したかって話、本当に聞く?」

「勿論ですよ!」

「じゃあまず一点。俺の質問に黙っていただろ?あれで黒宮を知っているんだと確信した。本当に知らなかったら考え込んだりキョトンとした表情をするもんだ。お前の反応は知っている奴のものだった」


これは白銀が分かりやすいだけで隠せる奴は普通に隠せるからな。相手が白銀でよかったよ。


「それに付随して、白銀の服装から制服指定の高校に絞った。となるとこの辺で一番近いのは市立仁原西高校。黒宮はそこに通っている可能性が高いと見た」


白銀の顔は血の気が引いていた。


「本田さん・・・!普通にストーカーですよ・・・!!」

「えっマジ?嘘でしょ?」

「完っ全なるストーカーです!ああ・・・俺はストーカーに黒宮さんの情報を渡してしまうなんて・・・!」


血の気が引いていたのってそういう理由かよ!てっきり俺の完璧な推理に驚いてるもんだと思ったのに!ていうかストークもしてないのにストーカーになるのか!!?


「まあ、落ち着け、落ち着け落ち着け!」

「アンタが落ち着いてくださいよ。通報されなきゃ大丈夫ですよ。この録音データを送るとかすれば一発でアウトだと思いますけど」

「おい!待て!いや待ってくれ!」


白銀め、まさか逆に脅されるとは思いもよらなかったぞ・・・!中々やるじゃねーか。ってか格好つけて録音許すんじゃなかった。何が録音再開していいよだ。バーカ。今すぐ過去に行って過去の自分をぶん殴りたい気分だ。


くそっ。そっちがそう来るならこっちも考えがあるぞ!確証がないから黙っておいてやろうと思ったのに。


「・・・白銀、一つ聞いて言いか?」

「何ですか」

「お前、何でそんな黒宮のことを庇うんだ?思えば最初から変だったよな?黒宮を探す謎の男に出会って、黒宮を知っているとバレてもファミレスに付き合う必要はなかったんじゃないか?それこそ録音を取ってまで」

「・・・・」

「お前、黒宮が気になってたり・・・」

「・・・違います」

「ふーん」


白銀は俯いて隠しているつもりだろうが、バレバレだ。別に同じ高校の女子を好きになるなんて普通の事だしな。健全健全。


「お前は黒宮が好きだから黒宮を探す謎の男、俺の存在が気になったんだ。だから付いてきて見極めようとした。それでヤバい奴だったらすぐ通報出来るように証拠として録音してな。違うか?」

「仰る通りです・・・!」

「じゃあ、この録音はどうする?」

「消しました・・・どうかこの事は・・・」


勝った。それでいいのか?大人げない?知るか!そんなもん。それにまだ終わりじゃない。肝心の最初の目標を達成できていないじゃないか。


「そうか。黒宮が好きなのか」

「それがどうしたんですか!悪いですか!?」

「俺の手伝いをしてくれたら、お前に協力をしてやってもいい」

「協力?」

「だからお前と黒宮がくっつくのを手伝ってやる」


自分でも思うんだけど今俺何目線で話してんの?してやってもいいとか手伝ってやるとか。自分も恋愛経験もないし黒宮と仲がいいわけでもないのに超上から目線で。


「本田さんに何のメリットがあるんですか?それにアンタは黒宮のことを───」

「最初から言ってるじゃん。謝りたいだけだって」

「分かりましたよ。手伝えばいいんでしょ」

「手伝ってくれるのか。ありがとう」

「アンタほっとくと校門を見張りかねないしな」


気づけば白銀の警戒心は鳴りを潜めたようで、代わりにバカな友人を相手にするような態度になっていた。口調も雑になってるし。


「よし、じゃあ作戦は後で送るから明日決行な」

「俺アンタに連絡先教えんの嫌なんだけど」


そう言いながらも白銀は連絡先を教えてくれた。ツンデレかなと思ったけど顔を見たらマジで嫌そうだった。それこそ俺が松崎先生に向ける態度と同じレベルに。え、そんなに嫌われてるの・・・


「お待たせしました。ビーフステーキ10皿です」


そんなの頼んだっけ?と思ってタブレットを見たら注文履歴にちゃんと書いてあった。まさか・・・!と白銀を見ると不適な笑みを浮かべていた。


「奢ってくれるんですよね?こちとら貧乏学生・・・!この絶好の機会に高いものをたらふく食わせてもらいます!」

「こ、この野郎・・・!」


コイツ・・・腹いせに店で一番高い物を10皿も・・・!奢るって言った手前払うには払うが・・・金足りるか!?慌てて財布を確認する。一万円札が二枚・・・ビーフステーキ皿1980円税抜き。うん、足りないね!



数十分後、白銀は満足そうな顔で軽く頭を下げ言い放つ。


「ごちになりまーす」

「くっ・・・今日は解散だ。引き留めて悪かった」

「じゃあお先に失礼します。また奢ってくださいねー」


最後は笑顔で去って行きやがって・・・。俺は仕方なしにレジに向かう。そしてレジの店員に


「あの、ちょっとお金が足りなくて・・・。すみません。金を下ろしに行くので財布とスマホと保険証を置いてくんで、少し待っててもらえますか?」


とかなり恥ずかしい思いをしつつ、ファミレスを出た。


ちくしょう!!白銀!!明日の作戦楽しみにしてやがれ!!


















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