第12話
黒宮は俺を見つけるやいなや走ってきた。あれ?想像してた反応と違うぞ?白銀はというと黒宮が走り出したのを見て下がっていったようだ。一応、周囲をそれとなく探ってはみるが、白銀の姿は確認出来ない。この長い階段を登ってすぐ降りたのか。ご御愁傷様。
「本田さん。この前は申し訳ございませんでした。本田さんのおっしゃたことは正論で、私の身を案じてくれたものだと今は思っています」
「参ったなー」
頭を下げる黒宮。先に謝られてしまった。彼女にも悪いところは有ったかもしれないが彼女は未成年。間違うこともあるだろう。一方俺は大人だ。彼女の身を案じてと言い訳したところで泣かせたのは事実。謝るべきは俺のはずだ。
「その時の私は何かおかしかったのだと思います。事実を言われて、会ったばかりの人に怒って、愚痴を言ったり・・・誠に申し訳ありませんでした」
「分かった。謝罪を受け入れよう。元々怒っても無いしな」
「ありがとうございます!」
俺の言葉に黒宮は一瞬嬉しそうな顔を見せ深く頭を下げた。何が嬉しいんだ?嫌われたと思ったらそうでもなかったって感じか?だとしたら俺と同じだな。俺も嫌われたと思ってたから。
「なら次は俺の番だな」
「どういうことでしょうか?」
黒宮はよく分からないといった表情をしている。
「黒宮、この前は俺も言い過ぎたわ。ごめんな」
深く頭を下げる。社会人として接するなら、敬語で畏まった謝罪をするべきかもしれないが、それはいけない気がした。俺と彼女の自覚は関係ない、二人とも悪いところがあり、二人ともそれを謝罪し、許された。これでお互い様だな。ここでへたに俺の方が悪い事をしたから謝るなと言っても彼女のためにもならないし。
「本田さんは何も悪いことは・・・」
「せっかく会ったのにそんな謝罪がどうのこうのだらだらと話しても仕方ねーだろ」
無理矢理、話題を打ち切る。
「それよりさあ、門限とか、大丈夫なの?」
「門限は6時半までなのでまだ時間はあります」
時計を確認する。現在5時15分くらいだった。まだ時間はあるけどさあ・・・やっぱり門限はあるし早いんだな。
「家は近いの?」
門限までに家に返さなきゃいけないからな。ストーカーから本人に直接聞く不審者に進化したわけではない。
「知らなかったんですか!?」
「俺、最近ここに越してきたんだよ」
「黒宮家はこの地域一帯を守護する役目を担っている陰陽師の家系です。少しこちらへ」
黒宮に言われるまま歩き階段の手前で止まる。隣の黒宮がどうぞこちらを御覧くださいとでも言うようなガイドのジェスチャーをしている。
「この階段を登るときは気づきにくいですが・・・」
指された方向に目を向ける。学校からは300m位離れているだろうか。和風建築のそれはここからでも容易に分かった。広い、とにかく広い。広さで言えば学校より少し狭い位の敷地面積だ。かなりの広さを持っていて、その広さを全て白い塀で囲んでいる。何て言うか、あれだな。咲耶と見た極道映画の屋敷に似てる。
「でかい家だな・・・陰陽道名家の連中は皆あんな家に住んでんのか」
「私は他の名家に会ったことが無いので分かりませんが、家は広い方だと思います」
「ふーん・・・」
あそこが家だとするとこの神社からなら15分程度か。聞きたいことは沢山あるんだが今日は1時間と少ししか時間が無いから、まともに聞けねーな。しょうがない。今日は会えた事に喜んでまた次の機会にゆっくり話すとしよう。
「黒宮、携帯持ってる?」
「一応、持ってはいるのですが、使い方があんまり・・・」
「連絡先交換しとこうぜ。連絡取れないと不便だし」
「それは賛成なのですが・・・えーと、あれ?変な所押しちゃった」
おばちゃんか!機械に疎い人が言う変な所押したは大抵変な所ではない。何だ、お母さんに次いでおばあちゃんって。このままだと家族コンプリートしちゃう勢いだぞ。俺は黒宮のスマホを借り受けパッパッと連絡先とメッセージアプリをダウンロードして自分を相手に追加する。
「このメッセージアプリに白銀追加してもいいか?」
「白銀君ですか?」
「アイツ、機械詳しいんだよ。それに親切だしな」
「彼が親切なのは私も知っています。困ってる人がいたらよく手伝っているのを見かけます」
おや?白銀、以外と好印象か?
「携帯とか機械の使い方、困ったら白銀に聞いてみるといいぞ」
「そういう理由なら」
見てるか!?白銀!!これはナイスアシストだろ!?感謝しろよ感謝!!
「異世界、行く気あるんだよな?」
携帯の連絡先を交換して数十秒後、軽い雑談のつもりで尋ねた。
「勿論です!!・・・私はまだ未熟ですが、それでも・・・」
黒宮の言葉は最初は威勢が良かったものの、段々小さくなっていった。勢いで言ったが本心では自信が無いのだろう。
「お前の意志なんだな!?」
「はいっ!」
魔物を討伐したい。彼女がそう望むならそうするべきだし、そうさせるべきだ、俺はそう感じた。だが、今の彼女の実力では死ぬ可能性も低くない。俺は黒宮に死んで欲しくない。ならどうするべきか、そんなのは決まっている。
「黒宮!!今からお前は俺の弟子だ!!」
「ええっ!?」
俺が鍛えればいい。俺が彼女を鍛えて、陰陽師として自信を持てるように、命を落とさないようにすればいいんだ。
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