第22話

「はあー」


目の前で項垂れてため息をこぼしているのは白銀翼、俺の友人だ。もっとも向こうはそうは思っていないみたいだが。今俺達はカラオケに来ている。歌うのが目的ではなく白銀から秘密の相談があるらしいのでこの監視カメラもないカラオケ屋に来たという訳だ。


「何かあったのか?」


項垂れている白銀に話しかける。白銀はその姿勢から顔だけこちらへ向いて話し始めた。


「俺達って会うの何回目でしたっけ?」

「じゅう~、何回だっけ?」

「結構会ってますね・・・」

「暇なんだな・・・お互い・・・」


今日は黒宮との最初の修行から3週間ほど経った土曜日だ。黒宮とは彼女の要望通り、ほぼ毎日修行をつける日々だ。修行内容は主に大鴉の召喚を一人で行う事を目標に、それに向けて試行錯誤の連続だ。それが昨日遂に喚び出すことに成功した。二人で大いに喜びちょっとした会でも開こうと思ったが、黒宮の門限が来てしまったのでまた今度ということになった。というのがここ3週間の修行のあらましだ。


「はぁ・・・よし」


白銀がぐだーっとしていた体勢から起き上がり、こちらに顔を向ける。


「ちょっと相談いいですか」

「おう、何でも来い」


白銀の顔はいつになく真剣だ。相談とは何だろうか?雰囲気から察するに重要な事の様だが・・・


「実は・・・黒宮との進展がまるで無いんです・・・!」

「お、おう?」


真剣な顔で何を話すのかと思ったら恋バナかよ!身構えて損したな。しかし良く考えると男子高校生にとって誰が好きだのかわいいだのそんなのは確かに重要だろう。真剣になるのも分からなくもないな。まあ、あくまで漫画とかアニメで知った話なんだけども。


「聞いてくださいよ!!勇気を振り絞って俺から話かけたりメッセージを送ったりしてるんです!だけど・・・・!学校では塩対応何ですよ!それに・・・」


白銀が俺を睨み付けている?何で?


「それにメッセージだと黒宮はアンタの名前ばっか出すんですよ!!頼りになる、優しい、良い人だって!!」

「えー、マジかー」

「ニヤニヤしないでくださいよ!・・・質問なんですけどアンタら本当に何もないんですね!?」

「・・・何もないよ」

「怪しいな・・・なんだ今の間は」


確かに白銀にとっては意味が分からないし付き合ってんじゃないかって思っても不思議じゃないが、ちゃんと理由はあるんだ。学校で塩対応なのも自分の事情に巻き込まないようにだと思うし、メッセージの件は・・・まあ、うん。黒宮も裏では褒めてくれてたんだなあ・・・こんな駄目師匠を。嬉しいなあ・・・じゃなくて。共通の話題が俺だからってだけだろ。多分。



「冗談は置いといて・・・俺達には何もない。これは断言出来る。考えてみろよ。22と15,6だぞ?犯罪だし普通に対象外。・・・後お前にだから言うけどな・・・俺は年上のお姉さん系が好きなんだ」

「そうなんすか・・・」


一応は信じてくれたかな。性癖開示が効いたと思う。


「はぁー」


白銀はまた項垂れている。そのだらーっとした状態のままポツポツと喋り出す。


「実は神社の時、隠れて覗いてたんですよ。本田さんの事はよく知らなかったし、送り出した手前、黒宮が心配だったんで」

「マジか」


幸い白銀は項垂れているのでこちらは見えていない。俺は動揺をちゃんと隠せているだろうか?あの場に居た、だと?俺はあの時周囲の気配を探った。白銀と思しき反応は無かった。


疑われるのは3つの可能性だ。


一つは俺の周囲の感知が未熟だった。これは全然あり得ることだ。あまり気配察知を外した事は無かったがそういう時もあるだろう。


二つ目、白銀が霊的原石の場合。才能が開花する可能性がある人物にダイヤモンドの原石という言葉を使うが、それは退魔士にも当てはまる。生まれながらに霊力が高い人間は霊的原石と呼ばれ退魔士として高い能力を発揮する。そのため上の連中は見つけ次第全力で囲い込むのだ。だが白銀が霊的原石である可能性は殆どあり得ないだろう。何回か会っているがそんなような言動は一切見られなかった。


3つ目は白銀が敵対組織の人間の場合。例えば陰陽道の連中、特殊な退魔士の俺を潰しに来た可能性。・・・ないな。ないない。そういう素振りは全く見せなかったし、なにより目の前の少年を疑いたくない。こういう所が子供って言われんのかな・・・



「どうしたんですか?急に黙り込んで」

「ちょっと考え事をな」


考えても考えても俺の頭じゃ答えは迷宮入りするだけだな・・・一旦この話は胸にしまっておこう。


「それで・・・今後の立ち回りの相談ってか?」

「まあ・・・そうです。俺は一体どうすれば良いのか?全く分かりません。何せ童貞ですから」

「奇遇だな。俺もだ」

「はぁ!?」「危ね!」


動揺からか白銀が持っているグラスを落としてしまったので急いでキャッチする。


「アンタ童貞なんですか!?あんな手伝ってやるぜとかアドヴァイスだ、とかのたまわってたくせに!?」


軽くキレている白銀。それもそうだ。歴戦の猛者感を出していた相手が自分と同じ、いやそれ以下の雑兵だったのだ。だから彼の怒りも最もだ。だけどさ、俺そんな格好つけて言ってないよね?


「い、今は関係ないだろ!!今はお前の話だ!!」

「え~」

「とにかく!!今やるべき事は今後どう動くかを話し合う事だろうが」

「そう言われれば、そうですけど・・・」


よし。乗り切ったな。元はと言えば自分でカミングアウトしたのが問題だ。つい流れで言ってしまった。


「ん?後5分で時間らしいぞ」


2時間予約をしたのだが直ぐに時間が来てしまった。あれだな。美味いからってメニュー頼みすぎて食うのに時間が掛かった。実際美味かったし満足だけれども。


「まだ話は終わってないんですけど」

「延長するのもなぁ。そうだな・・・お前ん家は・・・どうなんだっけ」

「無理っすね。部屋汚いんで」


前に白銀は祖父と二人暮らしだったけど祖父が亡くなって今は独り暮らしと言っていたな。白銀に何かあるとしたら祖父が関わっている可能性も無くはない。家に行って調べようかとも思ったが断られちゃったな。


「じゃあ、俺ん家に行くか」

「いいんすか?」

「お前が良ければ」

「じゃあ、お邪魔させてもらいます。変人のアンタの家は見てみたいし」

「じゃあ、行くか!」


俺達はカラオケ屋を出て俺の家に向けて歩き出す。流れで俺の家になったわけだが、いや自分で言い出してたな。ともかくとして他人の居ない場所でというならカラオケよりも自宅の方が適している。だからそれはいいんだが・・・大丈夫だよな?未成年とはいえ男だし、同意もある。大丈夫だ。多分。


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