第47話 ファミレス

「遊星君、遊星君!!」


 帰り道、校庭に行くと、秋根が待っていた。


「お兄ちゃん、僕は待ちわびたのですよ」


 そう、ラノベキャラが合体したような声で。

 周りの人たちが秋根をじっと見ている。その恵まれた容姿からアニメキャラっぽいボイスを出してるのだから、注目を集めるのは当然のことだが。


 ……秋根って意外と声優とか向いてたりするのか?

 俺はふと思った。

 結構全部が心に来るものだからだ。それに最近の声優は顔を求められるが、秋根はそこに関しては文句なしだ。


 まあ、とはいえ思っただけだが。


「じゃあ、行くのです」


 そう言って秋根は俺を引っ張っていく。


「それにお兄ちゃん、今日は行きたいところがあるのでありますよ」


 そう言った秋根はある建物を指さした。

 それは、ファミレスだった。


「いいけど、どうして」

「ふふふ、それはね」


 意味深だな。


「ちょっと話したいことがあるからなの。いい?」


 勿論断る理由もない。ただ、急で少し怖い。


「ああ、分かった」


 俺はそう答えた。


 そして、中に入り、互いに料理を注文した。


「それで話したいこととはなんだ?」

「そうね、私ね今日嫌な事があったの」

「おう」


 この妹口調、少しイラつくな。


「まあ、そんなことは無いのだけどね」

「どういうことだよ」

「さっきのはただ言ってみたかっただけ。それで、ここからが本題なんだけど」


 まどろっこしいな。

 秋根は軽く咳ばらいをした。


「ただ、今日は一緒に来たかったからって言うのが本題」

「引っ張っておいてそれかよ」


 楽しいのならいいけど、少し疲れる。


「えへへ。でも実際今日会えなくて寂しかったからさ。一緒に楽しみたいのよ」

「そうか」


 確かに常に一緒にいたから、授業中少しだけ怖かった。


「それで、今日の出来事を共有していこうの会なのですー!!! わーい!!」


 そう言って秋根はセルフで拍手をした。

 それに合わせて俺も拍手をする。


「あ、ドリンクバー取りに行っていい? お兄ちゃん」

「ああ、いいぞ」


 くそっ、やはりたまの尾にいty何口調にはなれない。

 一応秋根の方が誕生日は早かったと思うけど。

 まあ、俺は些細な問題に過ぎない。何しろ、二週間しか変わらないのだから。


「さてと」


 俺も取りに行くか。


「秋根何をしているんだ?」


 そこには、オレンジジュースにぶどうジュースを入れている秋根がいた。


「何って、混ぜてるんだよ、兄ちゃん♪」


 そう、笑顔で言う秋根。


「はあ」


 ため息をつき、


「普通に飲んだ方が美味しくないか?」

「夢が無いこと言うじゃん」

「夢あるか?」


 美味しいんなら、ファミレス側が一押しブレンドとして紹介してると思うが。


「っそれで、お兄ちゃんも試す?」

「俺は試さない」


 不味そうだし。


「ええー、それじゃあ、何にするのよー」

「俺は爽健美茶にする」

「それ、一番つまらない選択肢じゃん。それだったら水でよくない?」

「よくないだろ」


 水よりもはるかに美味しいし。


「はあ、ドリンクバーの良さが分かってないねえ、お兄ちゃん」

「うるせえ」


 そろそろ黙って欲しい。


 とりあえず後ろの雑音を無視して、爽健美茶を入れ、そのまま席に戻る。

 茶葉を入れてアイスティーを作るのもいいが、今は少し面倒くさい、

 そして席に戻ると、


「じゃあ、飲むね」


 そう言って秋根が得体のしれない液体を飲みだす。


「うん、かー美味しい!!」


 そう秋根は親父みたいな声を出す。


「それ、本当に美味しいのか?」


 やせ我慢とかじゃなくて。



「うん。美味しいよ。遊星君もどうかな」

「いや、俺はいいよ」


 それを飲む勇気なんてない。

 それよりも前に置いている爽健美茶の方がはるかにおいしそうだ。


「美味しい」


 俺は爽健美茶に対して、そう感想を述べた。


 そしてそのタイミングで、店員さんが「ポテトです」と言って出してきた。


 おお、美味しそうだ。


「じゃあ、いただきまーす!!」


 そう言って秋根はポテトを手に取り、そばの明太子マヨにつけて食べる。


「んー! 美味しい!」


 そう言って笑顔で笑う秋根。その顔は様になる。


 いや、よく考えたら秋根がポテトを食べている姿を独占できるのって幸せだな。


「こうしてると、昔二人でポテト食べた時を思い出すな」

「あー、あれね」


 俺たちは過去に二人でハンバーガ屋さんにお小遣いで、ポテトを食べたことがある。

 その時ンポテトの味は今でも覚えてるくらい絶品だった。

 秋根が、『遊星君、連れてきてくれて、ありがとう』なんて言ってたっけ。

 まあ、その後優子に置いてきたことをぐちぐち謂れ、お母さんからは「デートだ」とか言われたな。

 その時はデートの意味はよくは分かっていないかったが。


「じゃあ、あーん!」



 そう言って秋根がポテトを俺の方へと差し出してくる。俺はそのポテトをゆっくりと噛んでいく。

 うん、中々美味しい。

 祖のは見ごたえ、中々美味しい。


「このシチューション、中々だな」


 今までのあーんなんかよりも、はるかに楽しい。

 なんだろう、秋根のポテトをつまむ手が、綺麗だからなのだろうか。

 だめだ、なんだか思考が変態寄りになってしまっている。


 こんな思考じゃだめだな。


「お返しして」

「ああ」



 そして俺はポテトを一つつまみ、秋根の方に伸ばす。すると、秋根はパクっと、そのポテトを食べた。


 秋根の口がポテトのついでに俺の手も食べた。

 そして、そのよだれが俺の手を伝う。

 何なんだろう、この感触は。

 秋根の口の中を一瞬触れたことが不思議で。


「すまん秋根。ちょっと、変な気持ちになりそうだ」

「なら、がんがんなってよ」

「あ、ああ」


 なるほど、秋根からしたらそこは織り込み済みなのか。

 そして秋根はまた、「今度は私に」と言ってきた。俺はそれを聞き、秋根の口の中にポテトをぶち込む。

 ああ楽しい。


「これがファミレスのよさなんだな」

「ええ、じゃあ、がんがん頼もう!!」



 そして秋根が次々と料理を頼んでいく。

 このお金は勿論秋根から出てるので、俺からは異論を言ったりはしないが、段々と二人で食べられるのか分からないくらいになった、


「そろそろ頼むのやめようぜ。食べれなくなっちゃう」


 そう俺が言う。すると秋根も「確かに」と言って頼むのをやめた。


「本題なんだけど、今日どんな感じだった?」


 学校で、という事だろう。


「秋根とイチャイチャしすぎて、一部男子から反感を買ってたぞ」


 主に、仁だが。


「そ、まあそれが私の作戦だから」

「作戦って」


 まあ、言わんとしようとしていることは分かるけど。


「でも、あれだといつか俺が刺されるぞ」


 例えばあの厄介オタクとか。


「大丈夫でしょ」

「そう言う問題じゃない」

「なら、私とイチャイチャしなくていいの?」

「それは……いやでも、学校でまですること無いだろ」

「でも、僕はお兄ちゃんとイチャイチャしたいのです。ダメなのです?」



 ぐっ、こういわれると弱いな。

 断れなくなる。


「はあ、分かったよ」

「やった!!」

「あと、そうだ。仁がお前と喋りたがってたぞ」

「仁君って、いつも遊星君の近くにいる人?」

「ああ」

「ふーん」



 そんなに興味なさそうだな。


「まあ会ってもいいよっていう感じだね。遊星君が会って欲しいんなら」

「どういう態度だよ」

「だって、私は遊星君以外に興味ないもん」


 そう笑顔で言う秋根。確かに秋根の教室には友達っぽい人はそこまでいなかった気がする。


「そう言えば俺以外の友達はいるのか?」

「友達って言えるのは、優子ちゃんくらいじゃない?」

「教室では?」

「一人で、ラノベ呼んでる」

「教室でのお前はあまり知らなっかったが、ボッチだったんだな」

「いいでしょ」


 まあ、俺はお前がいいなら何でもいいけど。


「あと、仁に女を紹介して欲しいと言われてるんだが、おすすめの人とかいるか?」

「いないよ。手か知らない」


 矢はrか、あまり期待はしていなかったが。


「それで、優子を紹介しようかと思うんだが、どう思う?」

「何言ってるの?」


 案の定の反応だな。


 普通に考えたら絶対ダメな選択肢だ。


「まあ、そうだよな」

「そうでしょ。てかわたし嫌だよ、遊星君の友達と、遊星君の妹である優子ちゃんが付き合うなんて」


 確かに、どう接したらいいのか分からなくなる。


「なら、仁にお勧めの相手を見繕ってくれないか?」

「だからいないわよ」

「そっか、じゃあ謝っておくか」」

「それが言いね。あ、でも」

「でも?」

「ラノベキャラに恋したらいいよとだけ言っておいて」

「言えるか!! でも、一応優子には聞いとくわ。いい女子いないかって」

「うん」



 そしてついに料理が来たので、俺たちは話もそこそこに、着た料理をどんどんと食べていく。

 どれもこれも美味しい。

 ファミレスというのは、安くそこそこのおいしさというイメージだ。現に個々の料理も、平均的に500円と破格の値段だ。

 それなのに十分な美味しさだ。


「美味しいね」

「ああ、そうだな」



「ね、さらにいいことがあるんだよ」

「なんだ?」



 そして秋根はカバンの中からラノベを取り出して来た。

 あれ、今ってまだ制服だよな。


 あいつ、学校にまで持ってきてたのかよ。


「ここならラノベもよみやすいんだよね」

「まさかここで読むつもりなのか?」

「え? そうだよ。それ以外にあるの?」

 っ不思議がられた。


「でも、家じゃないんだし」

「でも、周りにあまり人いないよ。空いてるし、お金つかtぅてるなら、自由に本読んで悪い理由はないでしょ」

「確かにな」

「それに、人が増えてきたときにすぐに立ち退いたらいいだけの話だもんね」


 確かに道理にかなっている。

 確かにと思い、秋根から渡されたラノベをじっくりと読む、暇もないうちに、優子からの返信が来ていた。


「そう言えば送ってたな」


 そう呟き、メールを見る。すると、朱音ちゃんは彼氏が欲しいなーって言ってたよ」そう書いてあった。


 なら、ちょうどいいじゃねえか。


「秋根、仁にとっていい相手が見つかったかもしれない」


 そう言って俺はスマホの画面を秋根に見せる。


「それいいかもね」


 そう言って秋根は笑った。

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