第21話 レースゲームとラノベ布教

 レースの内容としては、俺と秋根が二人で一位を争うという形になった。優子が障害物に引っかかりまくっていたからだ。


「何やってるんだよ」


 見ていられず思わず優子にそう言った。


「お兄ちゃんうるさい! 歌下手なくせに」

「それは関係ねえだろ」


 そんな暴言を言う脱落確定はほっといて、秋根との一騎打ちだ。


 秋根もやはりというべきか、なかなかミスってくれない。

 このゲームは速度を上げるよりもミスを少なくする方が重要なのだ。


 ミスらないように画面に集中する。


「遊星くんミスってください! なのです」

「俺はミスらねえよ」


 そして激闘が始まる。優子が「私にもかまってよ」とは言うが、流石に半周遅れの中優子が逆転勝利するのは厳しいだろう。

 それにさっき暴言言ったし……。


 そしていよいよゴール付近にまで来た。ここが最後の正面場だ。レース場にはゴール付近ということもあり、沢山の障害物がある。

 間違いなくここでミスした方が敗者だ。




「やったのです!!」


 俺は負けた。最後の障害物ラッシュで引っかかってしまったのだ。しかも最悪な事に、一度ミスったらその流れでどんどんとミスを繰り返していった。

 一位を争ってたはずが、終わってみたら形だけ見たらボロ負けという形になった。


「悔しいな」

「でもお兄ちゃん二位だからまだいいじゃない。私三位よ」

「それはドンマイ。……早々に優勝争いから外れたやつ」


 まだ許してはないからな。


「むー、ムカつく。お兄ちゃん!! 次デュエットしよ! 恥かかせてやりたいし!」

「あ、デュエット? 私もやりたいのです!!」

「俺はやるとは言ってねえだろ」

「やろうよ!」

「やりたいのです!」


 そして俺は二人とデュエットすることになった。


 まずは秋根とだ。秋根とはまだ実力がかけ離れているわけではないから行ける。

 そして歌は流石になのです口調ではないみたいだ。

 そして思ったよりも楽しい。足を引っ張っている罪悪感があまりないからなのかな。


 そして次は優子とだったが、それは完全に無理だった。素の実力が違いすぎて、足を引っ張るというレベルではない。もう、殺してくれと言いたいくらいだ。


 ……恥をかかせたいという言葉通り、俺は恥をかく羽目になった。



 そしてその後も全力で歌った後、俺たちはカラオケ店を後にした。


「ふう、疲れたのです」

「まあだろうな」


 カラオケの疲れもあるだろうが、恐らくなのです口調の疲れもあるだろう。


「それで秋根どうだったの? なのです口調の効果は」

「えっと普通なのです。でもするの難しかったのです」

「秋根、ちょっとやめてくれない? 恥ずかしいから」


 確かに優子の言う通り、周りの人にちらちらと見られている。まあ町中になのです口調が居たらそりゃあ見てしまう訳で、この人たちに罪はない。

 しかし、このままだと変なやつらという印象を持たれる。


「分かった……のです」

「今度は抜け切れてないのか?」

「そうみたいな……そうみたい!」


 今度は逆の意味でギリギリセーフだな。


「あ、そう言えば二人とも……今日泊まっていい?」

「え? 急に!?」

「二人の愛の巣を邪魔するのは忍びないけどね」

「私は別に邪魔されるとかは思ってないけど」

「そう、ならいいってこと?」

「うん! もちろん」

「おい! 秋根」


 まさか妹が止まりに来るのか?


「だって、お兄ちゃん。家にいた時は五人で仲良く寝てたじゃん」

「うるさい。これとそれは違う話だろ」

「ええー。いいじゃん。私と秋根とお兄ちゃんで寝ようよ」

「そうだよ。いいじゃん」

「……分かったよ!」

「やった!!」


 そして例のごとくハイタッチをする。

 ……こいつらやっぱり仲良すぎない?

 もう俺と秋根よりも仲が良いような気がする。

 本当に五年間あってなかったのか? もう、実は俺に内緒で結構あってましたって言われたほうが信じそうだ。

 というか優子に至っては秋根の恐るべき性格変化にあまり突っ込んでないし。




 そして家に帰った後、秋根が優子を自分の部屋に呼んだ。優子に自分のラノベを布教するかららしい。

 つまりはこれで優子がはまったら、俺が間接的に妹に布教したという流れになる。


 そして優子と秋根が二人でいる中手持ち無沙汰になった俺は、俺の部屋に行き、ラノベを読む。


 ただ、暫く立ったころ、秋根からお呼びがかかった。


 そして秋根の部屋に向かうと、


「遊星くん助けて。優子が全然ハマってくれないの」

「それで俺を呼んだのか……」


 俺にも布教の手伝いをさせようと。


「お兄ちゃん、全然面白くないよ。ラノベ」

「それを俺の前で言うなよ」

「だって、秋根本気で布教してこようとするんだもん。私にはお兄ちゃんしかいないの」


 むむ、なんとなくいい気分になる。この小悪魔妹が俺を頼ってくるとは。


「……全部読んでみたらどうだ? そしたらハマるかもしれないぞ」

「お兄ちゃん!?」

「だって俺は読ませたい方だし」


 それにこんなこと言ったら性格悪いが、優子が苦しむ姿を見たい。うん、性格悪いな。


「だから諦めろ。無駄な抵抗をするよりも受け入れたら気持ちが楽になるかもしれないぞ」

「読んだら絶対中二病になるじゃん」

「……おい、どこが中二病なんだよ」

「そう言うセリフがに決まってるじゃない」


「……どうする秋根?」

「どうしようか……」


 目の前にはラノベを拒む妹一人。


「もうあきらめるか?」

「いや、あんな芸術作品を読まないなんて損な事優子にはさせられない」

「おう……そうか」


 一瞬お前もその一人だったんだぞと言いたくなった。


「だから優子ちゃん。ラノベ呼んで?」

「目が怖いよ? 秋根」

「読んで?」

「嫌だよ」

「読んで?」


 これ、秋根ゴリ押しに入ってやがる。経験者である俺は分かる。このモードの秋根はイエスと言わない限り泊まらないと。……優子が助けを求めるように俺を見つめている。諦めろ、そうなった秋根は止められない。


 そして後に残ったのは、涙目にラノベを読んでいる優子だけだった。

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