第22話 料理

 ……ラノベって泣きながら読むものだっけ?

 そう泣きながら読んでいる優子を見て思った。


 俺も優子に読めと言った一人なのでこんなこと言える立場ではないが、ラノベって楽しく読むもののはずだよな……少なくとも強要されて読むものじゃないよな……。


「秋根……流石にやりすぎじゃね?」


 その瞬間、優子が願望の目をこちらに向けてきた。


「やりすぎじゃないよ? だって、ラノベを愛してもらわないと」


 あれ、秋根ってこんなんだっけ、なんかラスボスみたいな目をしてるんだが。


「秋根落ち着け。ラノベを人から読むことを強要されて面白く読めると思うか?」

「思うよ」

「思わないでくれ、それは」

「なんでよ!」

「だって、そりゃあ今の優子が泣きそうな顔をしてるし……優子が面白そうと思うタイミングまで待ったらどうだ?」

「ううん、なんかそれじゃあダメなの。せっかく私もハマったから、優子にもハマってほしいって思っただけなの。でも、興味のない物って永遠に読まないじゃない? だから強制的に読ませたってこと」

「なるほどな」


 まあ秋根の言いたいことも分かる。秋根も最初は嫌悪感を持っていた側の人間だし。……


「分かった、俺に任せろ」

「え?」


「大丈夫だ。もう読まなくても」


 優子に優しく話しかける。


「ちょっと遊星くん!」

「いいから……俺はそんなもの人から強要されて読むものじゃないと思っている。それに……今の俺なら優子を助けられる。優子はどうしたい?」

「読みたくない!」


 まあそう言うだろうとは思っていた。さて、


「じゃあ、今は読まなくていい。だけど、これは次回への宿題だ。俺があげた本を読めるんだったら読んで欲しい……それくらいならいけるか?」

「う……うん」

「気が向いた時でいいから、次に俺たちと会う時までに読んで欲しい」

「……分かった」


 ……これで丸く収まったかな。


「優子。これ絶対面白いから絶対呼んでよね」


そう落ち着きを取り戻した秋根が優子に三冊ほどラノベを渡す。俺からも二冊ほど手渡した。


「分かった」


 そして新たに思ったことが一つ。

 なんとなく今の優子は大人しめだ。先程の問答で疲れてしまったのだろうか。そして優子はそばにあった少女漫画を今のして、読み始める。


「ところで、遊星くん?」

「なんだ?」

「さっきの言葉が本当なら、少女漫画も慣れるはずだよね」

「え?」

「だって少しずつならいけるんでしょ?」


 くそ! これは完全に墓穴を掘ったな。


 そして笑顔で秋根に少女漫画を手渡される。


 優子が少女漫画、俺がラノベを読む方が完全に互いに得な気がするんだが。

 だが、言ってしまったことは仕方ない。無心になりながら少女漫画を読む。


 仕返しに秋根にもラノベを読ませたいところだが、今の秋根にとってはそれがご褒美になってしまう。

 くそ、どうすることもできねえ。


 鬼の根性で読み進めること一五分。何とか一話を読めた。そして一話読めたし許してくれとの思い読むのをやめた。すると、



「え、読むのやめるのの?」


 と秋根が言った。


「そしたら少しずつ読むという論理が破綻するじゃねえか。もう俺はこれが限界なんだよ」

「分かったよ」


 何とか許されたみたいだ。


 そしてラノベを読む。




それから一時間くらい経った後、


「ねえ。お腹減ってきてない?」


 そう優子が言う。確かにお腹がへって来たな。


「じゃあ、作くろっか」

「そうだね。秋根なに作る? それとも今日は私が作っちゃおうか?」

「いいね! 一緒に作ろう」

「お兄ちゃんも一緒に作る?」

「いや、遠慮しておく」


 料理は下手だからな。だが、もう俺にはこの後の流れは目に見えてわかる。


「遊星くんも作ろうよ!」


 ほらな。こうなるに決まってるんだよ。


「分かったよ」


 もうここで断ってもいつもの流れになるだけだ。それよりは無駄なエネルギーを使わない方が良い。

 女子二人になったことで、俺の権力が弱くなってしまってる。せめて兄貴がいたら……。


 いや、無い物ねだりしても仕方がない。今は料理を作ることに集中しなければ。

 そして、台所に連行? された俺は鍋を混ぜてと秋根に言われた。良かった。もしニンジンやら玉ねぎやらを斬れと言われたら、困りに困っていたところだ。


「秋根、これ何を作るんだ?」

「スープよ」

「スープって……メインデッシュじゃなくて?」

「だってそれは優子が作ってるし」


 その言葉を聞き、優子の方を見ると、確かに肉をこねていた。ハンバーグとかか?


「だから私たちは一緒に!」


 秋根が俺の手をつかみぎゅっと握った。


「おい!」

「ふふふーん」


 そう言って、まな板の元に戻り、再び肉を切り始める。


 そしてその後秋根の切った具材を全て入れて、俺が混ぜる。


 そしてそれを秋根がただ見つめる。まっすぐに。どうやら俺の混ぜている姿をまじまじと目に焼き付けていたいようだ。

 よく考えなくても俺は五年前までも料理を作ったことがなかった。だから、新鮮なのだろう。

 ちなみに一人暮らしの時は全てレトルトやカップ麺で済ましていた。


「ツーか暇なのか? 秋根」

「だって、後水を入れたり塩胡椒や味の素を入れるだけだもん。で、せっかく時間が出来たんだったらという事。あ、もしかして私に求めてることある? だったらしてあげるよ」

「求めてることって何だ?」

「それは決まってるのです。私にこう言ってほしいのですよね」

「……」


 単に秋根がそれにはまってるだけだろ。


「じゃあ、キスをしてほしいのですか?」

「ちょっ馬鹿な事を言うな」


 そもそもキスしたことないのに。


「冗談なのですよ」

 冗談でよかった。じゃなくて、


「別になのです喋りしなくてもいいんだぞ」


 俺が求めているわけじゃあるまいし。


「私がしたいのです」

「ちょっとそこイチャイチャしないで!!」


 んなこと分かってるわ。


 そしてに十分後、ご飯が食卓に並んだ。俺と秋根が作ったスープと、優子の作ったハンバーグ。どっちもおいしいものになっていること間違いなしだ。


「「いただきまーす」」「いただくのです」


 その言葉で俺たちはご飯を食べ始める。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る