第39話 コミックマーケット
翌日、秋根と優子と一緒に新幹線に乗って会場に向かう。
新幹線とはいえ電車に乗る時間は長い。
そして、会場には約付かなければいけないため、早起きだ。眠い。
そして、電車に揺られること二十分。秋根が唐突に俺の顔を見る。そして一言、
「遊星君、何か言うことは無いの?」
「え?」
彼女の顔をじっと見る。
一体何なのだろうか。
「これでも、気づかないのです?」
……なんだ?
顔を近づけているという事は、顔に変化があるのか?
ん?
「メイク?」
「やっと気づいたのです」
確かによく見れば、秋根のメイクに気合が入っている。
これはおそらくコスプレ用のメイクではなく、普段使い用のメイクなのだろう。
秋根は外に出るときには軽いメイクはしていた。でも、確かに今日は前までとは違う。
「せっかく本気のメイクしてきたのに、ひどいのです」
「いや、コスプレの前に本気でメイクしてくるとは思わねえだろ」
「コスプレ前こそが本気なのです。私の髪の毛も、服も、メイクもすべてが本気なのにひどいのです」
「ちなみに私も気づいてたよ。秋根がメイクしてること。……むしろ全然気づかないお兄ちゃんに少しイライラしてたんだから」
「……まじか」
俺だけかよ。気づかなかったのは。
「コスプレについて調べてるついでに、メイクにも興味を持ったの。本当に、ここまで気づかないとは思ってなかったけど」
「悪かったって。もう俺を責めないでくれよ」
「お兄ちゃんは女の敵だね」
「もう容赦してくれませんか……」
マジで反論ができないところが辛いところだ。
「ねえ、この空気の悪さ、どうするの?」
「うるせえ」
俺だってしたくてしたわけでは無い。
「つーかさ、メイクなんてどうせすぐに落とすだろ?」
「む、別にそれでいいのですよ。どうせ新幹線で一時間以上は乗ってるのですし」
そう言って秋根は俺の方に顔を向ける。
「まさか、見せつけようと?」
「決まってるでしょ」
そう言って微笑む秋根。
「顔、赤くなってるのです」
ちくしょう、それは反則だろ。
そして、そんな秋根をじっと見る優子。
「秋根ちゃん、今度メイク教えて」
「いいよー」
「それってどうしてるの?」
「それはアイラインとか――」
メイクの話になった。そう言えば優子がメイクしている所なんてとなれば近い将来、優子はメイクもするのかな。そしたら大人の仲間入りか。
と思いながら二人を見るが、思いの外盛り上がっている。
こうなったら俺には話に入っていくことはできん。スマホでも触っておくか。
そう言えばデイリーガチャを引いてなかったのだ。
さて、引くか。
「お」
虹が空に浮かぶ。
これは所謂星五確定演出だ。
あとは、すり抜けさえしないでくれたら。
来た、再生の巫女ミラだ。
ランキング一位のキャラでもあり、俺の狙ってたキャラでもある。
「む、遊星君私よりもその女の方が大事ですか」
いつの間にか秋根が画面を見ていた。
そして急に話しかけてくるもんだからびっくりした。
「おい、これは」
「これは?」
「二次元だから」
三次元じゃないから浮気ではない。
「ひどい、私たちの会話に加わらないで、その女と遊んでたなんて」
秋根は新幹線の中としては大きめの声で言う。
「人聞きの悪いことを大声で言うな!! そもそもメイクの話にどう入って行けばいいんだよ」
周りに聞こえてないか心配だ。
「そりゃ、意地で」
「無理だそりゃ」
そんな会話をしながら、俺はミラでクエストに挑む。
「それで、強いのですか?」
「ああ、強いぞ。スキルで八十兆ダメージを出せるし、回復もスキルの
「なるほど。……それ、すごくインフレしてない?」
「まあ、十年以上やってるゲームだからな」
「私、そのキャラのコスプレしたらよかったのです」
「多分今日の会場にもいると思うぞ」
そこそこ有名なゲームだし。
「それは楽しみなのです」
そしてついに新幹線は止まり。会場に向かった。
「ここか」
大きな建物。中に入るための長蛇の列があるおそらく百人はいる。いや、もっとかもしれない。
俺たちはこう見えても四十分前に来ている。
となれば、この人たちが化け物レベルという事か。
はあ、
「並ばなきゃならないのか」
「ですね」
そして俺たちは並び待つ。
やはり超ビッグイベント。人が多い。
開場時間まで待って、そこから列が消えるまで待たなければならないなんて鬱屈だ。
「まあ、気ままに待ちましょう」
そして一時間半ほど並び会場の中に入っていく。
中に入るとすぐさま秋根は「待っててほしいのです」と言って更衣室に入っていく。多分三十分から一時間くらいはかかるだろうという事で、俺と優子は先に進んでいく。
しかし、人が多い。
人酔いしそうだ。
「まずどこに行けばいいんだろうな」
「そうだね。お兄ちゃん、まずはあそこに行こうよ」
そう優子が指さしたのは少女漫画のブースだ。
「少女漫画か……」
「もしかしてあっち行きたかった?」
指さすのはR18コーナーだ。
「なんでだよ」
「いいじゃん。行こうよ」
「優子、へんなこと言うんじゃねえ」
そんな問答を軽くして結局少女漫画コーナーに行った。
いや、最初は優子の悪ふざけだったのかもしれないが、俺の行きたいコーナーではなく、優子の行きたいコーナーに行くための策略だったのかもしれない。
実際優子は元気にはしゃいでいる。
そこにいかにもという感じの漫画が置いてある。俺は少女漫画系には疎いが、中学生女子あたりが好きそうな漫画だ。
優子は目を輝かせながらそれぞれの本をじっくりと物色している。
俺は無論興味がないからそれを見ながらスマホをいじる。
当然のことだが、女子が多いな。
皆優子みたいに少女漫画を買いに来た客なのだろうか。
ちな民協の軍資金は誘った秋根が全部払うことになっている。俺たちがねだったのではなく、秋根が自分から言ったのだ。
「お、買えたか?」
ようやく優子が戻ってきた。紙袋にはたくさんの漫画が入っている。
「それ、全部読むつもりかよ」
「に十冊くらい余裕でしょ」
「そうか」
とはいえ、まだまだ序盤。いきなりそんなに買って、荷物が重くならないか心配だ。
ん?
向こうにいる女の子、こっちを見ている?
「あれ、優子ちゃん?」
遠くから声が聞こえる。発し主は先ほどの女の子だ。眼鏡をかけた地味系の女の子だ。
「朱音も来てたの?」
ん? 知り合い?
「うん。優子ちゃんも? 意外」
「まさかここで会うなんてね」
知り合いかよ。おいおい待てよ。
これ、絶対気まずい展開じゃねえか。
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