第40話 友達

「こっちが私のお兄ちゃんね」


 優子に紹介される。それに対して俺は「どうも、遊星です」と、答えた。

 気まずい。


「どうも、優子ちゃんの友達をやってます、朱音です」

「どうも」


 そして暫し沈黙が流れた。

 何を話したらいいんだ。

 妹の親友、どうしたらいいんだ。

 学校の優子どうですか? と聞けばいいのか。

 俺には何もわからねえ。

 おい、共通の知り合いの優子、どうにかしてくれ。


「お兄さん、学校での優子を知りたいですか?」


 急に朱里ちゃんにそう言われた。

 ふう、切り出してくれて助かった。


 その朱音ちゃんの言葉に対して優子が「ちょっやめてよ、朱音」というが、効く耳を持っていないらしい朱音ちゃんは、


「お兄さん、優子ちゃんはね、いっつもまじめですよ」


 あら、優子が止めるからやばい話が飛んでくるのかと。


「点数も毎回九〇点台で、生徒会長をしてて、クラスを、学年をまとめているリーダーみたいなものです」

「優子、そんなにすごかったの?」


 よくできた妹だとは思ってたけど、生徒会長だったなんて知らなかった。


「勿論、心は乙女で、少女漫画のような恋に憧れている少女でもあります」

「ちょっ、朱音ええ」

「え、事実でしょ」

「ぐぬぬ」


 こんな様子の優子を見るのは初めてだ。

 思えば、去年から優子には会っていなかった。

 だからこそ、優子の変化には気づかなかったな。


「それと、優子ったら去年から寂し――」

「うるさい、黙ってて」


 実力行使、無理やり口を防がれてむーむー言っている朱音ちゃん。


「しかし、仲がいい友達がいて嬉しいよ。優子の兄として感謝だ」


 学校で幸せそうだったしな。


「そう言えば、朱音も来てたんだね」

「オタクとしていかざるを得ないでしょ。あ、それでお願いがあるんだけど」

「ん?」

「R15作品買いたいんですけど、買ってくれません?」


 R15か。性描写が出てくる作品とかだな。


「じゃあ、買ってあげるか」

「やった」


 そしてそんな時、インスタの通知が来た。

 秋値だ。

 見ると、コスプレの画像が貼ってある。

 すでに三百いいねがされている。

 そしてじっと見ると、半年ぶりの更新だ。

 コメント欄には驚きの声が多数上がっている。


(秋竜さん、コスプレするの?)

(美人がさらに美人になっちゃう)

(しかもこれ、コミケ?)


 とか書いてある。秋竜は秋根のインスタのアカウント名だ。


「何見てるんです?」


 朱音ちゃんがスマホをじっと見る。


「これ、秋竜ね?」

「おう、そうだ」

「有名なインスタグラマーじゃないですか」


 有名なのか。


「数年前に現れ、その美人度で有名になった人ですよ。私も好き」

「そうなのか」


 意外にファンとかいるものなんだな。


 そんなときに、秋音が、「おーい」と言いながら向かってきた。

 完全なるコスプレだ。

 もう憑依してると言っても過言じゃない。

 それを見て驚いたのは朱音ちゃんだ。



「え? 秋竜!?」

「はい、そうなのですよ」

「え、え、えー!!!!」


 明らかに驚いている。

 そんな想定などしていなかったようだ。


「だって、目の前に」


 そう言って秋根を指さす朱音ちゃん。


「初めまして、秋根改めアリジオンなのです」


 そう、秋根はキャラ名を言う。


「お、驚いたあ」

「ふふ、なのです!」


 そしてある程度の事情を彼女に話した。

 秋根は俺の彼女であること、そう言えばインスタをやっていたので、復帰したことなどを。

 色々なことをだ。


「なるほど……」


 朱音ちゃんは頷き、


「教えてよ。優子ちゃん教えてよ」


 そう優子の肩を揺らしながら朱音ちゃんは言う。


「だって、知らなかったし」

「でも一応言っといてよ」

「あーも、あんたって子は」


 強く腕を腕を跳ね返す優子。そんな彼女に対して「ひどい」と、朱音ちゃんは呟いた。



「さて、行くのです」


 優子は俺の手を強引につかむ。行先は小説コーナーか。


 そして優子と朱音ちゃんは俺たちに続いていく。


「ねえ、やっぱり目立ってない?」


 優子の言葉通り、周りからチラチラ見られている気がする。これはおそらく秋根がインスタにアップしたからだ。

 やはり恥ずかしい。一緒にいる三人はコスプレなどしていない。

 優子も朱音ちゃんもほぼノーメイク。俺なんてほぼおしゃれなどしていない。

 恥ずかしいこと紛れ無しだ。

 しかし、周りにはコスプレイヤーがたくさんいる。ブースの前にもだ。


 こりゃ、気まずい。全員がそう言うわけでは無いし、コスプレしていない人の方が多いのだが、それで気まずさが消えるわけでは無い。


 しかも、優子は朱音ちゃんと話している。

 今の秋根と話すわけにもいかない。

 インスタにあげたという事は、秋根がここにいるという事も知っている人もいるのだ。

 それに今の秋根は可愛すぎる。破壊力がやばいのだ。


「ねえねえ、遊星君」


 いや、そんなことは無かった。コスプレで作られた2.5次元の顔からいつもの秋根のテンションで話しかける。


「人多いよね」


 そう呟かれる。


「ああ、そうだな」


周りに人が多く、まるで満員電車みたいな感じになっている。


「遊星君照れてる?」


そう急に秋根が言ってくる。心を見抜かれたようでびっくりした。


「決まってるだろ。照れてない湧けねえじゃねえか。周りを見ろ」


 周りには秋根に対する視線が大量にある。

 仲には完全に性的に見ている男性もいる。それは少しムカつく。


「今のお前はスーパー美人なんだよ。だから照れてて当たり前なんだ」


 それに俺は曲がりなりにも彼氏である。


「スーパー美人って何なのですか?」


 そう言って笑う秋根を俺は直視できなかった。

 その後、俺たちはラノベコーナーについた。そこにはかわいらしいコスプレイヤーさんがたくさんいた。

 それに見とれていると隣からひと言、


「何浮気してるのですか?」


 そう、言ってくる秋根。

 まだ正直なれない。本当に別人みたいで。


「顔見てくださいなのです」


 そう言って俺の顔をこっちに向けさせる秋根。

 やめろ、

 本当に恥ずかしい。


 そして、解放された後、俺の気持ちを言ったら笑われた。

 さっきも言ったじゃないか。可愛いって。


 そして、買う。

 軍資金はたっぷりだ。

 勿論コミケだから本命は漫画だが、それでもこういったコーナーがあるのは嬉しい。

 そして、俺たちは一〇〇冊くらい総計で勝った。

 勿論、市販の本よりも高く、内容は分からないが、売られているものよりは悪いのだろう。

 だが、これはこれで、市販のラノベの、枠外の面白さがあるのかもしれない。

 そう思うと、読むのが楽しみだ。


 とはいえ、秋根はコスプレをしている以上、重い荷物を持つことはできない。

 せっかくのコスプレの総観が失われてしまうからだ。

 という事で、荷物は俺持ちになった。六割は秋根が勝ったものなのに酷いものだ。


「本当、スーツケースにしといてよかったよ」


 おかげで思ったよりは重くはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る