第38話 コミケ準備
「私、コミケに行きたい」
唐突に秋根が言い出した。
家に帰った翌日に、秋根がそう言いだしたのだ。
俺たちは今までそう言ったイベントに参加したことがない。
というかコミケの事なんて一切合切何もわからないのだ。
そんな中、まさか秋根がそう言うとは。
予想出来てなかったわけでは無い。ただ、遠いから選択肢に入れてなかっただけだ。
「しかもね、コスプレしていきたい!!」
……おい。
「それ、浮くやつだろ。お前のコスプレもプロに比べたら大したことないだろ」
「大したことあるのです」
「なら、これを見ろ」
俺は、SNSのコスプレイヤーの写真を見せる。フォロワー百五十万人超えの超有名インフルエンサーコスプレイヤーだ。
「これに比べたら秋根のコスプレはまだまだ初心者レベルだろ。だって、メイクとか、からコント化してないし」
ほとんど衣装と、ウィッグだけ。
これで言ったら寛容な方はコスプレと認めてくれるだろうが、それ以外の人、つまりプロは認めてくれないだろう。
「そっか、じゃあ、私コスプレ頑張る!!」
秋根はそう宣言し、早速インターネットをいじり始めた。
そう言えば忘れかけていたことではあるが、こいつは美人大会でも優勝したこともあるくらい美人なのだった。
美人、つまりコスプレ適正はあるのだろうな。
若干二次元感のある顔ではあるし。
「という事で、遊星君もコスプレしない?」
「俺は別にいいよ」
そもそもカラコンとか怖いし、そもそも似合わないだろう。
秋根とは違うのだ。そもそも俺は、顔の造形もそこまで綺麗な訳でもないし、イケメンでもないのだ。
「してほしいのです。私だけじゃ恥ずかしいから」
「じゃあ、優子は?」
今はお出かけ中の優子も誘わないと道理に合わない。
「それは後で頼むのです」
「分かった」
そして、優子が帰った後、秋根がそのことを頼み込む。
「……私は嫌」
まあ、言うと思ってた。
コスプレなんて非オタには受け付けないよな。
そもそも少女漫画にはそういう文化はあまりないはずだし。
「じゃあ、俺もしない」
「えー、私だけ!?」
「諦めろ。お前の味方はいない」
「うわん」
そう、泣きまねをした秋根を俺と優子はあきれる目で見る。
そして、それから秋根はいろいろなコスプレに関する雑誌を買ったり、カラーコンタクトなどを買ったりなど色々と準備をしている。意外や意外、本気なようだ。
対する俺は特に何もすることがない。というか秋根があまりこっちに関わってこなくなった。
良いことなのかもしれんが、それはそれで寂しいなと思う。
その代わり優子と一緒にゲームをしたりする。
負けたら「お兄ちゃん雑魚すぎるでしょ。雑魚雑魚」などと言って煽ってきた。
お前はどこぞのメスガキか。
「どうなのです? 私の本気のコスプレは!!」
コミケ二日前に秋根が俺の前に来た。その姿は本物そっくりだった。
そう、まさにあのキャラ、サクヤと言っても過言ではない。
秋根の解析度に驚愕だ。まさかここまでレベルの高いコスプレをするなんて。
「私が遊星君を守ってあげるのです」
そう原作にある言葉を放った。(もちろん名前は変えてある)
「私にすべて任せてほしいのです。私がすぐに終わらせますから」
そう言って模倣刀(コスプレグッズ)を敵に向けた。その凛とした姿はプロのコスプレイヤーに匹敵するんじゃないかと思ってしまうほどだ。
「すごいな」
「ふふん。明日は私が無双するのです!!」
そう、どや顔で言う秋根。
無双は無理でも、何度も見られること間違いなしだ。
「今日はこの姿で寝るのです!!」
「あ、会場にはコスプレで来たらだめらしいぞ」
「え?」
知らなかったらしい。危なかった。
てか、そもそもコスプレしたまま寝たらメイクとかぐちゃぐちゃになってしまう気がするが。
「じゃあ、いろいろ落としてくるのです……」
そう言って肩を落としながら洗面所に向かった。
「ねえ、お兄ちゃん」
「どうした?」
「私たち、あれと一緒に回るの?」
それもそうだ。コスプレした人と、コスプレしてない人が一緒に歩くとなったら浮くこと間違いなしだ。
「なら、俺らもコスプレするか」
「きっと、浮くよ」
「確かに」
俺たちに残された手はないみたいだ。
「ねえ、お兄ちゃん。コミケってさあ、どんなところ?」
「今更かよ」
「今更よ。で、お兄ちゃん知ってるの?」
「詳しくは知らん。なんか手づくりの漫画を売るんだろ?」
「私もそれくらいしか知らない……てかさ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「エロ漫画とか買わないでよね。秋根ちゃんもいるんだしね」
にやにやしながら言うなよ。
「買わん。むしろ買うとしたら秋根の方だろ」
あいつの場合エロいという感情がないしな。
平気で谷間見せてくるし、そもそもコミケでも胸元全開のコスプレをするみたいだし。
本当あいつはどうなってるんだよ。
「でもさ、」
優子が耳元に唇を持っていく。
「お兄ちゃんもそう言う事興味あるんでしょ?」
「……優子、見損なったわ」
「ええ!?」
「だって、彼女がいるのに、エロ本買うってどういうことだよ」
「そっか、お兄ちゃんはそう言う人だったね。ってことは秋根ちゃんは……」
「いや、俺はエロ本買うのが悪いこととは一言も言ってないから」
「二人で何を話してるの?」
うわ、うわさをしたら本人が来やがった。
「何も話してない」
「本当に?」
「何も話してないよ。秋根ちゃん」
「じゃあ、命に誓える?」
「命に八変えないな」
「ちょっとお兄ちゃん!!」
「そもそも、話してないって証拠はないし、そもそも俺たちは明日の話をしてただけだ」
嘘は言っていない。
「分かったのです。影口を言われた気がしたのですが、そう言う事なら信じるのです」
良かった。
そして、秋根が向こうに去って行ったあと、優子と二人で「危なかったね」「ああ」と、二人で胸をなでおろすのであった。
ちなみにもう一度秋根が戻ってきて似たようなやり取りをもう一度することとなったのは言うまでもないだろう。
そして、寝床。
「遊星君、本当に明日は楽しみなのです」
「ああ、そうだな」
「何が楽しみなのですか?」
「お前が聞いてきたんだろ。……まあ、俺はお前の本気のコスプレが見られるのが楽しみだ」
「ふふ、そう言ってもらえてうれしいのです。ただ、」
「ただ?」
「遊星君以外にもコスプレが見られるのは正直複雑だけどね」
「なら、しなかったらいいじゃないか」
「いや、するのです。私は、楽しみたいのですから!!」
秋根はやっぱり俺よりもはるかに気合を入れているなと、思った。
現実とは少しだけコミケの時期が違いますが、許してください。
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