第2話 映画館

 

「お前、どういう事?」


 席に戻るとすぐに仁が話しかけてきた。訊きたいことは分かっている。


「俺に聞くな」


 だが、そう冷たく撥ね退けた。だって、この状況、俺が教えてほしいくらいなんだから。


「それにしても応援するわ」

「ああ、ありがとう」

「あんま嬉しそうじゃ無いな」

「いや、状況の理解に時間がかかって」


 正直動揺の気持ちの方が大きい。


「まあそういうもんだよな、知らんけど」

「まあな」

「しかし、漫画みたいだなこれ」

「そうなのか?」

「だって、久々に会った幼馴染と付き合うって漫画みたいだろ」

「まあ確かにな」


 確かに、そう言う漫画やラノベは何回も見たことあるな。ということは、俺は今そう言う状況にいるという事か。……そう考えたら楽しくなってきたかもしれない。



 そして放課後、校門の前で秋根を待った、だが、いつまでたっても来る気配がない。

 デートに誘っておいてどういうことだよ。まさかあいつ俺のことを冷やかしに来ただけだったのかと、不安な気持ちが急激に高まる。

 楽しくなってきたと思った俺に今の状況を説明したいくらいだ。


 そんなことを考えていると、


「お待たせ!」


 と、秋根が門の前にいた俺の前に来て言った。その瞬間俺はほっとした。


「遅かったな」

「まあ、色々あったのよ」

「なにがだ?」

「うちのクラスの子に告白されて」

「ん?」


 告白した日に告白された!?


「それでどうなったんだ?」

「もちろん断ったよ。別に好きじゃ無かったし、そもそも遊星くんがいるから」

「そうか」

「というか早く行こ!」

「ああ」


 そして秋根に手を引かれ、一緒に歩いていく。


「そういえばなんの映画が観たいんだ?」

「それは……これ!」


 そこにあったのは恋愛漫画の映画版だった。


「これって……」


 原作を無料読みで読んだ事がある。めちゃくちゃイチャイチャする奴だ。そのシーンの五割はイチャイチャで消費されているという噂まである映画だ。もはやこの映画を見に行くことはイチャイチャを見ることと同義とも言われている。


「まさかこれを見るってこと」

「うん。だめ?」

「だめじゃないけど」


 ダメではない、驚いただけだ。

 そして映画館に入っていく。


「おい、お前。この結び方」


 俗にいう恋人つなぎだ。


「だめ?」

「だめじゃないけど」


 あれ、引っ越す前こんな積極的だっけ。むしろ、控えめな性格だったはずだ。

 俺の記憶の中では俺の陰にいる人。それが秋根だったはずだ。


 そして映画が始まった。右手が塞がってるので左手でポップコーンを食べながら見る。


「ねえ、キスしていい?」

「馬鹿何言ってんだよ。それは冗談じゃ済まないだろ」

「もし君を好きって言ったらどうする?」

「それって……」

「こういう事」


 そして男女はキスをした……。

 見るからに恥ずかしい。序盤からイチャイチャしすぎだろ。これがまだ映画が始まって体感一〇分くらいしかたっていないとは恐ろしいことだ。


 横を見る。すると秋根まっすぎに見ているようだった。っくそ、恥ずかしいなと思ってるの俺だけかよ。てか俺たちも今恋人つなぎをしてることを忘れてはいけねえな。


「何だよそれ」

「見てわからない? ハグしてほしいのよ」

「まったくお前はかわいいやつだな」


 そして二人はハグをする。


 あーこれも見てて恥ずかしい。え、てか曲がりなりにもカップルになったからハグもすることになるのかな。今からでも怖い。いやまあ、こいつが嫌いなわけではないし、普通にかわいいと思うが。





「あー面白かった」


 秋根が言った。


「あれ普通に恥ずかしくねえか?」

「あれ恥ずかしの?」

「恥ずかしいだろ」

「へー。まあ将来的にやってもらうけど」

「え、あれをか?」

「それ以外ある?」

「無いけど、あれを俺がやるのか?」

「当然でしょ」


 俺にとっては当然ではないんだが。


「まあそれは将来的にってことで、まあ優勢くんが嫌じゃなかったらだけど」

「嫌だけど」

「そこは嫌じゃないっていうところじゃない?」

「んなこと言われてもなあ」


 流石にキスとか、膝枕とかはハードルが高すぎる。


 そして、そんなことを話しながら歩いていくと、


「あ、見えたよ。カフェ!」

「そうだな」

「入ろう!」


 秋根が映画が終わったら感想会を兼ねてカフェに行こうと計画してくれていたのだ。

 そして俺たちはカフェの中に入っていく。


「それでお二人さんはカップルとしての来店ということでよろしいでしょうか」


 店員さんにそう言われた。それを聞き、周りを見渡すと見事にカップルっぽい人たちしかいなかった。もしかしてこれ、俺嵌められたのか?


「そうです! ね」


 こちらを見てくる。もう訳が分からん。


「それではご予約されたパフェとお飲み物です」


 そこにあったのは二つのスプーンが付いたパフェと二つのストローが付いた飲み物だった。


「それではカップルということを証明するためにハグをしてください」


 将来的ってこういう事かよ……。全然将来的じゃねえじゃん。


「まさかここですんの?」

「え? そんな恥ずかしがる必要ある? カップルなんだし」

「いや、そうだけどよ、周りの目もあるし」

「ほら! 飛び込んで!」

「あーもう!」


 そしてハグをする。もう、やけくそだ!


「ギュー!」

「ギュー」


 そして二人で五秒ほどハグをした。


「もういいですよ。男の方の方が緊張していて、初々しい感じがよかったです」

「そうですか」


 あー恥ずかしかった。店員さんもハグの感想言ってくるなよ。恥ずかしい。


「なあさっきのどういうことだ?」


 店員さんが去ってから秋根に尋ねる。


「ここカップル専門店だから」

「まさかお前……」


 カップルになった理由って……


「違うよ、そりゃあ。私断ったって言ったじゃん。私はほかの子じゃあだめなの。遊星だからいいの」

「なんでだ?」

「そりゃあ小学生の時から好きだったのよ。もう、言わせないでよ」

「え?」


 それは初耳だ。小学生の時から?


「え? って、分かってなかったの? 鈍感」

「鈍感って、知らねえよ。小学生の時のお前ってあまり感情出してなかったからさ」

「あれは、好きな人を目の前にしてたから。仕方ないじゃない」


 そういう事だったのか? 全く知らなかったな。


 そんなふうに、考えていると、秋根が「こんなかわいい子が遊星のこと好きな事、めったにないわよ」


 と言ってきた。


「やけに自信満々だな」

「だってそりゃあそうでしょ。今日告白されたんだし、そもそも私告白されるの十回目くらいよ」

「え!?」


 十回? あの秋根が?


「驚くことないでしょー! まさか私を五年前と同じにしてない?」

「まあ、してるが」


 だって、あの時の秋根は、正直言って、モテるのモの字もなかったし。


「私は、そうモテるのよ!!」


 そう言い切った秋根は、地震に満ち溢れた顔をしていて、それを見た俺は思わず笑ってしまった。


「笑わないでよ!!」


 そしてそんな他愛のないことを話しながら、二人でカップルドリンクを飲みまくった。

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