第9話 お風呂再び

 そして二人でラノベに熱中した後、ふと時計を見ると、九時半だった。

 秋根が「そろそろお風呂入る?」と訊いてきたので、「そうだな」と言って、秋根がスマホからお風呂スイッチを押した。

 そしてそれから再びラノベを読んだ。


 そして二〇分後、お風呂が沸けた。


「どっちが先にお風呂入る?」

「え? 一緒にでしょ?」

「え?」

「え? だって昨日も一緒に入ったんだし、今日も一緒に入るでしょ」


 どうやら秋根の中では同棲=一緒にふろに入ることらしい。俺にはよくわからん。ただ一つ分かることは、一般の人にとってはこれはご褒美と言う事だろう。だけど、俺は昨日一緒に入ったからか、もう特別感はあまりわかないようになってしまった。


 そして俺たちはお風呂へと向かった。


 今日も互いの背中を流しあって、お風呂に入る。お風呂ではもちろん秋根が積極的になってきた。抱き着くのはもちろん、お風呂でできることをたくさんやってくる。


 どうやら女というものは、お風呂では積極的になるらしい(そんなこと言ったら秋根じゃない女子には申し訳ないが)


「お風呂楽しいね」


 しばらく入った時に、秋根がそう、耳打ちして言ってきた。耳打ちするところに、秋根の今の楽しさが伝わってくる。しかし、


「耳打ちしなくてもいいだろ、教室とかでもないんだし」


 二人しかいないわけだし。


「遊星くんは分かってないなあ。こういうところで耳打ちするのがいいんだよ」

「それ……お前がしたいだけじゃないのか?」

「そんなことはないよ」


 そう秋根は棒読みっぽく言った。


「怪しいな」

「てかさ、私ともっと楽しいことしようよ」


 会話を無理やり変えるような感じで、秋根が俺の腕をつかみながら言った。


「もっと楽しいこと? 何だ?」


 何と言うかそのワードはあまり女子高校生が言っていい言葉じゃない気がするんだが……。


「ハグもいいけどさあ、お風呂でするなら……やっぱりこれでしょ!」


 そう言って、秋根は俺にほっぺを擦り付けてきて、その後、ハグしてきた。


「結局ハグじゃねえか!?」

「ごめん、結局思いつかなかったものだから」

「お前なあ」

「えへへ」


 全く、やれやれだ。


「でもさ、ほっぺすりすりとかいう新技披露できたからいいでしょ?」

「新技とかなのか?」

「うん、良いでしょ? これ」


 そう言って、ハグしながら秋根はもう一度ほっぺすりすりをしてきた。確かに気持ちいい。今の状況はまるでラノベの主人公みたいだ。


「楽しいな。こうして毎日お風呂に入れるんだもん。幸せだよね」

「まあ幸せだな」

「変態。どうせ女子と一緒に入れてラッキーとでも思っているんでしょ?」

「……お風呂あがっていいか?」


 うざい。


「えー、だめに決まってるじゃん。私をもっと楽しませてよ」

「どっちなんだよ! お前はさ」

「えへへー」


 秋根がよくわからん。

 ただ、秋根が楽しそうなのはいいことだ。


「そう言えば小学生の時もおふろ一緒に入ったの覚えてる?」

「んー? あれか、秋根が一人で入るの怖いって行った時のやつか」

「それは言わないでよ!?」


 あの時は、秋根の両親が一週間、予定があって俺たちの家に秋根を預けてたのだったな。確か、その二日目、その日は俺の親が電車の遅延があっていつもの時間に家に帰ってこれなかった。


 だから俺たちでお風呂を交代で入ることになったのだが……秋根が「一人じゃ……怖いの。着いて来てくれない?」と、俺の服の裾をつかみながら言った。俺は最初は断ろうとしたが、秋根が「遊星くんが来てくれないと嫌なの!! 怖いの!!」と、必死に言うもんだから、仕方なく一緒にお風呂に入ったんだっけな。


 その時は小学生ながら、異性をほんの少し意識し始めていたから、かなり気恥ずかしかったんだっけ。だけど、まあ、いざ一緒に入ってしまえば、かなり気が楽だった。

 だって、所詮は女子とは言っても友達秋根だし。



「あの時も楽しかったね」

「まあ、楽しかったのはそうだな。お前めっちゃビビり散らかすもん。本当面白かったわ」

「うぅ、そのことは言わないでよ。ある意味黒歴史なんだから」

「ふーん。まあ俺だってもしあんなことがあったら黒歴史になるなあ」

「でしょ!? だからやめてね」

「分かった」

「それでね、私あの時、遊星くんめぅちゃ優しいと思ったの。なんかすごく楽しませようとしてくれて」

「いや、あれは別に。俺が楽しんでただけだし」

「女子とのお風呂に?」

「お前なあ」


 そろそろイライラしてきた。こいつ、ううざいところあるんだよな。


「単純に、楽しかったんだよ。友達と一緒に喋りながら入るお風呂っていうものが新鮮で、不思議な感じだったからさ」

「へー。そっか」

「そっかって何だよ」

「てことは、今も楽しいってこと?」

「まあ、そうなるな」

「やったー!」


 無邪気に笑う秋根は秋根はかわいかった。


 そして、秋根は笑った後、再び俺を抱きしめ、ほっぺすりすりをした。どうやら味を占めたらしい。単純なやつだ。そして、やられっぱなしはなんとなく癪なので、俺もほっぺすりすりをした。秋根は嬉しそうだった。こいつするのも好きだし、されるのも好きなのか。


 そして、しばらくたった後、上がった。理由としては二人とも暑くなっていたからだ。


「はあ、楽しかったね」

「ああ、楽しかった」

「昨日のお風呂とどっちが楽しかった?」

「そりゃあ今日だろ。昨日はお前からの一方通行だったからな」

「えー酷い」

「ひどくはないだろ。昨日は俺も急で何が起きているのか全く分からなかったからな」


 なんかあの日は秋根が家に来る流れを作って、そのまま秋根が半無理矢理お風呂に連れ込んだからな。

 ていうか、そもそもあの日に初めて秋根にあったのだから、急で当たり前だ。


「まあ、でも私も今日の方が楽しかったかな、だって今日は遊星くん、昨日よりも楽しそうだったし」

「そうか、それは良かったな」

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