第19話 なのです口調

 とりあえず、歌うことになったのは仕方のないことなので、一曲入れる。


 入れた曲は、流行りのアニソンだ。せめて下手なりに自分の得意な曲を入れたという訳だ。……アニソンだからまた変なからかいを受けるかもしれないが。


 この曲はもちろん所謂ラノベと言われるジャンルの小説出身アニメの曲だ。ネ


 ットの小説投稿サイトで異世界ファンタジージャンルで一位を長くキープしている作品で、そこからすぐに書籍化コミカライズそしてアニメ化と、行った作品だ。


 もちろん俺も好きで、七巻まで読んだことがある。


 さて、


「今ここから始まる物語……」



 歌い始めた。

 感触としてはあまりよくない。わかってはいたことだが、明らかに音程がずれているところがいくつかある。いや、むしろリズムを合わせるにさえ苦労している。


 今秋根はどう思ってるだろうか。あの時は小学四年とか五年だったから許されるもので、今の高二の俺がこんな歌唱力だったら笑われるかもしれない。


 少なくともさっきの優子の歌に比べたら馬鹿みたいなものだ。


 そして何とか最後まで歌い切った。

 恥ずかしさと、自己嫌悪感でどうにかなってしまいそうだ。


 そして何か言われるだろうか、と身構えていると、


「遊星くんっ!!!」


 抱き着いてこられた。


「歌良いね!!」


 その言葉をつけ足して。


「いや、上手くねえだろ。点数も……」


 テレビ画面を見る。


「78.3だし」

「でも私は遊星くんの歌が聴けたことに意味があるんだよ」

「秋根変わってる……」

「優子は恋をしたことがないから分からないのよ!!」

「えー。恋しててもこのお兄ちゃんの歌がいいなんてわからないけどなあ」

「おい、そこ。うるさい」

「事実だし」


 全く悪びれる様子がない。我が妹ながら本当に自由奔放な性格だ。

 兄だからこんなに当たりが強いのかもしれないが。


「それで、次秋根の番だぞ」

「私の番⁉ いや、歌いたくない!!」

「歌いたくないって、俺は歌ったんだから秋根も歌わないと不公平だと思うぞ……それにお前の歌は五年の時に聴いているし、別に今更下手でも気にしねえよ」

「遊星くん!!!」


 どういって秋根がほっぺすりすりをしてくる。それを見た優子が当然のごとく「イチャイチャしない!!」とツッコんだ。


 そして紆余曲折しながらも、秋根の歌が始まった。


 まず秋子の歌に対して抱いた感想は、どう考えても俺よりうまいじゃねえかというものだった。

 勿論優子にはかなわないが、それでも最低限の実力はあるように見えた。


 この実力で歌うの嫌がってたのかよ。俺よりも上手いことは上手いぞこれ。


 しかも、サビの高音が上手く取れている。

 奇麗な音で。


 完敗だ。間違いなくこの場にいる人間で歌が一番下手(しかも断トツで)なのは俺という事になってしまう。


 もっと強く断っておくべきだったのか……そう思うと少し後悔の念を抱いてしまう。


 そして、終わった後、「お疲れ」と秋根に声をかけた。すると、白々しく「下手なりに頑張ったよ!」と言った。正直軽く腹がたった。


「俺よりも点数出てるくせに……」

「遊星くんが低いだけじゃない?」

「もういい」


 そう言って俺はスマホを取り出す。


「あ、秋根」

「うん」

「いじけちゃったね」

「うん……よし!!!」


 そう言った秋根は俺の胸に飛び込んできた。


「は? は?」


 そして俺を押し倒す。


「どうした! 急に一体」

「いじけられたらこっちも困るの。だから」

「だからっておまっ……」

「私は遊星くんにも楽しんでほしいのです。さあ、一緒に歌うのです」

「お前、ラノベのキャラっぽくしようとするな」


 昨日読んでたラノベの影響か?


「えー、なのですキャラいいじゃん」

「そう言う問題じゃなく手だな」


 っくそ、イチャイチャしないでと言ってくれるはずの優子が何も言ってこない。俺はこのままイチャイチャを喰らうのか。

 そして優子を見てると、爆笑していた。

 味方はいないようだ。


「てか、ここカラオケ店だぞ。家じゃないんだぞ」

「家だったらいいのですか?」

「おい、なのです口調やめろ! ってか、妹居る前でそれはマジでやめろ。うざすぎる」

「いいじゃん」


 そして俺たちをよそに曲を鼻歌交じりで入れる優子。こいつ、兄を見捨てやがった。


 そしてイチャイチャから解放されたのは、優子が歌い終わった後だった。だが、まだ地獄は終わらない。今度は俺が歌う番だからだ。断りたがったが、二人で手拍子なんてしやがるので、歌わないという選択肢を奪われてしまった。


 そして今度も下手なりに、頑張って歌った。秋根が何とか褒めてくれるので自尊心とかは何とかなったが。


 そして二時間程度歌ったところで、休憩を入れることとなった。


「そう言えば秋根。ラノベハマってるの?」

「うん。遊星くんが持ってるラノベがすっごく面白くて」

「さっきのなのです口調には思い切り爆笑したわ」

「でしょ! 正直言ってて楽しい!!」

「遊星くんはどうだった? さっきのなのです口調は」

「……まあ、悪くはなかったな」

「やった―!!!」


 そりゃあ、なのです口調を言われて、うれしくない男はいないだろう。

 というか、ほぼ全男子がそれを望んでいる気がする。だからこそ、声優と結婚したい男の人が多いのだろうな。


「じゃあ私!! 暫くなのです口調で話す縛りをします!!!」

「っちょ、おい!」

 

 それは違うだろ。このカラオケルームがカオスになるわ!!


「悪くないんだよね。じゃあいいじゃない……なのです?」

「おい、使うなら自信を持てよ」

「はい! なのです」


 おいおい、こりゃあどういう状況なんだよ。もう混乱してきた。


「よし!」


 優子が声を発した。


「みんなでゲームしない?」


 この優子の言い方、ゲーム中の秋根のなのです口調が見たいということか。


「したいのです!!」

「やろう!」


 とはいえ面白そうなので否定しない。

 そしてみんなでゲームをすることになった。

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