第18話 カラオケ
そして一通り話した後、優子が「お兄ちゃんの部屋を見たい!」と、言ってきた。
「見せられない!」
あくまでそう言い張る。
秋根はともかく、妹にまで見られたくない。そもそも自分の部屋を見られること自体嫌なのは人間として当たり前だ。
「いいじゃん遊星くん。見せてあげたら?」
「……だったら秋根は自分の部屋を見せていいのか?」
「うん。別に構わないよ。別に見せたら悪いものないし」
確かにそうだ。秋根の部屋は別にそう言う部屋ではない。少しだけアニメグッズも持っているが、棚に乗せたりするような量は持っていない。つまり俺だけなのだ。優子に見せられないような部屋は。
そう、困った顔をしていると、
「つまり、お兄ちゃんの部屋は面白いってことだね。いこ!」
「うん行こう!」
そして女子二人は勝手に向かって行った。それはもう俺が止める暇もなく。
俺が部屋に入っていくと、もう女子二人は俺の部屋を物色し始めていた。
この図、見ているだけで、恥ずかしい。
「お兄ちゃん! こんなん見たことないんだけど。何? この胸半分見せてるキャラ。もしかしてお兄ちゃん変態?」
「変態じゃないわ!! 出て行け!!」
こいつは異世界アニメのキャラだ。確かに見た目は胸を見せつけている感じはする。だが、俺は変態ではない。胸目的で買ったやつじゃあないからだ。
そして、俺は優子の背中を押して部屋から追い出そうとする。が、
「いいじゃん。優子にも思う存分楽しませたらいいじゃん」
そう秋根が言ってきた。やはり秋根は優子の味方をするか。
女子同士の連携強しだな。
流石にこの場で二人と争うのは危険すぎる。てか完膚無きまでに叩き潰されそう。
っくそ、この二人を合わせるのはやっぱり駄目だったな。
実際今も二人で俺のフィギュアを見たり、遊んだりしている。どういう顔でこれを見たらいいのだろうか、どういう目でこれを見ればいいのか。今の俺には全く分からない。
結局二人が物色をやめて俺に話しかけてきたのは十五分が過ぎた後だった。
「ねえ、お兄ちゃんちゃんとオタク活動してるんだね!!」
「うるせえ」
「いやー関心関心。お兄ちゃんが遠くの学校に行ったから寂しかったけど、元気でいるんだね」
「ゴールデンウィークとかには帰ってるだろ」
「まあ、そうだけど。……そうだ!」
優子がにやりと笑う。これは悪戯な笑みだ。今から言うことは良くないことだとこの笑顔から読み取れる。
一体何を言うのだろうか。
「お盆にさ、いや。お盆じゃなくてもいいけど、秋根を連れて実家に帰ってきなよ」
「秋根を連れて?」
「うん。いいでしょ?」
優子は秋根に訊く。
「もちろん! 私も行きたい!」
「お兄ちゃんいいでしょ?」
「まあ別に構わないけど」
「「やったー!!」」
二人はハイタッチする。しかし、まともな提案でよかった。
「それでさ、一緒にカラオケ行かない?」
優子が急に提案する。しまった、本命はこっちだったのか。
「いいね!」
「お兄ちゃんはいい?」
「今日はゆっくりゴロゴロとしたいんだが」
「いいじゃん遊星くん。そう言えば遊星くんとカラオケなんて言ったことなかったし。いいでしょ!」
「お兄ちゃん?」
だめだ、二人でこちらを見てくる。この提案も折れるしかないようだ。
そして家から出て、三人で手を繫ぎながら歩く。俺が真ん中だ。
「しかし、私ここあまり来たことないんだよね」
「なんでた?」
「だってカラオケはあえて避けてたし。遊星くんも私の歌唱力知ってるでしょ?」
そういえばそうだったな。秋根は歌が下手な部類だしな。
「でも、今は違うんじゃないか?」
「いや、下手よ」
「でも私、秋子の歌聴いてみたいなあ」
「うん私も遊星くんと優子がいなかったらカラオケなんて絶対いかないしね……優子はカラオケ好きだっけ?」
「うん! 好きじゃなかったら誘ってないしね」
優子はカラオケが好きなことは知っている。
別に俺は歌うのは好きじゃないのに……むしろ半強制的に連れられたくらいだ。
そして歩くと、カラオケ店が見えた。
「カラオケだ!」
そう二人はハイタッチする。そして俺も巻き込まれハイタッチを食らう。
そしてカラオケの中に入ると、優子が「最初に入れていい?」と言って曲を入れる。
その裏で、
「遊星くん」
そう言って俺にもたれかかってきた。
「急にどうした?」
「今日あんまりイチャイチャしてないじゃん? だから」
確かに今日は優子が急に来てそのままドタドタしてたからな。
「ねえ、遊星くん」
「なんだ?」
「大好き」
そう言って抱きついてきた。ついに知り合いが目の前にいてやるようになったか。
「二人共イチャイチャしない!!」
怒られてしまった。そりゃあそうだ。
そして優子が歌い始める。ドラマの主題歌でそこそこ有名な曲だ。それに合わせて俺達は手拍子をする。
最近優子とカラオケに行くことはなかったのだが、相変わらず上手い。美声とでも言うべきだろうか、俺の妹とは思えないくらいだ。
「優子上手いね」
「ああ、これのあとで歌うのかと思うと憂鬱だ」
「私も正直怖い」
「秋根ノリノリだったじゃねえか」
「いや、歌を聞くまではね」
秋根と優子は一緒にカラオケに行ったことがある。あのときはおどおどとしてた秋根をまるで姉のように優子が引っ張ってたな。
どっちの方が歳上なんだという感じだったな。
というかそれで秋根は優子の歌のうまさを知っているはずなのだが。それを覚悟で秋根はカラオケに行くことにしたのか。
そして優子の歌が終わり、俺たちは拍手をする。
「それで次どっちが歌う? 秋根? お兄ちゃん?」
そう、優子が効く。その言葉を受けてなのか、「どうする? 私は絶対嫌だから遊星君お願い!」
と手を合わせて頼んできた。
「ええ、俺も嫌だぞ。ノリノリだったのはそっちじゃねえか」
「それとこれは違うの。それに私は本来聞き専なんだから」
「聞き専って何だよ」
「んー」
そんな会話の中優子が俺たちの争いを止めるように俺たちの目の前に来た。
「じゃあ、お兄ちゃん! お願いね」
「……なんでだよ!!」
正直歌いたくねえ。
「なんでお前が決めるんだよ」
「だってもめてるから、私がズバッと決めればいいと思って」
「そうだね! 遊星くんお願い!」
「お前はただ歌いたくないだけだろ」
「私は遊星くんの歌が聴きたいだけだから」
「私は?」
「優子の歌ももちろん!!」
そして結局二対一の戦いに敗れ、歌うことになった。っくそ、恨むからな秋根。
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