第7話 引っ越し
「そう言えばさ、遊星くんの家に行くのも初めてだよね」
「そうだな」
「変なものとかあったら嬉しいんだけど」
「それはその時のお楽しみだな」
「えー、気になる」
まぁ別に変な物はないと思うが。
そしてしばらく歩いたのち、俺の家へとついた。
「えっと、お邪魔しまーす」
秋根が家の中に入っていく。
俺の家はマンションの一室なこともあり、そこまで大きくはない。そう、そこまでたいした部屋ではない。
ただ、そんな部屋にもかかわらず、秋根は目を輝かせている。
まあ秋根にとっては、腐っても彼氏の部屋ということになるのだから当たり前か。
「エッロ本あるかなー?」
「無いぞ」
「え!?」
なぜあると思ったんだ。なぜ驚くんだ。
「あるわけないだろ」
「男子の部屋と言えばエロ本でしょ?」
「いつの時代の価値観だよ。さあ、移動させるぞ」
「はーい」
そう言って俺に必要なもの(衣服、漫画、ラノベ、歯磨き、ゲーム機、洗面用具、etc)を一つずつ探し、カバンに入れていく。
「しっかし、遊星くん、こういうの好きなんだね」
そう、秋根が俺に突き付けてきたのは、ラブコメラノベのだった。その内容としてはメイドさんを雇ったらそれが実はクラスメイトで……みたいなタイプのラノベだ。むむむ、これはあまり見られたくない。
という訳で、秋根からぱっと、そのラノベを奪う。
「何するのよ」
「当たり前だろ。見せられねえよ」
実のところを言うと、エロシーンとは言わずとも、そこそこのシーンは出てくる。そう、まるで昨日の映画みたいなシーンだ。
だから、女子、ましてや秋根になんて読まれたくない。
「もしかして、エロシーンとか入ってる?」
「入ってねえよ」
だが、どうやらサッシのいい秋根には若干バレかけているようだ。……まあ、否定するけど。
「それより、さっさとカバンに入れていくぞ」
「はーい」
そして一つずつ一つずつ、バッグに詰めていく。ちなみに俺の家と、秋根の家は徒歩で十五分くらいの距離離れている。つまり、その距離を徒歩で重い荷物を持って歩く。そう考えると、そこまでたくさんは持っていけないだろう。
こうなったら取捨選択が大変だ。
だが、見ていると、全部持っていきたいところだ。
「遊星くん、これはどうする?」
その秋根の手に会ったのは、俺の大事なフィギュアとアクスタだった。
っくそこれに関しては、俺のミスだ。うちにはそこまであるわけではないが、それでも各々五つずつはある。
なぜこの家に秋根を入れてしまったのだろうか。……俺が小学生の時はこういう趣味はなかったんだけどな。
「大丈夫よ、そんなおびえなくても。彼氏の趣味を否定なんかしないよ」
「あ、ああ」
まあ、美少女フィギュアを見られること自体、恥ずかしいことなのだがな。
「で、これも入れていく?」
「ああ、入れておきたい」
「へー、私の家にこれを持ち込むんだー」
「……じゃあ、同棲やめるか」
「ええ!? 私とフィギュアどっちが大事なの?」
「お前だけどさ、同棲しなかったって、お前を捨てることにはならないぞ」
「むむむ、屁理屈だね」
「屁理屈じゃないと思うけど」
そんな感じで秋根と話しながら作業すること五十分。
ようやく持っていく荷物が出来上がった。
秋根がしばしば変な事言うせいで余計に時間かかった気がする。
「ありがとうな今日は」
「いや、どういたしまして。でもここからもだよ。何しろ私の家に遊星くんの部屋を作らなきゃならないしね。遊星くんのオタク部屋をね」
「オタク部屋って、俺はオタクじゃねえよ」
「えー、私は遊星くんがオタクでもいいんだけどなあ」
「そろそろ黙ってくれないか?」
殺意が湧きそう。
「ごめんって」
と、秋根は平謝りをする。
「それで俺の部屋はどこになるんだ?」
「うーん、それはねもちろん着いてからのお楽しみ!」
「分かった。じゃあそれで」
「うん。ガッカリはさせないから!」
そして、俺たちは秋根の家に着いた。
「じゃじゃん! ここが、私の家、竜胆家です!」
「……そのくだり昨日やっただろ?」
「えー、すっげえとか言ってよ」
「お前五年前より図々しくなってないか?」
「私は私よ!」
そう言ってすたこらと、秋根は家の中に入っていく。それをじっと見てたら「入らないの?」と言われてしまった。言われなくても入るわ。
「しかし、ここが俺の家になるのか」
「そうよ! 遊星くんの城になるんだから。殿様みたいに威張ってていいよ」
「威張ってもいいと言われてもなあ」
威張る方法が分からん。
「じゃあ、私が手本を見せるね。エッヘン!」
「それ威張ってるって言えるのか?」
「いいじゃない。ほらやって!」
「え……へん?」
「ほらもっと威張って! エッヘン!」
「エッヘン」
「もう一回!」
「エッヘン!」
「もう一回!」
「エッヘン!!」
「もう一回!!」
「エッヘン!!!」
もうわからねえ。これ何の時間だ?
「最後ににもう一回!」
「エッヘン!!!!!」
「まあこれでいいでしょう」
結局何が正解だったのかわからねえ。本当になんだったんだよ、この時間。
「じゃあ、部屋に案内するね」
「おう」
そして歩いてその部屋に向かう。するとその部屋は大きな部屋だった。部屋の大きさはかなりのもので、前の俺の部屋並みにある。
「こんな広い部屋貰っていいのか?」
「もちろん! じゃんじゃんオタ部屋にしていいよ!」
「またそれ続いてたんか……」
流石に飽きた。
「続いてたのかって何よ! 続くよそりゃあ」
「続けないでくれ」
「これを見てもそう思う?」
そう言ってアクスタを出してきた。はあ、しんど。
「ごめん。嫌いになりそう」
「嫌いにならないでよ!?」
そして、俺は自分の部屋を作り始めた。本棚に漫画やラノベを並べ、アクスタを棚の上に乗せる。
そして、俺好みに最終整えをして完了だ。
だが、この部屋にベッドがない時点で、どこで寝るかはもうほぼ確定な気がする。
確実に秋根の隣で寝ることになるだろうなと。
そして、支度が整い、秋根のもとへと向かう。
「お待たせ」と、早速リビングでくつろいでいる秋根に声をかけた。
「遅いよ。準備に時間かかりすぎ」
「うるせえ」
「ほら、ご飯できてるから」
そう秋根が指さした先には、美味しそうなパスタがあった。
「遅いからさあ、十分作る時間あったよ」
「ああ、それはすまなかった。俺も手伝うべきだったな」
「え、優しい」
「優しいって何だよ」
「だって、私にだけ料理作らせてるのを申し訳ないと思ってるわけでしょ? 優しいじゃん!」
そう言って秋根は俺に抱き着いてきた。
「何だよ」
「優しいお礼」
「そんなこと言ったら俺は引っ越しの手伝いをしてもらって、さらに料理を作ってもらったんだぜ。こっちが感謝するほうだよ」
「ふふふ、なら感謝の気持ちとして私をもっとぎゅっと抱きしめてよ!」
「はあ、仕方ねえな」
「やったー!」
そしてしばらく互いに抱きしめた後、パスタが覚めちゃうじゃんということに気づき、パスタを食べ始めるのであった。
「美味しいな!!」
パスタを一口食べそう言った。
「昨日に比べたら手抜きだけどね」
「いや、手抜きとは思えない美味しさだよ」
「ありがとう!」
そう言って手を広げながら俺の方に向かってくる。
「お前、ご飯食えなくなるからやめろ」
「えー、私の愛を受け取ってよ!」
「どういうことだよ。はあ」
「ため息つかないでよ!」
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