第30話 山登り
今日の夜も優子が寝相で抱き着いてきた。少し強く撥ね退けた。
翌日、俺たちは優子の作った朝ごはんを食べる。
「なあ、何で今日も来たんだ?」
「勿論秋根ちゃんに会うためだよ。お兄ちゃんに会いに来たわけじゃないから、そこは勘違いしないでよ」
「何だよお前、夏休みに秋根を連れてきてよとか言ってなかったか?」
「それは勿論、私が連れていくよ。三人で行こ」
「うん!」
秋根が明るい返事をする。
「そう言えば優子、ラノベ呼んだ?」
食事が終わりかけになった時に、秋根が言った。
「え?」
優子の顔が固まる。これ、読んでないな。
「大丈夫、あとで読むからさあ」
「優子、日はあっただろ」
「うぅ、これだったら来なかったらよかった」
「読んでないお前が悪い」
「そう言えば、遊星くん」
なんか悪い顔をしてるぞ。
「私の少女漫画は読みました?」
「げ」
思わずげっと言ってしまった。しまった。
「えー、お兄ちゃん、私を責める権利ないじゃん」
「うるさい」
「じゃあ、これから一緒に読みあいする?」
「嫌だ」「いや!」
優子と被ってしまった。だが、読みたくないのも事実。何とかこの状況を打破する方法を見つけたい。
「なあ、優子。一緒に逃げないか?」
「えー、お兄ちゃんと?」
「嫌か?」
「うーん、なんとなくだけど」
おい、妹よ。どうしろというんだ。
「ふふふ、遊星くん、これでもう逃げ場はないのです。さあ、少女漫画を読もう!!」
そうして俺たちは案の定少女漫画(ラノベ)を読まされた。ただただ、時間が過ぎていく。別に互いに話してはいけないわけではない。ただ、時間が過ぎるのを待っているのだ。時間が過ぎ、最後のページ百九十六ページまで読み切ろうと。
おっと、優子の場合は二九〇ページ程度か。
そして俺は二時にようやく読み終わった。途中でスマホをいじったりしながら、二時間半かけてようやく読み終わったのだ。
まだ読んでいる優子には悪いが、ガッツポーズをしていしまった。
そして相変わらず優子は苦戦しているようだ。
頑張れ優子よ。そうとしか言えない。
さてと、俺もラノベに移ろうかと、そっとラノベに手を伸ばす。
「遊星くん、何してるのですか? 君の読むべき本はこれだよ」
秋根が差し出したのは、その本の二巻目だった。
「すまん秋根。流石に二冊目は無理だ」
そう言って手でバツ印を作る。
「という訳でこれを読むぞ」
そして、異世界転生系の作品を手に取る。これは異世界に来た人が、自分の今までの人生観を変えるという作品だ。どちらかというとバトルより、ヒューマンドラマが主題だ。
秋根は「少女漫画の方が面白いのに」と、不満を口にしていたが、それは俺の知る由ではない。
ああ、ラノベは最高だ。少女漫画に比べて何と面白い事か。
そして遅れること四十三分、ようやく優子も読み終わったみたいだ。面白かったかどうかは訊く前からわかる。完全に疲労の色が顔からうかがえるのだ。
「結局互いにはまらなかったっていう事だな」
「本当、何でこんな面白くない物を読んでるの? 馬鹿みたい」
「おい、優子。ラノベを馬鹿にすんな」
「そう言ってるお兄ちゃんこそ、少女漫画を馬鹿にしてるじゃない」
「むむむ」
「結局、どっちも読める私が最強ってことだね」
「秋根は黙っていろ」
そして、結果、俺と優子で、もう人に自分の趣味は強要しないという事で収まった。
そしてその後、散歩をすることにした。理由は実にシンプル、インドア過ぎたから、外の空気を吸いたいからだ。
最初に言い出したのは秋根だ。秋根は意味のない散歩をしたいらしい。それに優子も賛成し、外に出た。秋根が真ん中で俺と秋根が互いに手を繫ぐ。
行先は近くの山となった。山登りを兼ねている。
秋根と優子は元気に上っていくが、その中で俺の体力が切れた。
「ちょっと待ってくれ、こんなにガチなやつとは思っていなかったんだが」
「お兄ちゃんが体力ないんじゃないの?」
「うるせえ。お前ら女のくせに体力がありすぎるんじゃないのか?」
「遊星くんこそ男のくせに体力がなさすぎるのです」
「うるせえ!!」
とはいえ、待っててくれるからいいやつではあるから。
そして、俺たちは、山の中間地点に着いた。
「ハアハア、疲れたあ」
「まあさすがに疲れたよね」
「私は元気だけど」
秋根は俺の仲間だったが、優子は体力鬼らしい。
「秋根もこっち側に来たようだな」
「うるさいのです!」
そう、顔をプイっとする秋根。
「じゃあ、降りるか」
流石に頂上までは耐えられない。
「え? もう降りるの? 頂上まで登らない?」
優子は自信満々に言った。だが、そんなのは無理だ。俺が死ぬ。道が整頓されているので遭難の危機は無いが、山の上で体力が切れたら、俺は周りに迷惑をかけてしまう。最悪おいて枯れたら、自分一人で山を下りるしかなくなる。流石にそれは嫌だ。
「秋根も賛成だよな」
「うん、勿論」
よし、これで二対一だ。
「よし、優子。分かったなら降りるぞ」
「はーい」
そう言ってこちらに走って向かって行く優子。だが、
「あう」
優子は思い切りこけてしまった。それはもう豪快に。
「何やってんだ、優子」
俺は思わず叫ぶ。次の瞬間ケロッと立ち上がってるんだろうなと、思った。だが、
「おい!」
全然立ち上がる気配がない。流石に心配になり、優子のもとに駆け寄る。するgと優子は甘えた声で「いたーい」と言っている。どうやら、かなり痛いみたいだ。
「優子、立てるか?」
優子は迷わず首を横に振った。どうやら、全然大丈夫じゃないようだ。
はあ、仕方ねえ。
「優子、背中に乗れ」
「え?」
「え?って、このままじゃあ歩けないだろ」
「そうだけど、なんか癪」
「とは言っても、ほかに方法はないだろ」
秋根におぶってもらう訳にもいかないし。
「分かった」
そうしぶしぶと承諾した秋根を背中に乗せて、ゆっくりと降りていく。
「私もおぶってもらいたかったな」
俺におぶられている優子を見て秋根がうらやましそうに言う。
「お前もけがしたらおぶってもらえるかもしれないぞ」
「分かった」
秋根は岩に上り始める。
「お前、今怪我してもおぶれないぞ」
「もちろん冗談なのです」
そう言って笑う秋根。冗談なのか分からん。
しかし、くっついている優子は、強く抱きしめてくれている。
「優子、大丈夫か?」
「うん。むしろ乗り心地良い」
「そうか……」
それは良かった。
「本当に羨ましい。優子ばっかり乗っちゃって」
「まーね。……ちょっと待って、秋根だって乗ってなかった?」
「乗ってたっけ」
「俺も覚えてはないな」
「ちょっと、お兄ちゃんまで? お兄ちゃんが秋根をのせて歩いてたの覚えてるから」
「そうだっけ」
「もう二人共!! 老人!?」
そンなことを話していると、あっという間に家に着いた。
「はあはあ、ようやくついたな」
「お兄ちゃんお疲れ様、おかげで楽だったよ」
「お前はうるさい。感謝しろ」
「はーい。ありがとう」
そしてリビングにまで運び、イスに座らせた。いくら兄弟とは言え優子の足を触るのは、俺的にも優子的にもまずいのではないかという事で、秋根が手当てする。幸いそこまで傷は深くない感じで、腫れてすらいなかった。
「ありがとう、秋根」
「どういたしまして」
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