第34話 実家の風呂

 そして帰宅すると、焼きそばが出来上がっていた。もう今の時刻は5時45分。ご飯が出来ていてあたり間瀬の時間だ。


「お兄ちゃんと秋根、結構散歩してたね」

「うん、楽しくて」

「あーあ、私もついて行きたかったな」


 優子はそう愚痴を漏らす。


「秋根酷いよね」

「デートがしたかったから」


 そう秋根は悪ぶれもなく言う。


「明日は優子もつれていくか?」

「仕方ないのです……」

「仕方ないって言わないでよ」


 そして、焼きそばをすする。そう言えばまだ食べていなかった。


「美味しい」


 俺自体も食べるのは三ヶ月ぶりだ。


「でしょ、遊星くん」

「でしょって、秋根が作った訳じゃないでしょ」

「でも、美味しいから」


 その会話を見てうちのお母さんは満足そうに微笑んだ。




「ところで、どんな暮らしをしてるの? 二人で」


 そんな会話の途中、母さんが唐突にい出した。流石に実の親には言えないことが多すぎる。どう言おうか……。

 一緒にお風呂に入っている、一緒に寝ている。コスプレ勉強会もした。


 まあ、これは優子も一緒にはいったり寝たりしてたしな。

 でも、そう言う問題じゃないと思う。


「ラノベ読みながら過ごしてる」


 良かった、それなら言えるな。秋根、ナイス。


「そうなの。……カップルっぽいことはしてないの?」


 おい、母さん。


「もちろんなのです。風呂にはいったりとか、一緒に寝たりとか……」

「おい、秋根、それはあまり大したことじゃないだろ」

「じゃあ、もっとすごいことをしてるのね」

「そうじゃない。何でそう読み解くんだ」


 まあ、実際したのは膝枕とかハグ位で、そこまで恥ずかしいことはしていない。

 ……いや、これを恥ずかしい行為ではないと言える時点で、もう俺の羞恥心は迷子になっている気がするが。

 だが、コスプレ勉強会は大したことではあるなあ。コスプレを利用してイチャイチャしてたというのは言いたくはない。



 そしてその後、その話は会話の波に流れていった。

 というのも、優子が突然「ご飯後に久しぶりにみんなで遊ぼうよ! ゲームで!」と言い出したからだ。

 もしかしたら俺を助けてくれたのかもしれない。

 それならなんとありがたいことなのだろうか。


 そして有言実行とばかりに食後、皆でゲームで遊ぶことになった。

 そのゲームはすごろくゲームだ。

 いつも民案でやる人気ゲームで実際正月にも家族四人でやっていた。

 このゲーム自体買ったのが三年前なので秋根は一回もやったことのないゲームという事になる。


「負けないよ、遊星くん!」


 そう、腕を握り締める秋根。闘志溌溂なようだ。そんな秋根を見て優子も「私も!」と言い放った。

 流石に二人にそう言われて燃えないわけがない。


「負けないぞ」


 と、俺も戦う意思をあらわにした。


 とはいえ、所詮はすごろく、だが、前に秋根と優子とやったゲームとはルールが違う。

 今回のゲームはポイント獲得が目的ではなく、あるキーアイテムを集めることが目的となる。そのアイテムはすごろくのゴールに着くごとにもらえるため、如何に決められたターンで、何こそのアイテムを取れるかがカギとなる。


「遊星くんには負けない!」


 そう、気合満々の秋根。だが、実際のゲームでは秋根は最下位になってしまった。


 そう、秋根は途中まで優勢だったのだが、最後の最期で大逆転負けを喫したのだ。

 このゲームのキーアイテムである金の指輪を失う方法もあるのだ。そしてそれは、他人が金の指輪を奪うマスで、奪うか、マイナスマスで失うかだ。


「なんで奪うのですか!!」


 そう、俺は、金の指輪をその時一位だった秋根から奪ったのだ。


「仕方ないだろ。落ち位だったんだから」

「それでも彼女から奪うなら、優子から奪ったらいいじゃん」

「なんで!?」


 急に巻き込まれた優子は驚きの声を出す。

 俺も責めちゃうか。


「まあ、その方法もあったな」

「お兄ちゃん?」


 やべ、これ以上は起こられるな。そろそろやめておくか。


「それで最初の話に戻るけど、遊星くんは彼氏であるという自覚がないんじゃない?」

「そうは言われてもな」


 あの状況で秋根以外から奪うという選択肢はなかった。


 そもそも勝負事で、タラればなんてあるわけがない。


「むむむ」

「諦めろ」


 そして、皆で他のテレビゲームや、トランプなどの遊びを楽しんだ後、お風呂に行った。

 秋根とのお風呂はあの時以来だ。

 実家のお風呂は秋根のところの風呂とは違ってかなり小さい。


 二人入ればぎりぎりの感じがする。

 正直余裕がなく、秋根の肌に大分俺の肌が振れることになる。


 正直、なんか、秋根の太ももが思い切り当たって恥ずかしい。

 それに、秋根にとってはむしろ意識させたいと思ってるだろうから、ちょっと嫌だ。

 家だと、お風呂が広いから、距離を取ることは可能だったのに。

 まあ、ハグしたことあるのにいまさらという話だが。


「懐かしいよね。このお風呂」


「『一人じゃ……怖いの。着いて来てくれない?』とか『遊星くんが来てくれないと嫌なの!! 怖いの!!』とか言ってたよな、お前」

「それは忘れてよ。前も言ったけど、黒歴史なんだから!!」

「それは悪かったな」

「でもね、やっぱりこのお風呂懐かしいのです」

「もう一回かよ」

「うん。この狭い感じが好き」

「そうか」

「抱っこできるしね!!!」


 そう言って俺に抱き着く秋根、俺はそれを甘んじて受け入れた。

 太ももが当たるだけだと、恥ずかしいけど、ハグだともう恥ずかしくないのは不思議な事だ。


「そう言えば、あの時の話なんだけど……やっぱりあの時の情景が思い浮かぶの」

「まあ、そりゃな」

「やっぱり遊星くんの家のお風呂好き!」


 そう、秋根はにっこりと笑う。


 そしてお風呂から上がった後、寝室に行くことにした、



 寝室は、床に布団を敷いて寝るというタイプだ。

 俺と秋根で横になって寝る。


 いつもは秋根の家のベッドに寝てるから、いつもとは違うくて、不思議な感じがする。


「どうだった? 俺の実家は」

「うん、良かった。だって、懐かしかったし。……ここも懐かしいし」


 そう言って、俺に抱き着く秋根。


「最初怖かったの。久しぶりに会う両親はどうなのか分からなかったから。でも、やっぱり五年前と変わってなかった」

「お前が変わりすぎてただけだけどな」

「私はいいのですよ」


 そう言って秋根は俺の脇を軽くくすぐった。


「おい!」


 思わず突っ込む。すると、秋根は「口は禍の元なのです」と言って笑った。




「それで……明日は墓参りだよね」

「ああ」

「てことは、道弘さんの?」


 道弘は俺の祖父で、三年前に亡くなった。秋根にも好かれていた記憶がある。

 秋根と爺さんは数回しか会ったことはないのだが、かなり秋根になつかれていた。


「私がいなかった時期に死んじゃったから、それが気がかりなの」

「そうか……なら明日ゆっくり別れを言うといいさ」

「うん」


 そして俺たちは抱き着きながら寝た。

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