第33話 実家

 そしてまた日が経ち、お盆となった。

 そう、実家に帰る日だ。

 結局優子は俺たちの家に帰ってきた後もずっと俺たちの家にいたわけだから優子にとっても実家帰りとなる。

 俺たちの家から俺の実家まではそこまで遠くはない。

 電車の中で秋根と優子と楽しくしゃべりながら電車に乗る事一時間。楽しかったからか、体感時間的に思ったよりも早く着いた。


 そこから歩く事十分。

 そしてようやく家にたどり着いた。


 そのままインターフォンを押そうと思ったが、ふと思った。

 俺にとっては三か月ぶり、秋根にとっては五年ぶりだ。


「秋根押すか?」



 秋根にとっては感動の再会となるし、久々の俺の家だ。

 秋根が押したほうがいいだろう。


「分かったのです」


 そして秋根が押す。すると、ピンポーンという音がして、ドアが開かれる。


「お帰り遊星、優子。そしていらっしゃい……」


 ドアから顔を出した、俺の父さん(正敏)は固まった。


「秋根です」


 秋根は頭を下げる。


「秋根ちゃん?」

「結構変わってるから一瞬分からないだろうけど、秋根だ」

「おう、久しぶり……」



 父さんは現実が呑み込めていないようだ。勿論、俺と秋根が再開して付き合っていることは知っているし、今日秋根が来ることも知っているのだが、まさかここまで秋根が五年前とは違うとは思っていなかったようだ。


「まあ、とりあえず上がってくれ。母さんが待ってる」


 その父さんの言葉を聞き、俺たちはぞろぞろと家の中に入っていく。



「あら、遊星。おかえりなさい」

「ただいま、母さん」

「遊星!!!!」



 そして母さん(春子)が俺に抱き着いてくる。



「なにすんだよ、母さん」

「だって、久しぶりの遊星なんだもん」


 忘れてたわ。母さんは極度の親ばかだった。


「優子も! ギュー」


 優子の方に抱き着きに行った。だが、優子は見事によける。

 そのまま優子は「いい加減にして!」と怒鳴る。


「私ならいいよ」

「分かった」


 結局母さんは秋根に抱き着きに行った。

 秋根も抱き返し、ハグが成立した。


 良かったな母さん。




 そして、話もそこそこに、母さんが前もって用意してた料理を食べる。


「わあ、卵焼きなのです」


 そう、秋根が笑顔で言う。


「おいしそう」

「秋根ちゃん、好きだったでしょ。我が家の卵焼き。夜は焼きそばだからね」

「やった! のです」


 事実、秋根は子どものころ俺らの家に結構遊びに来てた。そのたびにうちの卵焼きとあとは……塩焼きそばを楽しんでいた。

 もはやそれ目的で俺たちの家に遊びに来てたとでも思ってしまうほどだ。


「美味しい!」


 秋根は満面の笑みでそう言った。


「お前にとっては五年ぶりだもんな」

「うん。最高なのです!!」

「そう言ってもらえてよかったわ!!!」


 母さんは笑ってそう言う。


「ところでだけど、なのですって何かしら」


 今かよ! と思わず言いたくなった。だけど、よく考えたら秋根はかなり自然になのです口調を使っている。自然過ぎて最初は気づかなかったのだろう。


「それは……」秋根は覚悟を決めたような顔をする。「ラノベの影響です!」


「ラノベ?」


 母さんそこらへん疎いからなあ。


「これ!」


 そう言って秋根はカバンからラノベを取り出した。

 秋根のこびなのですのモデルになったキャラが出ている小説だ。


「こういう表紙が萌えキャラで、さらに読みやすく書かれているのです。それで、ストーリーも分かりやすくシンプルでなおかつ派手なシーンもありラブシーンもあるから面白いのです。さらに小説媒体という事で、キャラの心情が分かりやすくて、しかも得とかないから、キャラが今どんな表情をしているのかとかも分かるし、それに……」

「秋根ストップだ。母さんが困ってる」


 俺としてもまさか母さんに秋根がこんなにも激しく布教するとは思っていなかった。

 しかし、これ俺よりもラノベに詳しいんじゃないのか。

 末恐ろしいな秋根。


 そしてとりあえずそのページを見せて、なのですの由来を見せることで解決はした。

 しかしこれ秋根じゃなかったら俺が色物好きみたいになってしまっていたところだな。

 今度、秋根にあまり多用するなという事だけは伝えておかないとな。


 そしてご飯が終わった後、外に少し出かけることにした。散歩だ。


「ここ懐かしいのです」


 そう言って秋根が周りの風景を見る。


 近所のスーパー、懐かしき母校、俺も四ヶ月帰ってないだけだが、全てが懐かしい。


 俺でさえそうなのだから、秋根にとってはもっとだろう。


「ねえ、遊星くん」

「何だ?」

「懐かしいね。この景色」

「ああ、そうだな。あの日々を思い出すわ。……確かあの公園でお前一人泣いてた陽があったよな」

「え、そんなのあったっけ」

「ああ、嫌なことがあったって、一人泣いてたよ」


 確か、スカートが泥まみれになってて泣いてた記憶がある。

 もしかしたらあれも俺が知らない間、来夏達に虐められて生じた結果だったという事か。

 今考えたら秋根がいじめられてたということを示しているようなところ結構あったな。

 上靴がなぜがゴミ箱にあったりとか、なぜか秋根の服が軽く濡れてたりとか。


 ……なんで俺気づかなかったんだ、逆に。

 全ていじめと繋がるじゃないか。


「秋根、なんかすまん」

「え?」

「いじめに気づけなくて。

 よく考えたらあの時のお前はいじめを受けてた。それに気づけなかった俺の落度がお前を転校させてしまった。本当に申し訳ない」

「いや、そんな……」


 秋根は困ったような顔をしていた。

 まあ、そりゃあそうだろう。急に謝られたんだから。


「遊星くんのせいじゃないよ。だって、悪いのは全て来夏ちゃんたちなんだから」

「そうだな」


 そして二人でブランコに座る。


「懐かしいね。ここ。遊星くんが私を慰めてくれたブランコ」

「結局覚えてるのか?」

「さっきちょっと思い出した」

「そうか……本当にあの日々は懐かしいな」

「うん。懐かしい……のです」


 そんな会話をしながらブランコを漕ぐ俺たち。

 静かだ。


「でも、私は今も楽しい。油性君が隣にいるから」

「……おう」

「……照れた?」

「……うん」


 正直、さっきの秋根の言葉は破壊力抜群だ。

 秋根のやつ、普段はそんなキャラじゃないだろ。


 そしてそのまま二人で会話をしながらブランコを漕いだ。いつもと同じ生産性のない会話だが、その一方で場所の関係か、いつもより楽しかった。

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