第43話 夏祭り

  コミケから帰ってきた翌日。


「ねえ、これ見て」と、秋根に言われた。


 なんだろうと、それを見ると、インスタだった。

 そこを見ると、いいねの数がやばいことになっていた。

 そう言えば秋根はこの前インスタにコスプレ姿を挙げていたな。


「えっと、いいねが三万八千。すごいバズりようだな」

「うん。それにコメント欄を見ると、面白いことが書かれてるの」


 そこには(いない間にコスプレイヤーに転身したのか)、とか(コスプレしてても可愛すぎるよー)とか書いてあった。


「こんなの見てると、本当にうれしくなるんだ。あ、遊星君がほめてくれるのが一番うれしいけど」


 そう言ってい飼って笑う秋根。そしてその手には秋根のコスプレ写真が写ったスマホがある。

 という事はつまり、


「秋根可愛いな」


 褒めてほしいのだろう。

 仕方のないやつだ。


「ありがとうなのです」


 そう言って秋根は笑顔を見せた。


「そう言えばなのですけど。」


 秋根は一枚のチラシを見せた。

 それは夏祭りのものだ。


「これが今日あるみたいだから行きたいのです」


 そうおどおどした様子で言う秋根。

 確かに今年は一度も夏祭りなんて行ってなかった。

 確かにいい機会だ。

 秋根との夏祭りとか絶対に楽しいと思うし。


「行こう」


 俺はそう言った。

 その後、優子にも相談して、五時に家を出て向かう事となった。


 だが、出発の二時間前の事だった。


「もう一人増やしてもいい?」


 そう、優子が 聞いてきた。

 優子が言うという事は、……思い当たる人物がいる。

 まさか。


「朱音ちゃんが来たいって」


 やはりだった。


「それって私目的?」

「そうみたいだね。残念ながらお兄ちゃん目的じゃないよ」

「おい、優子。それはどういうことだ」

「えへへ、残念でした」


 こいつ。

 相変わらず癪に触るようなことばかり言いやがるな。


「それはそうと、秋根」

「ん、どうしたのです?」

「楽しみだな」

「はい! なのですっ!」


 そして一時間後。俺たちは家を出た。

 向かう先は当然夏祭りだ。

 そこにはたくさんの人がいた。


「すごいのです」

「でも、この間もっとすごい人波を見ただろ」


 コミケの方が凄かった。


「そうだね」


 そして、待つこと五分。朱音ちゃんが来た。

 その装いは、浴衣だった。


 だが、ただの浴衣ではない。彼女は前会った時と別人のようだった。

 まず眼鏡をはずしていた。

 そして、髪の毛はただおろされているだけではなく、後ろで三つで編み込まれていた。

 そして薄い化粧もしてあった。

 これは俺のためにしてきてくれたんだと思うわけがない。

 明らかに秋根がいるからこのような格好をしているのだろう。

 憧れの人に雑な――この前のような髪の毛はただ雑におろしただけで、ノーメイク、そして服も適当に着てそうな感じ――に比べたらかなり良くなっている。

 とは言っても、俺もそこまでおしゃれに詳しいわけでは無いのだが。


 とはいえ、本人に可愛いとか言うのは、セクハラかもしれないからやらないのだが。


「可愛いね」


 とか思ってたら、秋根が言った。


「ありがとうございます」


 そう言って朱音ちゃんは即座に頭を下げた。

 なんというか、師匠と弟子みたいだ。


「それにしても秋根さんも本当に似合ってますよね」

「まーね、コスプレもいいけど、浴衣もいいよね」

「ですね」


 なんというか、二人きりにさせといたほうがいい気がする。


「優子、二人は置いといて行こうぜ。二人きりにさせてやりたい」

「でも、お兄ちゃん」

「いいから」


 そしてまずは祭りの雰囲気を楽しみながら歩いていく。

 だが、すぐに、



「おいていかないでほしいのです」と言って秋根が向こうからは知って来た。

 見ると、朱音ちゃんは向こうでこちらに向かって走っているようだった。

 ああ、朱音ちゃん、秋根に振り回されているな。

 


「嫌いになったのですか?」

「いや、話してたから割り入ったら悪いなと思って」

「むむ、そんなことあるわけないでしょ」


 そう言って口を尖らせてきた。


 そしてまず、屋台を見つけた。

 売っているのは、わたあめだろうか。


「私これが食べたいのです」


 そう言って秋根は財布を取り出し、お金を払う、


「じゃあ、遊星君。一緒に食べるのです!!!」


 どういう秋根は買ったわたあめをひとなめしてから俺に渡してきた。

 それを受け、俺もひとなめする。


 うん、美味しい。


「秋根さんがなめたわたあめ……」


 朱音さん、それ変態みたいになってくるからやめてほしい。

 そうして歩き続けていると、金魚すくいがあった。


「私やりたいのです!!!」


 そう秋根が言って、挑戦した。

 ちなみに後ろにいる朱音ちゃんは「がんばれ秋根さん」と、応援している。

 さて、俺も秋根の笑顔が見たい。


「楽しめよ」そう言う。


 与えられたポイは三つだ。

 つまり三つ破れたら終わりだ。

 秋根は水の中を注視し、隙を探っている。

 タイミングを見計らったら一気に攻めていくつもりなのだろう。


「よし」


 秋根がそう呟き、一気にポイを水の中に突っ込む。

 そしてそのまま金魚を枠の中にいれ、一気に引き上げていく。


 だが、


「あぅ」


 ポイが破れ、金魚はその穴の中からぽちゃんッと、水の中に飛び込んだ。


「うわあ、無理……」


 秋根はそう呟いた。

 仕方ない。ダメな部分を教えるか。


「秋根、これは強引に行かないで、一匹ずつ丁寧に取っていくのが大事なんだ」


 そしてだ、


「しかも、大きな金魚じゃなくて、小さい金魚を狙うのが大事だ。そして、」



 俺は秋根のポイを一個もらう。


「さらに斜めに入れて、金魚をポイの中に入れたら一気に引き上げる」


 俺は金魚を一気に水から取り出し、お椀にいれる。


「これで、幾分かはましになるはずだ」

「ありがとうなのです」


「お兄ちゃんの癖にやるねえ」

「お前はだめっていろ」


 全く、優子のやつは。


「さて、やってみろ」


 そして秋根はおびえながら少しずつ水の中にポイを入れていく。

 そして秋根は一気に引き上げる。が、金魚はやはり逃げる。


「むむむ、なのです」

「諦めるな。惜しかったぞ」

「そうだね。もう一個あるから」

「それとまだ力が入りすぎな気がする。金魚は重くないから軽い力でいいぞ」

「はいっ、師匠」



 そして秋根はよしっと気合を入れる。

 つーか、師匠。なんとなく、いい響きだな。


 そして再び秋根は水の中にいれ、一気に引き上げた。


「やった、一匹ゲットなのです」


 そう言って金魚を俺に見せてくる秋根。

 そんな彼女に、「やったな」と言って頭を撫でた。


 結局秋根がゲットしたのはその一匹だけだった。

 だが、秋根は満足そうな表情を見せ、金魚を逃がす。

 秋根にとっては金魚を育てたいわけでは無いからという事らしい。


 その後、射的があったので射的をした。


 秋根は射的の銃を持って「むむ」と言いながら撃つが、うまく当たらない。


「秋根ちゃん、私に任せて」


 そんな時優子がそう言って秋根の由美を奪う。

 そして、優子が一番上のお菓子を狙って撃つ。

 するとお菓子に見事に当たり、落ちてきた。


「おい、優子」

「えへへ、私、実は得意なんだ」

「そうか、優子凄いな」

「えへへ、意外でしょー」


 優子、調子に乗ってるな。


「あ、でもお兄ちゃんから褒められても何も出ないよー」


 出てるんだよな。優子の笑顔が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る