第4話 食事

「もう七時半だな」

「うん」


 ゲームに夢中で、時間が経つのが早い。


「そろそろご飯食べるか」

「ええ」


 そう、元から今日ご飯を食べるということになっていたのだ。そして秋根の手料理が運ばれる。昨日作り置きしてたやつらしい。


「おいしそうでしょ」

「ああ。手が込んでるなあ」


 結構時間がかかりそうな料理だ。


「でしょー! 私料理の練習したんだ。将来困らないようにって。まさかこんなに早く役に立つとは思ってなかったけどね」

「もう食べて良いのか?」

「もちろん! いくらでもおかわりあるからね」

「ほんじゃあ、いただきます」


 と、一口食べる。


 見た目通りの味だ。やっぱり美味しい。普通にうちのご飯よりもお世辞抜きで美味しい気がする。これは……練習したということはある。


「美味しい!」


 と、感想を述べる。


「良かった。嬉しくて泣きそうだよ」

「おいおい」

「いや本当だよ。遊星君に褒めてもらえるほど嬉しいことはないから!」


 そう言う秋根はうれしそうな笑顔を見せた。


「そう思ってもらえるんならうれしいな」

「本当遊星君の誉め言葉はマッサージレベルの力があるからね」

「そうか、だったらほめ殺さないとな。おいしい! 最高のうまさだ! おいしすぎて幸せすぎる。もう最高。やばい」

「やめてええ」


 まんざらではない様子だ。もっと褒めたいところだが、俺の語彙力がゴミなせいでもう言うことがないが。


 そして、


「今度はさ、これしてみたい」


 と言われた。それは……あーんだった。


「分かったよ」


 もう、混浴したのだからもう羞恥心自体は死んでしまっている。大人しくあーんを受け入れた。


「あーんした食事はどうですか?」

「ああ、美味しさに磨きがかかってるわ。もう、神かと思うくらい美味しい」

「ありがとう。じゃあ、次私にして?」

「……ああ」


 そして俺は彼女の口にゆっくりとチャーハンを運ぶ。


「うん! おいひい。遊星くんのあーん最高」

「それは良かった」

「最高だよ! 遊星くん最高、神あーんスキル!!」

「なんだよ、神あーんスキルって」

「いいじゃない!」


 秋根が俺を褒めまくってくいるのはもしやさっきの仕返しか?

 そんなことを考えていると、


「そう言えばさ」


 と、秋根が時計を見ながら、


「今日は泊まるってことでオッケー?」


 と言った。


「え?」


 泊まるの、俺?


「いや、それは流石に……」

「大丈夫。今日親いないし。泊まって行ってよ」

「いや、そうは言われてもなあ」

「だめ?」


 上目使いしてきた。かわい子ぶりっこしてやがる。


「わかったよ」


 俺も嫌なわけではない。別に明日学校に持って行かなきゃならないやつはないしな。


「やった! じゃあ、今日はよろしくね」

「よろしくねって何だよ、よろしくねって」

「そりゃあ当然今日の同棲のことよ」

「一日だけなのに、同棲ってなるのか?」

「もちろん!」


 そして俺たちは食事の後、すぐに布団を敷き、そこで一緒にゲームしたりおしゃべりすることにした。 旅行の時に宿屋でやるのと、同じ要領という訳だ。


「そういえばさ……」


 ゲームをしている時に秋根が言葉を発っした。


「遊星君はこの五年間どういう感じだったの?」

「俺? いたって普通だけど」

「えー普通なことないでしょ? 教えてよ」


 そう言って秋根は俺の方にごろ買ってきた。


「教えて?」

「分かったよ」


 と言っても、特質すべき点がないんだよな。友達は仁だけだし、中学の時も大してイベントがあった訳でもない。

 いや、一つだけある。


「俺は、中学校に上がってから、最初は友達がいなかったんだ」

「なんで?」

「そりゃあ、小学生の時の唯一の友達が急にいなくなったからなあ」

「あ、それはごめん」

「で、その時に話しかけてくれたのが、仁だったんだ」

「仁君って、あの時遊星君と一緒にいた子?」

「ああ、彼曰く俺は精気の失った目をしていたらしい」

「なんで?」

「分からないか?」


 お前がいなくなったからだよと言いたい。


「だから、彼は俺を慰めてくれたんだ。それでいつの間にか友達になっていた」

「へー、それなんかちょっと嫌だね」

「なんで?」

「嫉妬しちゃう」

「だったら会いに来ればよかったじゃ無いか」

「………………そうだ、私のこともはなしちゃおう!」

「話題変えたな?」

「なんのことかしら」


 くそ、ふてぶてしい。触れられたくなかったのか?


「で、私は中学時代、私立に行ってたの」

「中学から私立ってことは頭良かったのか?」

「ふふん、こう見えても頭はいいからね。まあ、それは置いといて、私ね、中三の時に人生で初めて告白されたの。最初は断ろうと思ってたけど、結構しつこく告白してきたから付き合あった。でも、付き合ってみたらなんか違うかった。どうしても遊星君の幻影が邪魔をして、何もかも楽しくなかった。彼も決して悪い人ではなかったけど、付き合って二週間で、申し訳ないけど振っちゃった」

「ならなんで俺に会いに来なかったんだ?」


 変えられた話を戻すようで悪いけど、どうしても気になる。


「それは……触れないで」

「え?」

「触れないでよ」


 なんか、泣きそうな顔をしてるけど……これは大丈夫なのか? いや、確実にこれ以上この話を続けてはいけないような空気が流れている。


「そうか、まあ俺のことをそう思っていてくれてうれしいよ」


 よくわからなかったから、まあ、こう言ったらいいだろう。


「ありがとう」


 そう小声で秋根が言った。おそらく俺が話を変えてくれたことに対しての物だろう。


「つまり、私は遊星くんのことが好きってこと」

「おう、ありがとう」

「じゃあ、」


 そう言って秋根は俺に抱き着いてきた。


「おい、恥ずかしい」

「周りに人いないからいいでしょ?」

「そう言う問題じゃない」


 お風呂ではなんか感覚がマヒしてしまっていたが、やっぱりこういう行為は恥ずかしい。


「だめだああああ」


 俺の中の羞恥心が爆発しそうな感じがする。


「そんなこと言わないでよ」


 そんな俺に対して秋根はそう呟いた。


「何だよ」

「じゃあ、もう少しだけ横にいるね。ハグが嫌なら」


 そう言って、秋根は俺の隣に引っ付いた。


「まあ、これくらいなら」

「そう、良かった」


 そして、なんかこう、恥ずかしい空気? のまま二人でゲームをして、そのままいつの間にか寝落ちした。

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