第11話 睡眠
そして、電気を消したものの、やはり緊張は残り続けていた。
無事に安眠できるわけがなかったのだ。
それもそのはずだ。なにしろ、隣の秋根の寝息が直接俺にかかって、かなりドキドキさせるのだ。
しかも秋根も俺を抱き枕のようにして寝ているのも相まってだいぶきつい。
これに比べたら昨日のなんて、一緒に寝ているとは言えなかった。
確かに俺は五年前に一緒に秋根と寝た。だが、その時とはまるで状況が違うのだ。あの時に比べて俺の女子耐性は下がっているし、秋根自体も女としての魅力が上がっている。
無理だ……俺には。
それに、別の所で寝ようと思っても、今の状況では秋根にしっかりとつかまれている訳で、この場から離れることもできない。
このままだと比喩表現とかじゃなく、マジで心臓が爆発するぞ。
ただ、これはどこぞの美少女じゃない、秋根だ。そう、ただの秋根だ。
だから、意識することはないぞ、俺。
いや、そんなことを考えても、ほとんど効果はない。まだ心臓がまだどきどきとしている。これじゃあ、だめだ。
考えるんだ、ゲームのこと、ラノベのこと、その他色々と。考え事をしてたら大丈夫なはずだ。
そして俺の意識は沈みかけるが、
「遊星くん、大好き」
だが、そう秋根に寝言を言いながらさらに引っ付かれたことで、俺の意識は再び覚醒してしまった。こいつ、どれだけ俺のことが好きなんだよ。
そしてしばらく考えていたら無事再び意識が闇の中へと沈んでいった。良かった。
「遊星くん。起きて!!」
「え!?」
そしたら目の前に秋根がいた。
「料理作ったから、食べて」
「え?」
そして時間を見ると、七時四五分だった。
「もうこんな時間か!?」
「こんな時間だよ。私は遊星くんのお母さんじゃないんだから、起こさせないでよ。それとも私とのダブルベッドだったから、熟睡できた?」
「冗談はいいよ。まあ、行こうぜ」
「あ、偉そう」
そんな秋根の声を無視して俺の部屋に行く。着替えやら全ての物はここに置いてあるのだ。
「さて」
と、制服に着替える。昨日までの部屋じゃないからなんとなく落ち着かない。
少しずつこの部屋にも慣れて行かないとな。
そして洗面所で髪の毛のセットや歯磨きをして秋根の待つリビングへと向かう。
「遊星くん遅い。私まで遅刻しちゃうじゃん。もしかしてまたラノベでも読んでた?」
「読んでないわ!」
精一杯準備してこの時間だったんだよ。別に怠けてはない。
「まあそれはいいわ。さあ、私の作った卵焼きをたんと食べて」
秋根はそう言って、卵焼きを俺の目の前に出す。
「美味そうだな」
「そうでしょ。まあ私の作ったやつに外れなんてないから」
「なんかそう言われるとムカつくな」
「えー。まあとりあえず食べて、遅刻しちゃうから」
「分かった」
そして俺は卵焼きを一つ口に咥える。
「うん。美味いな」
「良かったー。でしょ、美味しいでしょ!」
「ああ」
ムカつくけど、それが事実なのだから困る。
そして無我夢中に食べていくこと十分、無事完食した。
「ご馳走様でした」
「いえいえ、じゃあ行こう!」
「おう!」
そして今日もしっかりと手を繫ぎながら、二人で歩いて学校へと向かう。
「今日もみんな見てるね」
「ああ、見られてるな。……やっぱり気持ちいいのか?」
「うん! もちろん。もっと見せつけたいね」
「おい、まさかハグはやめろよ。こんな公衆の面前で」
「分かってるよ。とでも言うと思う!?」
そして秋根は抱きしめてきた。
「ああ、分かってるよ」
そう言って、俺はため息をついた。公衆の面前でハグ、そんなイベントがいつか起きるかもとは思ってはいたが、まさか今とは思わなかった。
どうやら秋根には羞恥心というものが必要らしい。
「てか、そろそろ離れてくれないと、遅刻しちゃう」
「分かった。行こ!」
そして俺は秋根の手に引っ張られる形で歩く事になった。なんで俺が提案したのに、俺が引っ張られているんだ。……解せない。
そして学校の門の前まで来た。そろそろ秋根とのおわかれの時間だなと思いつつ、中へと入る。すると、
「あ! 見つけた!」
そう声をかけられた。まさに昨日のあいつだ。まさか校門前で待ち伏せしてたのか。こいつさては暇だな。
「僕の秋根ちゃんを返せえ」
そう言い寄られた。普通に今は九時二五分。こいつの相手をまともにしてたら時間が無くなってしまう。それ以前に秋根が明らかな嫌な顔をしている。
「僕のって……昨日も言った通り、秋根は誰のものでもありませんよ」
「いいよ、遊星くん。そんなやつほっといて」
「いや、でも」
「いいから!!」
そう言う秋根の顔には焦燥感があふれていた。どんだけ嫌われてるんだよ、こいつ。
そして無事に(?)教室に着いた。そして入って早速最初に、仁に話しかけられた。
「昨日はどうだった?」
「ああ、昨日は同棲するため……」
「同棲ってど!?」
そう大声で叫ぼうとする仁の口を大慌てで閉じさせる。
「馬鹿、そんなこと知られたら面倒じゃねえか」
まあ、たぶん感じ的に数日と持たずにばれる気がするが。
「ああ、すまん。しかし羨ましいなあ。……それで昨日はどうだったんだよ」
「昨日は一緒にラノベを読んだ」
「一緒にラノベ!? 男子の夢じゃねえか」
「そんなに!?」
まさかその返事が返ってくるとは思わなかった。そんなに仁は女子とラノベが読みたかったのか……。
「それで、どんな感じだったんだ。その感想は」
「感想か、普通に楽しかったし、秋根が後でラノベキャラみたいな感じのしゃべり方してた」
「おいおいおい、それ、男子憧れイベント第三位には入るぞ」
「そんなになのか!?」
「そんなにだよ。かー羨ましい。顔だけじゃなく中身まで完ぺきとは。恐れ入ったぜ、お前の彼女」
「はは、本当にな」
しかし、結局秋根の威を借る遊星になってしまってるな。普通に気持ちがいいし。そしてそのタイミングでホームルームが始まってしまい、話が終了した。そして一時間目の授業終わった後、
仁は再び俺に色々と訊いてきた。おい、昨日はあまり訊いてこなかったじゃねえか。なんで今日はこんなに質問攻めなんだよ。
そう思った俺は、「なんで今日はどうしてこんなに訊いてくるんだ?」と秋根に訊き返した。
「いや、もったいないと思ってさ」
「そう言うことだ?」
「前言ったみたいに、漫画みたいな展開じゃん。あ、遊星的に言えばラノベ的展開か。だからさ、気になってさ」
「気になるものか?」
「ああ、だって、マジでリアルラブコメだもんな」
リアルラブコメ。そんなことを言われたら恥ずかしくなってしまう。だって、ラノベのラブコメは見てる方も恥ずかしくなるようなイチャイチャが沢山あるし……。
「でもそんな事学校ではすんなよ。見てるこっちも恥ずかしいと思うから」
「それは秋根に言えよ」
俺に言われてもという感じである。
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