第14話 クレーンゲームとメダルゲーム

 次に俺たちが向かったのはクレーンゲームコースだった。秋根は買って追われたからか、嫌に上機嫌だ。見ているだけでイライラの感情がわいてくる。

 というかこいつはただ一試合の結果でどれだけ上機嫌なんだよ。

 その様子を見てると、「お前は子どもか!?」とツッコみたくもなってしまう。

 だが、無邪気に笑う秋根はむかつく一方かわいい顔もしているけど。


「そう言えば遊星くんってクレーンゲーム苦手だっけ」

「まあ苦手だな」


 四年生の時、クレーンゲームが苦手で「わ、私でよければ取ってあげようか?」と秋根に言われたことがある。その時は秋根が五〇〇円かけて取ってくれたんだっけ。


「今日も私が取ってあげようか? 遊星くん?」

「そうはいってもあんまりほしいやつはないけど……」

「それはどうかな? このキャラ見たことあるよ?」

「spレは本当かな? このキャラ遊星くんが持ってるラノベで見たことあるけど……」


 確かにこのキャラは俺が持っているラノベに出てたキャラだ。


「……なんで知ってるんだよ」

「そりゃあ知ってるよ。そのキャラくらい……てか昨日見たし」

「記憶力良すぎるだろ」


 よく覚えていたな。しかもこのキャラはかなりえぐいイチャイチャをするタイプのラノベに出てたキャラだ。正直覚えててほしくなかった。


「ふふん。前言った通り記憶力良いのよ。てか、さっさと取ろうよ」

「ああ」


 そして秋根はその卓越したテクニックでフィギュアをどんどんと出口に運んで、丁寧に出口へと入れていく。そんな秋根を見ているだけで楽しい。まるで職人技を見ているみたいで。

 これは、どっかのバラエティ番組ワンチャン出れるんじゃないか?

 小学生時代もすごかったが、さらに磨きがかかってるな。


「……相変わらずすげえな」

「ふふん」


 元から上機嫌だった秋根が俺が褒めるたびに上機嫌になっていくので、もはや上機嫌のオーバーフローでもしそうな勢いだ。

 どんだけ無邪気に喜ぶんだよこいつ。もはやいらいらは飛んでしまった。


 そして、秋根はどんどんと俺のラノベに出てたキャラを取って行った。


「これで遊星くんのオタク部屋がさらなるオタク部屋になるね」

「……うるせえ……」


 とはいえ、もらえるのはうれしいので、「ありがとう」とは言っておく。


「お礼に私にもオタク部屋見せてね」

「……嫌だ……」

「じゃあ、これ私の物ね」


 と、秋根はフィギュアを自分のカバンに入れる。


「おい!」

「だって見せてくれないんですよね。なら私にもその権利はあります」


 くそ、確かに秋根が自分の金でとった。つまりまだ秋根の持ち物という訳か。上手い交渉だな。秋根に持たされるくらいなら俺が持ってた方が断然フィギュアのためであるし、俺のためでもある。

 これは仕方がない。


「分かった」

「ありがとう。これで楽しみ増えた!!!」


 はあ、あまり見せたいものではないんだけどな。……いや、引っ越しの時に見せたから、今更見せるのもどうってことないのかもしれないけど。

 そして俺はたちはクレーンゲームを後にして、メダルゲームのところへと来た。秋根がこれをやりたいと思うのは意外だなと思ったが、秋根曰く、「これ二人でやったら面白そう」という事らしい。

 そして、メダルを一〇〇〇円分買って、一番大きなメダルゲーム機の前に行く。


「絶対増やそうね。遊星くん」

「ああ」


 しかし、増やしても持っては帰れないんだけどな……だが、こういうのはやる気が大事だ。


 そして、メダルを一枚ずつ入れていく。一枚一枚丁寧に。

 それに対して秋根はガンガンと二枚ずつ大雑把に入れる。


「なんでそんなにいっぺんに入れるんだよ」


 これじゃあ、増やせなくないか?


「大丈夫。こういうのは楽しければいいから」


 そう言って秋根は相変わらずガンガンと入れていく。おい、さっきの増やそうとは何だったんだ。

 だが、秋根がやっているのに俺もやらないわけには行かない。

 そこで俺も二枚ずつセットで入れていく。


「お、遊星くん分かってるね!」


 そう秋根が言う。そして俺たちはものすごい勢いでメダルを入れていく。互いに負けないように。

 そしてその分、俺たちの持っていたメダルもかなりの勢いで無くなっていく。


「中々ルーレット当たらないね」

「そうだな」

「このままじゃあ単純作業じゃん」


 ルーレット……コインがある穴に落ちることでルーレットが回るのだ。そのルーレットで当たるとメダルが出たりする。だが、暫く出ていないのだ。秋根は先ほどの言葉からも分かる通りかなり不機嫌になっている。いったいさっきまでの上機嫌はどこに行ったのか……

 だが、そのまま少し入れていたら、


『ジャックポッドチャンス』


 という音がした。これは大量獲得チャンスなのか。


「チャンスだね、遊星くん」

「ああ」

「絶対当たってほしい。遊星くんも祈っといて」

「分かってる」


 勿論当たってほしいという気持ちは十分にある。当たらなかったらただの虚無だ。

 そして隣で手を合わせている秋根に合わせて手を合わせようとしたら「待って」と言って秋根に手をつかまれた。どうやら祈る行為の代わりに手を繫ぐという行為を入れたかったらしい。

 とりあえず、ボールのの行く末を見守る。ボールが入ったところでもらえるコインが変わるのだ。

 そしてしばらく見つめていると、ボールが入った。それを見て俺たちは……




「なんでえ!」

「くそ!」


 悔しがった。ボールは三〇〇枚のところに入ってしまったのだ。三〇〇枚……確かに普段ルーレットで二〇枚とかしか当たらないこのメダルゲームの中では大した額だ。だが、このジャックポッドチャンス、その中では三〇〇枚は一番少ない枚数なのだ。

 そして三〇〇枚がメダルゲームの中に大量放出されて行き、勢いで何十枚もゲーム機から出てくる。

 だが、秋根と俺はその光景を無心で見、その後二人で顔を合わせた。互いにその悲しさを埋めるように。


 そしてその三〇〇枚弱のメダルもすぐに無くなったのであった。

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