第20話 アーリデの決意・下の巻
「その服、とっても似合ってますよ。すっごく可愛いです!」
「そ、そうか?……なら、買ってみるかな?」
「いえ、この服は俺が買います。そしてプレゼントします!どうでしょう?」
「うむ……嬉しいが、同じ五芒星とはいえ私のほうが高級取りだし領地収入もある。あまり頼りすぎたくない。これはちゃんと自分で買うぞ」
「それは残念。ですが……やっぱりとっても似合っていますね。はぁ〜、かわいいです……」
それから、彼女とは仲を深めることになった。
私にも一応友と呼べる存在はいる。だが、そのどれもがビジネスライクだったり、立場が高すぎるせいで遠慮されたりというもので、親友と呼べるような存在はいなかったし、そこまでいかなくてもまともに仲の良い友はいなかった。
そんな中、仕事終わりに頻繁に声をかけてくる彼女に、私は……恥ずかしながらかなり依存してしまった。
魔族として恥ずべきことではあるが、彼女に私という存在のうち、非常に大きな割合を預けてしまったのだ。
だが、それが心地よいというのが困る。抜け出す気も失せてしまうよ。
それと、彼女は私をとにかく着せ飾りたがった。
色んなジャンルの服を着せようとした。
その中には私に似合わないような恥ずかしいものもあった。
だが、傾向としては……犬獣人種の中の一派の民族衣装やそれに近い服を着せたがっていたな。
それに加えて、帯刀した姿を見たがっていた。
たしかに、私自身そのファッションは似合うとは思った。
だが、私は魔人種だし、犬獣人かぶれだと思われるのはなんとなく恥ずかしい。
そうした感情からか、最近の若者が着るようなファッションに傾倒していくようになった。
副官からは威厳がないだの何だの言われたが……別にいいだろう。
似合わないわけではないし、彼女も過剰なほどに褒めてくれる。
となれば、ファッションを磨くことに否はない。
彼女の家に招かれることもそのうち増えた。
おうちデート……そんな言葉が浮かんだりしてしまったことに恥じたり舞い上がったりで、あの頃は情緒が不安定だったな。
それは今もなのだが。
しかし、そんな日々を続けるうちに……気になることが見つかったし、更に増えた。
彼女は副官のバアルという少女と特別仲が良かった。
それに気づいたのは仲良くなり始めてすぐだった。
仲を更に深めるたびに、嫉妬心はどんどん膨らんでいった。
自分でも理解しがたいことだったが、彼女が他の誰かと仲良くしているところを見ると、非常に心が落ち込むようになってしまった。
良くも悪くもさっぱりしているところが自分の長所だと思っていたので、その変化には戸惑った。
立場上常に彼女と一緒にいられて、私よりもずっと信頼しあっているバアルが憎い……そんな風に思ってしまうことは今でもある。
そんなものは醜い感情だし、お門違いの恨みだ。
だから、なんとか心にしまっているし、表に出すつもりはない。
彼女ならばそれも見抜いているかもしれないが、それでもここは譲れない。
しかし、そんな存在がもう一人増えた。
……メタトロン殿だ。
彼女は明らかにメタトロン殿に好意的だった。
もしかしたら、好きになってしまったのかもしれない。そう思わせるような接し方もしていたことがあった。
一番信頼されているのはバアルだし、友としては私のほうが関係値は上だろう。
だけど……彼女にはすべて取られてしまうと錯覚してしまった。
私では、容姿ではメタトロン殿には敵わない。
メタトロン殿は、彼女にもそう劣らない、とてつもない美貌を持っているから。『結構可愛い』という程度の私じゃ比較対象にもならない。
メタトロン殿は極端に無愛想ではあるが、私も愛想が良い方ではないからな。武器にはできん。
力でも勝ち目はない。現時点でも力の差は凄まじいものがあった。
四天王最弱だった私と、四天王ぶっちぎり最強であったメタトロン殿。
その差は縮む気配はなく、むしろ開いているのではないかと思った。
彼女は魔族ではなく、元人間らしいからそうはならないのかもしれないが……魔族の常識的には同じくらいの好感を持っているならまず力のある方に惹かれるのだから、不安だった。
それに、魔王様に至っては本当に彼女を妻として狙っているようだった。
女同士というのは珍しいことではあるが、許されないわけでもない。同性でも普通に子は為せるし、結婚も法で禁じられていないし、せいぜい変わり者だと思われるくらいだろう。
彼女が魔王様に望まれたのなら、諦めるしかないだろう。……だが、まだ終わってはいないというのも理解していた。
そして、彼女と愛し合いたいと思っていることを自覚した。
ならば、取られる前に恋仲になれば良い。
そうすれば、魔王様であっても無理やり奪うような真似はしないだろう。
私も彼女も五芒星だ。魔王様が至尊の座にあるものであっても、台無しにすることはできない。無下にはできないのだ。
彼女がメタトロン殿に惹かれていようと、一度仲を深めてしまえば身近なこちらに意識が向くだろうと思った。
……だから、なんとか攻略しようとしたのだがな。
もし気持ち悪がられたらどうしようと思ってしまい、どうしても素直な気持ちは伝えられなかった。
戦場にいくという時、小声で言うのが精一杯だった。
彼女が女性にのみそういった興味を持っているのは知っている。だけど、もしも違ったらどうしよう。私なんて好みじゃないだろう。そんな言い訳ばかり重ねて、行動に移せない。
だが、言い訳はそろそろやめよう。彼女が戦場から返ってきた時……まずは、思いっきり抱きしめよう!
ハグ程度で済ませるのは奥手すぎるだと?違うな。思いっきり体を擦り付けるのだ!彼女がたまに、私の胸を興味を持って見つめていたのは気づいている。
あまり大きい訳ではないが、小ぶりというほどでもない。
ようするに……誘惑するのだ!その気にさせて、手を出してもらう。いや、それも違うな。無理矢理にはしないが、私が彼女を押し倒す!
……超然とした雰囲気からは気付き難いものがあるが、そういうことに興味がないわけではないのだろう?
力ではおそらく彼女には敵わないので無理やりにとはいかないし、そんな事をする気はない。体が手に入ればいいというわけではないし、心も手に入れられなければそもそも私が逮捕されるだけだからな。
同じ五芒星である以上、罪を無理矢理隠蔽することは不可能だし、やりたくもない。
だが、うまく誘惑すれば私に溺れてくれるかもしれん。
ふふふ、その時までに指南書を読んで自分の体で練習しておかねばな。
問題は、女同士の性技指南書など買ってしまった事を知られたら、交友関係から完全に彼女が相手だと目星をつけられてしまうことだな。
うまくいかなかった時、不名誉か不本意を押し付けてしまうかもしれないが、それは受け入れてもらわねば。
ノエル、貴殿が他者を魅了しようと振る舞っているのは知っている。己の容姿を誇りたいのだろう?なら、魅了した責任は取ってもらうからな……?
ああ、楽しくなってしまった。今から未来に思いを馳せてしまうな。
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