大好きなゲームの強キャラ美少女としてTS転生したけど魔王軍に仕官します
小弓あずさ
魔界統一戦線
第一章 覇王序曲
第1話 新たな目覚め
「……ううん、二千年ぶりの目覚めではありますが、気分が晴れませんね」
忘れ去られた古代の神殿、その奥にある部屋。
そこで一人の少女が『再び生まれ』、『記憶を取り戻した』。
「意味がわかりませんね。なぜ『俺』は『私』としてでもなく、『オレ』としてでもなく、『俺』としてここにいるのでしょう」
容姿は極めて端麗で、どのような時代においても最上の美姫として扱われるだろう。
腰まで伸びた輝くような金髪、すべてを見通すような透き通った蒼の瞳。
そして、唯人とは思えぬ超然とした雰囲気。
容姿からして彼女は人を超越していた。
しかし、彼女にはとある事情があった。
「勇者……あの少女に負けて、封印されて……再び目覚めたと思ったら、こんな記憶までついてきて人格までめちゃくちゃです。『オレ』も『私』も悪いことなんてしていないのに……とは口が避けても言えませんね、ふふ……」
この少女は人と魔族が争っていた戦争の時代、二千年前の時代において、とある神……一般的には邪神と呼ばれる存在を信仰する家庭に生まれた娘であった。
しかし、少女はあまりにも超越していた。
……強い、あまりにも強すぎるのだ。
邪宗門を邪魔と見た魔族や人間が、幾度となく彼女の住む村を討伐しに来たが、そのたびに彼女はその圧倒的な暴力によって敵対者を殺し尽くしていた。
最初は邪神への信仰を示すため、そしてなにより親に褒めてもらうための行動であった。
だが、いつの間にか信仰も愛も失せた。
『利益などくれもしない神などいらぬ。敵対者を討ち払った私ではなく、神などというものを崇めるこの集団もいらぬ』。
そう心のなかで誓った彼女は、しかしこれも人の身であるなら仕方ないことだと諦めて暮らしていた。
そんなある日、邪神がついに降臨した。
多くの供物を捧げたのちに現れたのだ。
『ふむ、汝らが妾を呼んだのか。なかなか見上げた志じゃ。じゃが……ちと、供物が足りんの。この村ごと滅ぼして我が血肉と化してやろうぞ』
その時、彼女は感じ取った。彼我の力の差を。
『そうですか、良かったですね。しかし私のほうが強い』
『な、な……ぁっっ!!』
貶められたとはいえ『本物の神』であった時代もあった邪神の力を超えていたのだ。
少女は邪神を暴力により調伏し、その力と神になるための資質を己の中に取り込んだ。
彼女はそれから『真なる神』を僭称し、世界に戦いを挑んだ。
結果としては……善戦はしたものの、魔王と一時停戦を結んだ人間勢力、魔王の力をしぶしぶ借りた勇者によって封印され、負けた。
そして、封印が解けて今この時代に舞い戻ったわけだが……。
「俺は……どちらなのでしょうね。どちらでもないのか、はたまたどちらでもあるのか」
少女の記憶に妙な記憶が『蘇った』。
日本と呼ばれる国、おそらくは異世界において何不自由なく暮らしていた男子中学生としての記憶が。
そして、人格が統合されたのか、以前のどちらでもない新たな彼女になっていた。
人格の根本は以前の少女に近い。
だが、少年の記憶が生まれたことで一定の倫理観は生まれたし、本性の残虐さも収まった。
性自認としてはおそらく男だろう。これも少年の側の影響だ。
だが、『どちらでもある』。
かつて神として世界に覇を唱えた少女でもあるし、成績優秀スポーツ万能でありながらも己に物足りなさを感じていた少年でもある。
現状に不思議さと不満を抱えながら……とりあえずは。
「体に習って、名乗りは……そう、『ノエル』としましょうか。『私』はそう名乗ったんですから」
名前を決めた。
この世界は『少年』にとってはゲームの世界の話だった。
かつてドハマリしたゲームに登場する中ボス兼隠しボス。そんな人物に転生したことを悟っていた。
『ノエル』。それは本来のこの体の持ち主がこの時代において名乗った名だ。
彼女は力を失っていた復活から近い時間の間に、この時代の魔王に力と神になるための資格を奪い取られて配下として使われていた。
しかし、それはそれで楽しいものだ。今代の魔王は優秀だ。もしかしたら本当に神にすらなれるかもしれない。仕えがいのある主君を持つのは悪くない……そう割り切って人生を楽しみ、魔王軍四天王二番手として中盤に主人公たちと戦って死ぬ。
敵キャラとしては力を失っていてもなお非常に強力であり、中盤の鬼門として知られている。
その後のしばらくのボスたちよりステータスが明らかに高かったりもした。
そんな彼女は実は死んではおらず、クリア後に魔王死後に力を取り戻したから主人公たちと手合わせしたいと申し出て……これに勝つと裏ボスへの挑戦権と主人公最強武器の素材をくれる。
武具更新の都合上、裏ボスより苦戦するプレイヤーも多いらしい。そうでなくとも、パーティ構成によってはやはり裏ボスより苦戦する可能性があるほどの強敵だ。
そして負けたあとは『それでこそ私が見込んだあなたたちです。まさか全盛期を迎えた私を超えるとは。……人間も捨てたものではないですね』、と心底から称賛しながらどこかしかへ消えていく。
そんな人物が今の彼女であり、これからどうするかが非常に悩ましいところであった……。
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