第28話 アーリデさんのせめるもまもるも
「良くおいでくださいました。……その」
バアルと会話してからしばらくして、アーリデ殿が来たと門番から連絡がありました。
なので、出迎えたわけですが……なんとなく恥ずかしくて、いきなりガバっと抱きつくことができない。
「久しぶり、だな」
久々に見たアーリデ殿は、犬獣人種の民族衣装……着物のような服を着ていて、とても艶やかで似合っていました。
思わず心が奪われそうになってしまいました。
……しかし、なにか違和感を感じます。この服装を着るのは恥ずかしがっていた気がするんですが。現に今も照れています。
……その思考が答えに近づくその前に。
「あっ……」
俺はアーリデ殿に抱きしめられていました。
「は、ははは……ついにやってしまった……。なあ、嫌な気分はしてないんだろう?」
アーリデ殿は体を擦り付けるようにして、耳元でそう囁いてきました。
どこで覚えたんですかそんな技!
もっと純朴だと思っていたんですが……いや、今はそれどころではなくてですね。
頭がこんがらがります。
アーリデ殿のいい匂いをすぐ近くに感じて、頭がおかしくなりそうです……!!!
お胸も押し付けられて……あわわ。
これ、口ぶりからして確信犯(誤用)ですよね?
え、嘘……奥手なアーリデ殿にここまでさせるほど強く思われていたという感覚はなかったんですけど……あ、一応英雄になったから、立場としては五芒星として相応しくなってるんですよね。
だから、派閥争いで勝利するために?
……いや、それも違います。アーリデ殿はそういうタイプの計略を仕掛ける方ではないはずです。
少なくとも、親友の心を無視してそういう事をするタイプではない。
となると、これは本気?
きっとそうなんでしょう。
元々、互いにそういう感情は持っていたはずですから……。
「ええ、そうですね。……えへへ、とても嬉しいです」
「……お前のえへへは破壊力が高すぎるぞ」
「それはありがとうございます。ですが、本当に俺でいいので?俺はきっといい女じゃないですよ。……こう、口調の時点でおかしいですし」
「口調がどうした。ギャップがあってとても滾るぞ?」
「そうですか……でも、やっぱり駄目です。俺はあっちへフラフラこっちへフラフラしてしまいますから。魅力的な女の子がいたら、すぐなびいてしまうんですよ。アーリデ殿には相応しくないんです」
ここにきて……俺はヘタレてしまいました。
すぐそばに迫っているというのに、逃げの一手を打ってしまいました。
今からでも挽回はできる。だから、傷つけることになろうとも新たな関係を再び築けるチャンスをまた手に入れようと思い、探りましたが……できませんでした。
覚悟が足りなかったんでしょうね。
中途半端に倫理観が残っていたのが敗因。
……しかし、救いの手はアーリデ殿の側から差し伸べられました。
「そんなの既にわかっていたさ。あわよくば私だけのものにしようと考えていたが……それができなくても答えは変わらない。ふふふ、あれほど私の心を狂わせておいて、今更そのような逃げの言い訳が通用すると思っているのか?そんなの許さんぞ?」
「……本当にいいんですね?」
「そうだと言ったが?」
「……では、たくさん愛してくださいね?その分というわけではありませんが、俺もたくさん愛しますし可愛がりますから」
「その約束、たしかに受け取った。……他の娘ばかり可愛がっていたら、どうしてやろうかな?どうやら私では敵わぬ実力の女の子ばかりに目をかけているようだから、実力行使には訴えられんな。なら……さめざめと泣いてやろう。お前にとってはこれが一番効くんじゃないか?」
可愛いけど、言っていることに反してやろうとしていることがかなりしたたかですね。
たしかに、それが一番効くかもしれません。
罪悪感というものは俺だって持ってますから。
「ちゃんと寂しがらせないようにがんばりますよ。愛する人を不幸にするのは望んでいませんから」
「それなら良い。……で、その、それでなんだが。恋人になったならばすることが二つほどあるのではないか? 一つは……流石に恥ずかしいから心の準備もできていないが、もう一つなら、待ち望んでいるんだぞ」
「……します?この玄関で?」
「見せつけるのも悪くはないだろう?」
「大胆なんだか初心なんだか……まあいいです。知識だけは頭の中に入っていますからね。ふふ、腰を抜かしたりはしないでくださいよ?」
「ま、待て……どんな凄いのをするつもりだ?」
「ふふふ……」
……アーリデ殿との関係が恋人兼親友へとグレードアップしました。
なんだかお肌がツヤツヤした気がします。なにをしたかって?……そこまで大きく踏み出したことはしていないとだけ言っておきましょうか。
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