第50話 旧世界

 ゲームの設定資料集を片手に、ネットで考察を読み耽る。

 あの世界がゲーム世界ではなくあくまで現実な以上、ゲームはどこまでがフィクション、あるいは脚色されているのかはわからない。

 絶対に『ゲーム世界』ではないと決まった訳ではないが、少なくともノエルは違うと考えている。

 そうなれば、ゲーム的な都合や脚本的な都合で改変された部分もあるかもしれない。

 

 そう考えて設定を読んでいくと、矛盾点はやはり見つかった。少ないながらも、やはりあった。

 しかし、思考の役に立つような矛盾はほとんど見つからない。

 おおむね設定と変わらないと見ていいのだろう。

 

 とりあえず、設定資料集は向こうにも持っていくことにした。

 ほぼ完璧に記憶はできるが、実物が手元にあったほうが捗るから。


 考察に関しては、有り得そうなものと面白そうなもの、確かめたいものだけ原文のまま紙に書き留めて持っていくことにした。


 流石に与太話が多いから持って行く意味は薄いと思うが……それでも、見逃せないものがあった。


「アレはいずれ知らなければなりませんね。下手すれば神々よりも厄介です。場合によってはアリを潰すように対処できるのかもしれませんが、最悪を考えて常に頭の片隅に入れておきましょうか」


 知った事実は旧世界のことだ。

 あの宇宙を神々が自らの色で染める前の話。

 前々から気になってはいたのだが、調べてみるとまず間違いない説だとわかった。

 

 同じ会社が出していたロボットアクションゲームの世界こそが己が生きていたあの世界の旧い時代なのだ。

 公式の発言や考察から考えて、あり得るかもしれないとまずはプレイした。

 そしてそのゲームの設定も読み漁った。

 ……すると、与太話とは言えない設定が多かったのだ。


 『斬鉄斧ブレインブルド』。そのゲームの概要を話していこう。

 人類が本格的に宇宙に進出し、5000年が経った後の世界の話だ。

 

 宇宙のあまりにも広い範囲を支配した人類は、さらなる支配に邁進していた。

 そんな中、ある研究機関がある事実を知ってしまった。そして広めてしまった。

 ――あらゆる望みを叶える絶対的なエネルギーがこの世界には眠っている。


 最初は誰もが与太話だと認識していた。だけど、その研究機関が続けて言った一言を後に確認すると、奇妙にも符合する部分が多かった。


 より多くを殺し、領土を支配した者がそのエネルギーを得るのだと。

 そう言われたからというわけではない。時勢が悪かった。

 3000年間平和だった宇宙は、とある人物の派手すぎる『やらかし』により、やがて小競り合いが続くようになり、やがて大きな戦争が起こった。

 

 その戦争により、大きく領土を拡張した王がいた。

 その王は領土を広げるたびに、人々を心服させるようなカリスマ性……王気と呼ばれたそれを強めていった。

 彼は王であると同時に国のエースパイロットでもあったのだが、不思議なことに彼の機体が振るう戦斧は有り得ない破壊を引き起こすのだ。殺すたびに切れ味が増してゆく。

 それに、だ。当時の技術によって人間自体の身体能力が凄まじいものになっていた。王は尊貴な身分だから、より高度な技術によって強化されていた。

 しかし、それでは説明がつかないほどの身体能力を発揮していくようになった。


 とある戦争の時、ちょうど機体が壊れかけになって整備中だったので代わりの機体で戦ったが彼の強さについていけなかった。

 そして、戦いのさなか空中分解した。

 しかし、王はパイロットスーツによる強化と銀剣のみで……ほとんど生身のまま宇宙空間で戦い続け、結果としては大怪我を負ったもののロボットや戦艦を多数撃破するという戦果を上げた。


 そして人々は気づいた。あの研究結果は嘘ではないと。

 

 そして、宇宙は地獄的な戦乱の時代へと突入した。

 それぞれの願い、渇望を叶えるために。


 とまあ、それが概要と言うか前日譚なのだが……設定がかなり近いと感じた。


 ゲームをプレイする限りでは、ファンタジー色はあまり強くなかった。

 たしかにとんでもない技術が使われたりしてはいたし、ファンタジーよりファンタジーしているものもあったが、魔法のようなチカラは『王気』あるいは『天子気』と呼ばれるエネルギー力くらいだ。


 だが、その王気が問題なのだ。

 得たものの願いを叶えるそのエネルギーは、権能の力に酷似していた。

 ゲーム同士を比べた時はわかりにくいだろう。

 『二元戦記エクスプロテス』というゲームにおいて、権能という力について詳細なところまではわからなかったのだから。

 設定資料を読み込んでようやくある程度分かるくらいだ。

 だが、実際に権能を使用している身としては……『王気』と『権能』は非常によく似ていると感じた。

 

 王気と権能では違う部分もある。例えば使用可能になる条件に関してだ。

 王気の条件は、多くの人間を殺すか広大な領土を支配し、その上でチカラの存在を認識するというものだ。

 対して権能はもともと強大な力を持っているか巨大な世界観を有するものが、既に得ているものから譲渡されるか奪い取るというものだ。勇者や自然神たち、おそらくは力の根源たる三柱の神々の条件に関してはまた違うが……。

 

 強化の幅や、チカラの発現の仕方についても違う。


 だけど、それは王気という使い方が原始的だから、あるいは権能という使い方がやや変則的だからであるのかもしれないと感じた。


 あるいは権能とは王気が変質したチカラの可能性もある。 

 だが、まず間違いなく祖が同じチカラなのだと確信している。


 それに、数え切れないほどの星々に知的生命体が存在する理由もわかった。

 旧世界から引き継いだということだろう。旧世界では人類は広大な版図を支配していたから、その名残。


 そして、地球にも関係があるとわかった。あの旧世界における人類の故郷、地球ではない。

 この世界の地球だ。

 制作者たちの思考を探ってみたが……彼らは己が生きているあの世界から何某かの干渉を受けていた。

 驚愕だった。だが、そうでなければこんな詳しいところがわかるわけがない。


 だから、前日譚と思わしき物語を知り、そして設定を読み込み頭に詰め込んだ。 


 そして自ら考察し、旧世界の存在を頭に入れておく必要性を知った。

 あの世界は旧世界の存在の干渉を受けている可能性が高い。制作者たちに交信した者が存在する以上、この世界もだ。

 ……神々を除いて四人ほど候補がいるのだ。


 『斬鉄斧ブレインブルド』の物語を終えて、まだ生き残っている、あるいは復活できる手段を持っているうえでとてつもないやらかしをしかねない人物が。


 普通に考えたら生きているわけがないが、旧世界の科学技術と王気を共に扱っていたら不可能ではない。


「……そろそろ戻りましょうか」


 そこまで考えて決心する。あの世界に戻ろうと。

 ……この世界に戻ってきてから、まだ二ヶ月に満たない期間しか過ごしていない。

 ノエルの時間間隔的には非常に短い期間だ。

 それでも、既に向こうが恋しく感じてもいた。

 

 久しぶりにこの世界で過ごすのは実に楽しかったが、己が生きる世界はあくまでもあの世界。

 魔族に勝利をもたらし、神々を打倒し、旧世界の存在からも解き放たれるためには戦わなければならない。

 

 そして思い悩む。


「しかし、風花はどうしましょう」


 既にどうするかは決めている。本人や祖父にも相談した。そうするのが彼女にとっても己にとっても幸せな道なのだとも知っている。

 それでも悩ましい。


 寿命を引き伸ばすか否か、あの世界に連れて行くか否か。

 

「……意味のない葛藤はやめましょうか。今日の夜中、風花を連れてあの世界に戻りましょう」


 決心を固めた。


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