第49話 風花とおでかけ③

「カップル限定パフェ、ですか……」


 カラオケを一通り楽しんだあと、二人は街をブラブラと歩いていた。

 手繋ぎでも良かったのだが、なんとなく今までの関係からして恥ずかしくてできなかった。

 精神性は超越しているはずなのに、俗というか凡人なところが見え隠れしているのは『近衛憂』の要素のせいなのだろう。

 あるいは、元々そういう素質があったところに近衛憂の要素が介入してといったところだろうか。

 

 どちらにせよ、今のノエルは『ノエル』というよりは『近衛憂』に近い存在になっていた。


「こういうのって王道じゃない?友達から話聞いたんだけど、兄貴とこういうことしたいってずっと思ってたの。今では兄貴は兄貴じゃなくてお姉ちゃんだけど……『お姉ちゃん』としてのあなたもさいっこうの存在だから文句は一切ないわ。存在するだけで尊いからね」


「まあ、それは一理ありますね。俺は存在するだけで尊い。それは宇宙の理ですから」


「うわっ、ナルシスト極まれりだね。事実ではあるし私もそう思うけど、自分で言うのはどうかと思うよ?」


「反動なのかもしれません。近衛憂……『オレ』は自信が足りなすぎましたから。それを今の『俺』は歯がゆいと思っている……まあ、そんな思いっきりつまらない話はおいときましょうか。ええ、良いですよ。食べに行きましょうか。俺もちょっと楽しみになってきましたから」


「やった!じゃあいこいこ!」


 そうして喫茶店まで二人で歩いていく。


「あまり外食はしませんでしたからね。この世界のお店事情はあまり詳しくないのですが……なかなかにおしゃれじゃないですか」


 ノエルは喫茶店のおしゃれな雰囲気に感心していた。

 やはりこの世界は色々と洒脱だ。

 文化レベルはやはり違うのだと感じざるを得ない。

 向こうの世界にも、遠い星の彼方には宇宙戦争をやっているようなところもあるのだろう。そこは間違いなくここより進んだ科学技術を持っている。

 文化的にも進んでいるのだろう。


 あの星はこれからの戦いによってようやく意味を持つことになるのだ。

 それまでの戦いにも意味はあった。その積み重ねではある。

 だが、大きすぎる技術差なんてものは薄皮一枚切り裂く程度で済ませられるほどの力を持つことになるからあの星での闘争がすべてを決めることになるだけで、現状の力の差だけならばそういった星よりはきっと弱いのだろう。

 己が知るあの世界はあの星、それも魔界の一都市に過ぎないことを自覚した。


「(……ふむ。なぜ今までこれに気づかなかったのでしょうか。いずれはやってみる価値があるかもしれませんね)」


 そして何かに気づいたようだ。 

 喫茶店に来たというだけで、遠い星のことに思いを巡らせることになってしまった。


「(まあ、今はこんな事を考えている場合ではありませんよね)」


 そこまで考えて思考を打ち切る。


 風花が呼び鈴を鳴らしたところ、店員がやってきたからだ。


「え、えーっと……このパフェ、お願いできますか?」


 風花がモジモジしながら注文する。

 認識阻害の効果的に、まったく知らない人にとってはノエルは女としか認識できないし、知っている人にとってもそこらの認識が曖昧になってしまう。


 結局、今は同性であるという認識を変えることはしていないのだ。


 だから、店員はポニーテールを揺らしながら、少し驚きつつも対応する。

 

「えっと、そちらはカップル限定となっておりますがよろしいでしょうか?」


「は、はい……」


「ええ、俺達はカップルですので問題はありませんよね?」


 そう言ってノエルは隣りに座っている風花を抱き寄せてキスをした。


「は、恥ずかしい……。でも、もう一回欲しい……」


 風花は照れながらも満更ではない様子を見せていた。


「カ、カップルである確認はできましたので注文承りました!」


 店員が顔を真っ赤にして走るように去っていく。

 ノエルの美貌があまりにも常識外れであるとはいえ、風花だってこの世界ではトップの美少女であり、レベルがひたすら高い魔族社会でもかなりの美少女として扱われるくらいの美貌を持っているのだ。

 向こうの世界では人間の方も地球よりは美しいものが多いのだが、それでも向こうの世界で人類トップクラスの美少女としてやっていけるだけの実力もある。

 両者ともに凄まじい美少女であり、その二人があまあまな雰囲気を作っているのだから、なにかに目覚めても不思議はない。


「……やっぱり、今の私達って周りから見たら気持ち悪いのかな?」


「さあ?ですが、あの店員さんに関してはこちらに対し好印象だったようですよ」


「え?ほんと?でも兄貴の目って節穴だからなあ。……まあいいや。私達が満足してるならそれでいいもんね」


「ふふ、そうですね」


 そうやって他愛もない雑談をしていく。

 そのうち、パフェが届いた。


 パフェを二人の間において、風花がスプーンでパフェを掬う。


「あーん。……ほら、口開けて?」


「さ、流石に恥ずかしいですね。あ、あーん……」


 言われるがままにパフェを口に入れる。

 甘くて恥ずかしくて、割と余裕がなくなっていた。


「こ、今度はこちらの番です。あーん……これでいいんですかね?」


「あははっ、余裕がないお姉ちゃん可愛いっ。可愛すぎて色々とお世話してあげたくなっちゃうなあ」


「どこまでが色々なのか、ちょっと怖いですよ……。それより早く、食べてくださいっ」


「さ〜て、どこまでだろうね?……うん、美味しいね」


 そうしてしばらく、パフェを食べ終えて帰ることになった。


 こちらの世界ではあくまでも中学生扱いなので、遅い時間まで楽しんでいると補導されかねないのだ。

 ブラブラする時間が楽しくて、ついふたりとも楽しみすぎたのもある。


「……あ」


 そんな中、ノエルが手を差し出した。

 風花は恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにその手を取った。


「姉妹でこれをするというのは尋常じゃなく恥ずかしいですが……今はもう恋人ですから、これくらいはしてもいいですよね」


「そっか、そうだよね。……恋人になったんだよね。えへへ……」


「そう、恋人になったからにはデートしただけで終わりではありませんよ?……夜は覚悟しておいてくださいね?」


「あ、う……。お手柔らかにお願いします……」


 そうして、一日が終わった。

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