第48話 風花とおでかけ②
「〜〜〜♪」
歌詞は頭に入っている。
しかし、実際に歌ってみると違った感慨が湧いてくる。
……これを歌っている『ノエル』は『私』とは少し違う存在なのだろう。
生きているのだから成長だってする。ゲーム時代のノエルだって成長しただろうし、『俺』となってからの『私』だって影響を受けていた。
しかし、それでも感じ入るものがある。
己が感じていた絶望や閉塞感がよくわかる。
ノエルの歌声には極大の感情がこもっていた。
「〜〜〜〜〜!!!」
そうして、最後まで歌い上げる。
感情が籠もることで本家のキャラソンとはまた違う趣となっていた。
そもそも、ゲーム時代の『ノエル』の声と今の『ノエル』の声は非常に似ているけど明確に別物だ。
声帯だって当然違う。
そもそも、ノエルの声を当てていた声優は歌がそううまいわけではなかった。
編集の力を借りてようやく普通に聞けるとかそんなもの。
しかし、『ノエル本人』は超人だ。
自分に合った歌を歌うことくらいは超越した領域でこなせる。
だからこそ、というべきだろうか。
「……はぁ」
その歌は非常に多くの人間を深く感動させるレベルのものになっていた。
妹である風花は特に感じ入っていた。
もはや感動してため息しか出ないレベルになっていた。
「……ふふ、感動してしまいましたか?ナマイキな愚妹をここまで感動させられるなんて、流石は俺です」
ノエルは風花からスマホを返してもらい、アプリによって歌唱のデータをダウンロードする。
最近のカラオケでは歌を録音してダウンロードできる機能が存在しているとは聞いていたが、本当に出来て少しだけ感動していた。
「うん、心が籠もっているというか、泣き叫んでいるみたいで……なんだか心が揺さぶられちゃった。ねぇ、辛いことがあったら私にいつでも言っていいんだよ。私なら何でも聞いてあげるから」
「今の人生に不満はありませんよ。充実しています。楽しいんですよ、自儘に振る舞うのが。……ですけど、その気持ちはとても嬉しいです。えへ、ありがとう」
そう言って風花を抱きしめるノエル。
過去の己や本来の己の生き様に触れて、少し感極まっていたから、危ない行動を取ってしまった。
だけどこの行動に恥も悔いもない。
「やっぱり心地良い。好きだよ、兄貴」
「……俺も兄として、姉として、お前を愛していますよ」
「それも嬉しいけど、それだけじゃ足りない。もっと深い関係になりたいの。……私じゃ駄目、かな?」
風花は上目遣いで懇願してきた。
心が動かされる。確かに愛してはいる。家族としてだけではない。女としてもだ。
もしかしたら、以前の時点でそういう目で見ていたときもあったのかもしれない。
だけど、実妹ということがノエルの思考を押し止める。
それにもう一つ。寿命を引き伸ばすことの意味。あくまでもただの人間であった風花がそれに耐えられるかがわからなかった。
きっと、己が居る限り耐えられるのだろう。風花も風花で途轍もない精神性の持ち主だから。
だがもし、己が神々との決戦などで死んでしまったとき……どうなるだろうか。
そこまで考えて、思考が一気に現実に引き戻される。
「駄目、みたいだね。残念。でも、こんなので諦めるつもりはないから。……ねぇ、お姉ちゃんがいろんな女の子とイチャイチャしてるってのは知っているんだよ?」
「……どこでそれを?」
「匂いを嗅げばなんとなく、ね。それだけでは確証としては薄かったけど……それより、雰囲気かな。なんとなくわかっちゃった。多分、複数の女の子と付き合ってるんだよね?それに、おそらくはすることもしている、と」
「……ええ、そうですね」
妹の洞察力にビビりながらも、素直に認める。
「なら、そこに私が増えるくらいはいいと思うんだけど?まさか、私だけのけものにするなんて酷いことは言わないよね?」
「それでもだめです」
「それは私が妹だから?……私としては血がつながっていても別に関係ないけど、今の私達って血縁的には兄妹でも姉妹でもないよね?なのに、なんでそんなに拒むの?……そんなに、私は嫌?私だけはそういう目で見れない?やっぱりナマイキでうるさいだけの妹なんて嫌だよね……」
風花は泣きそうになりながら問いかける。
ここまで言わせたことで、ようやくノエルの覚悟が決まった。
「何が起きても後悔はしないでくださいよ?あまりにも可愛すぎて私だけのものにしたくなってしまいました。……んっ」
優しく唇を重ねる。触れるだけのキス。
「んむっ……な、ななな……ほ、本当にいいの?」
風花は迫っておきながらとてつもなく動揺していた。
「それを問いたいのはこちらですよ。……デートが終わったら、覚えていてくださいね?」
「〜〜〜っっっ!!!」
色々悩みや懸念もあったが、すべて流しさることにした。
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