第51話 帰還

「与えられてから数時間立ったけど、未だに万能感凄いなあ……。これでもお姉ちゃんの力の数十分の一なんだよね?本気はどんだけすごいのか想像もつかないや」


 まず手始めとして、風花に権能の力を貸し与えた。

 誰でも使えるようなチカラではないのだが、風花の場合は『巨大な世界観』を持っているため、譲渡するのは容易であったのだ。

 ちなみに祖父にも与えることは可能だった。

 祖父の場合は、チカラに関しても世界観に関しても条件を満たしているから容易い。

 身体能力だけで言えば、人だった頃のノエルにやや及ばない程度の膂力やらを持っているのだから。


 超常の要素なしにそれなのだから、ノエルは改めて祖父の凄まじさを理解してドン引きしかけていた。


「向こうの世界に行ったら、それを鍛え上げましょうね。風花ならば、なかなかに素晴らしい域にたどり着けると思いますよ」


「お姉ちゃんの役には立ちたいし……うん、頑張る」


「頭脳働きにも期待していますよ。俺の頭脳が衰えた以上、お前は頼りになりますから」


「一応設定とかは読み込んだし、お姉ちゃんからも話は聞いているけど……知らない世界の話だから、さすがにどこまで役に立てるかはわからないなあ」


「まあ、結局は互いにずっと一緒にいたいから向こうに連れて行くわけですし、寿命も延ばしたわけですからね。問題はありません」


「でもどうせなら、自分の才は示したくない?私だって天才少女なんて呼ばれていたわけだし、自分の力がどこまで通用するか試したいよ」


 その言葉に、ノエルは楽しげに笑っていた。


「ふふ、功名を求めますか。やはり、お前は俺の妹です。……では、行きましょうか?」


「うん。準備は済ませてるからね。いつでもいいよ」


 風花の許可をもらうと、ノエルは魔法を起動した。




「ずいぶん早いのう。三秒も経ってはおらぬではないか」


 次の瞬間、二人は魔界の自宅にいた。

 バアルが微妙そうな心地で苦笑いしていたのがなんだか面白かった。


「……で、その娘は何者じゃ?権能の力を持っておるようじゃし……なにより、今の姫様に近しい匂いを感じるぞ」


「ああ、それは……」


「あ、どうも。バアルさんですよね?お姉ちゃんがいつもお世話になっています。私は憂……じゃなくて、ノエルの妹の近衛風花と言います。いやまあ、事情は知っているみたいなので憂でも通じるのかもしれませんが……」


 ノエルが紹介しようとした矢先、風花が自分から進み出て自己紹介をした。


 バアルのことについては特によく教えていたので、向こうが事情を知っていることもわかっている。


「……ひえ」


 バアルはコミュ障を発動させて即座にビビってしまい、ノエルの後ろに隠れて会釈をしていた。


「なにやってるんですか……」


「だって……姫様の妹君を連れてくるとは思わなかったし、こんなガンガン話しかけてくるタイプとは思わなかったんじゃもの……。姫様の記憶にこんなデータはなかったぞ」


 ノエルが風花の表情を確認すると、わかった。

 端から見るとわからないだろう。

 しかし、家族であるノエルにはわかる。


 これは勝ち誇っているのだと。ライバルに対する宣戦布告なのだと。


「……やれやれ。あんまりそういう真似はしないように」


「ご、ごめん……気分がハイになっていて……。その、バアルさん。いきなりガンガン話しかけちゃってごめんね?」


 今は権能の力が馴染んでいないからハイになっていて、こういう行動を取っているのだろう。

 普段からこういう気質はあったのだろうが、力の差を考えられないほど愚かなわけがない。

 平常心だったならばこんな真似はしなかっただろう。


「よくわからぬが……ゆ、許そう。それはともかく……妹君か。それにしては、随分と仲が良いようじゃが?」


 バアルがビビり散らかしていた態度を一変させて、愉しむような表情を見せた。


「ええと……はい、そういうことです。スミマセン……」


「はっはっは。別に責めているわけではない。実の妹に手を出すとはなかなかに凄まじいと思っての。……じゃが、このままじゃと妾だけ置いていかれるのか?」


 バアルは考え込むような素振りを見せると、百面相をした後になんとか持ち直した。


「……それは今度じゃ。とりあえず今は、向こうでのことを教えてくれよ」


 そうして、向こうでしてきた体験や重要情報などを心の中で話しながら、風花に魔界のことを案内していった。

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大好きなゲームの強キャラ美少女としてTS転生したけど魔王軍に仕官します 小弓あずさ @redeiku

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