第4話 魔王
「して、これからどうするのだ?妾はそれに従おうと思うが」
「……特にすることもないですし、ぐーたらしましょう」
「神々を滅すという目的、忘れてはおらぬだろうな?」
バアル殿がギロッと睨んできた。
そんな姿も可愛らしくて思わず抱きしめたくなったが、ちゃんと誠実に答える。
「半分は冗談です。ぐーたらすると言っても、チカラを取り戻すための鍛錬くらいはしますから。……史実における俺は一人であり、大局なんて見ていなかったので鍛えていませんでした。しかし、これから起こるかもしれないことをある程度知っている身としては『過ぎた怠惰は罪である』と断言できます。魔王に対して高待遇を引き出すためにも、利用価値を見せつける必要はありますからね」
「そうか。ならよかった。妾も手伝えばよいか?」
「はい、お願いします。神格を失った今でも、あなたは強くなれますからね。互いに鍛え合いましょう。それに、目論見がうまく行ったら楽しいことになりそうですし」
「目論見?ああ、資格を分け与えて『疑似神格』を作り出すという計画かの」
「ええ、そうです。ですがとりあえずはおしゃべりでもしましょうか?バアル殿は俺のことをだいぶ知っているようですが、俺はあなたのことをあまり知りませんしね」
「ふむ。良いぞ。妾も姫様と話したいことは色々あったからの」
それから、バアル殿といろいろなことを話した。
バアル殿が神だった頃のこと、なぜ旧神として貶められたのかということ、孤独の辛さのこと。
非常に辛い人生を送ってきていたというのはわかりました。
自業自得で同情できない部分はありますが、結局この一言に集約されますね。
『神々はやはり滅すべき』である、と。
それから、俺のことを話しました。
『私』としての生き様、『オレ』としてのちっぽけな苦悩、『俺』としての在り方。
とっても楽しそうに聞いてくれたので心がぐっと楽になった気がしました。
それからは他愛のない話で盛り上がりました。
ずいぶん仲は深められたと思います。
彼女がコミュニケーションに飢えていた、俺にそれなりの好意を抱いていた、というのが前提ではありますが……。
「かかか、ずいぶん無様な失敗をしたものだな」
「ええ、今思うと恥ずかしいことです。ふふふ」
会話に一区切りついたところで、ニヤリと笑いながらバアル殿……いや、バアルが問う。
「……で、感じているか、このおぞましい気配を」
「ええ、感じていますよ。あの方の気配を」
異質なほど強大な気配がこの神殿に近づいている。それに気づいた。
それはおそらく、待ち望んでいたあの方で……。
「はじめまして、かつて私のように神を目指した同志よ。それと……どなたかは知らぬが、そちらの者も異質だな。私こそが魔王アミダだ」
気づくと魔王は豪奢な椅子の上に座っていた。
椅子はこの神殿のものじゃない。魔王の私物だろうか。
魔王……アミダは超然とした雰囲気を纏った高身長なお姉さんだった。
艷やかな黒髪に、鋭い目つきが特徴的な美人さん。
多分、女の子にモテるタイプの女性でしょうね。
いや、特別美人ですから男にもモテるでしょうけど。
「これはどうも。ご丁寧に。想像よりも随分お早い。……俺の名前は知っていますか?」
「名前?ああ、もちろん知っているとも。広く知られているからな。それがどうしたというのだ?」
「では新たに名乗らせていただくと、今の俺は『ノエル』と名乗っております。と言っても先ほど決めたばかりなのですけどね」
「ふむ。正体を隠したい、そういうことか?」
「そのような思惑などありませんよ。ネームバリューは存分に活かすべき、そう考えています。しかし、俺が新生するにあたり、以前の名は不要と考えているだけです。バラしてはいけないなどということはありません。存分に活用なさってください」
そんな俺の言葉にアミダは少しだけ考えて……。
「御身は何を知っている?私がお前からチカラを奪おうとしていることはわかっているのだろう?ならなぜ、そのような……協力関係になろうとしているかのような物言いをする?」
表情には現れていないが、困惑……というより強い疑問を持っていることはよくわかった。
言葉に出している情報量の数百倍は疑問に思っているのだろう。
「あなたについていけば俺の望みも、この子の望みも叶いそうだと思っているだけですよ。協力することに異存はありませんし、陛下の配下になる覚悟もできております」
「伝承ほど傲慢ではないのだな。何を考えているかは知らないが、邪心がないことはわかった」
「そうでもないのですけどね。……ですが、あなたを神へとのしあげて、愚昧な三柱の神々を滅したいと考えていることは嘘ではありません」
「……そうか。では、神の資格をくれるというのか」
「はい、差し上げましょう。ただし、すべてまるまんまというわけには行きませんがね」
俺のその言葉に、魔王は表情を変えた。
「どういうことかな?力の差はわかっているのだろう?」
「そうですね。ですがそれは今限定のものです。俺が本来の力を取り戻した時、それは逆転しましょう」
「ならば、その機会が訪れることもないよう滅してくれるまでだが?」
「そうですね。そうなるでしょう。しかし続きがあります。逆転してしまっては主従関係が崩れますね。これは良くないことです。……そう、主従が崩れてしまっては俺達にとっても意味はないのですよ」
「ふむ、わからんな。しかし、見えてくるものもある。……私を利用しようと?」
「互いに利用し合うだけです。いえ……先ほどの陛下の言葉を借りれば同志、という表現になりますかね?しかし、あなたの側に優位があることを俺たちは否定しません。その在り方によっては『俺は』心からの忠義も尽くしましょう」
バアルが忠義心を抱くかどうかは知りませんが、俺が押さえつければどうとでもなるでしょう。
「嘘ではない、か。続けろ」
「俺がチカラを取り戻せなくては『ひとまずの脅威』である勇者を退けられない。神になっても『魔王』でもあるあなたでは勇者には致命的に相性が悪いですから」
「神になっても、か。それはあの神々が定めた法則かね?」
「善悪の闘争が永遠に続くのも、善の側が必ず勝利するのも、そういうことになりますね」
「……ふふ、これは大魚が連れたようだ。それは本来私では知り得ないことかね?」
「本来は知りえませんが、『史実』においては知ることになります。俺を吸収する形でですね。まあ、それでもあなたは負けましたが」
「『史実』、か。それは未来視かね?それとも……御身は未来人かなにかなのか?」
未来人、そこまで思い至るとは思わなかった。流石に魔王を舐めすぎましたか。
これくらい情報を与えれば看破してきますよね、魔王様ならば。
「未来人ではありませんが、似たような存在ではあります。もっとも、この世界が本当に俺の知るあの世界と全くの同一なのかは疑問が残りますが、ね」
ここが現実であるならば、ゲームシステム的なものが働く余地はないと言えるでしょう。
少しだけ確認してみましたが、ステータスなどというものは記憶になかったし、画面を開こうとしてもやはり無理でした。
それは俺が主人公の側ではないからなのかもしれないし、もっと別な影響が必要なのかもしれない。
だけど、ひとまずここを現実だと受け入れました。
だって、そっちのほうが面白いですから。
「御身はやはりよくわからないことばかりを言う。しかし、理解できない訳ではない。御身は我々が起こした戦い、起こす戦いを、神々すらも俯瞰して見ていたわけなのだな。しかし、それに干渉はできなかったし超越者ではない」
干渉……していないとは言いません。
『オレ』はこの世界を主人公を操って救ったことがありますから。だけど、あれはあくまでよく似た世界、ただのテレビゲームの話の可能性もある。
……よくわからないですね。
これは言う必要を認めません。バアルも素知らぬ顔をしていますし、とりあえずはここまででいいでしょう。
「ともかく、俺の資格とチカラを10割渡してしまっては負ける未来がほぼ確定してしまいます。相性で互角である俺、あるいはここにいる彼女が勇者に対抗しうるチカラを取り戻せませんから。ですので、資格とチカラではなく、資格……というより権能のみを『9割』譲渡することで許していただきたいのです」
「うむ。それならば許そう。いや、タメになった。まだまだ世界には謎が多いな。そうか、正義はかならず勝つ……奴らの考えた意地悪かな」
「さあ、意地悪だったのか。もしかしたら必死だっただけかもしれませんよ。そこについては俺も知りませんけどね。ただの考察ですよ」
この世界が始まる前、宇宙は更に混沌としていた地獄の世界だった……みたいな説がある。
同じ会社が出した別のロボットアクションゲームの世界と繋げた説ですね。
その世界の主人公が倒れた後、その意思を継いだのがこの世界の神々であり、その中でも際立っていたのが三柱の神であるという説がある。
「いつか、語り明かしたいところだな」
その説が本当であれば、糾弾し過ぎたくもないんですが……まあ、弄ばれた側の復讐は受けてもらいたいですね。
自分の頭の中で完結する考察によって心がかき乱されたので、なんとなく魔王様の言葉に対して、ニコリと微笑みます。
「……うむ」
魔王様は一瞬だけたじろいで、すぐに平常に戻られました。
……俺の魅力、あの魔王にも通用してるじゃないですか!すごい!!!!!
魔王様は魔王ってだけじゃなく、ちゃんと女の子でもあるのに通用してるとか目茶苦茶凄くないですか!?
思わずはしゃぎそうになって……なんとか冷静さを絞り出しました。頑張りました!
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