第43話 陰陽術
「よっす。なんかめちゃくちゃイメチェンしたじゃねぇか。昨日までとぜんぜん違うじゃん」
「ああ、おはようございます」
読みかけだった歴史小説を読んでいると、なかなか仲の良かった友人が話しかけてきた。
「……アレ?常識的に考えておかしくね?性別からして違うような……」
「……」
しかし、友人は早くも違和感を看破しかけていた。
完全に看破するのは流石に不可能だろうが、こんな簡単に破られるとは思っていなかった。
たしかに、法の強制力はとても緩いものだ。むしろ、知り合いにはこの世界での生活が破綻しない範囲で見破られたいからと穴もいくつか用意している。
だが、それでもなんのチカラも持たないこいつにこうもあっさりと破られるとまでは思っていなかった。
「どうなってんだ?……今の見た目、かなり見覚えあるんだが」
「(……なるほど)」
理由がわかった。
この友人も『ノエル』という存在を知っているからだった。
その上で、関わりがあって仲も良い。なので見破られた……そういうことだった。
この場で説明するのは、今はまだ面白くないからやめておく。だが、廊下で話すことにした。
会話に関してはそれこそ認識を阻害する魔法があるからどうとでもなる。
あのライバルの少女にさえ聞かれなければ良いのだ。なかなか素晴らしい術師のようなので単なる魔法程度では見破られるかもしれないが、そこに加えて距離の防壁も加えればたやすく欺ける。
権能を使用する必要性はなかった。
「ちょっと廊下に来てくれますか?」
「お、おう。構わないが……」
それから、説明をすることになった。
「……マジモンの異世界転生したのか。前々からパネェとは思っていたが、お前ってマジでエグいのな」
友人は戦慄しながらも面白がっていた。
憂の友人をやっているのも、まるで漫画の世界の住人のようにぶっ飛んだやつで面白いからという理由だ。
この状況を楽しまないわけがない。
「……だがよ、となるとお前ってあの『ノエル』でもあるわけだよな?はぇ〜、『ノエル』ってリアルになるとここまでエグい美少女なのな。中身が半分お前って知っててもヤベェわ。……なあ、おっぱいとか揉ませてくんね?」
「別の方に頼んでください。今も男には興味ありませんしね。そもそも、好きでもない方に揉ませるのは嫌です。あなたも別にモテないわけではないでしょう?」
「そりゃ、モテないわけではねぇけどさ。つか、よく意識して聞くと口調からしてぜんぜん違うのな。リアルTS娘か……マジでビビるわ。やっぱぶっとんでるよなお前って」
「褒め言葉として受け取っておきましょう。というか口調に関するところはまったく認識をいじってないのですけどね。他のインパクトでかき消されましたか?……ふふ」
「まあな。友達が次の日にはエグい超能力をもった激カワ美少女になってるとかインパクトでかすぎるから気付けなかったわ」
「それは仕方がない。そろそろ時間ですし、教室に戻りましょう」
そうして、再び学校生活を送ることになった。
「(流石にハイレベルとは言え、中学レベルの授業くらいはいまだに楽勝ですね)」
過去の遺産に頼る部分が多かったが、授業は軽くこなせた。
ついていけないなんてこともなく、簡単に理解できる。
肉体年齢・精神年齢は共に15歳で、周りよりひとつだけ上といったところだろうか。
知性はかつてから大きく下がったとは言え、それでも20数年生きているから授業についていけるというのは当然かもしれないが……周囲のプレッシャーというものを感じなくなると思考が晴れ晴れとしている気がする。
頭の回転は鈍った。思考力も知能も落ちている。
だが、それでも今のほうが明瞭な思考ができていると感じていた。
そうして、放課後になった。
夕暮れの教室にはノエルと例の少女のみが残っている。
「アハハッ!尻尾巻いて逃げ出さないんだね。やったことはちゃんと償ってもらうよ。私の恨みも込めて……!!!」
「なぜそんな事をする必要が?俺は別に罪など犯したつもりはありませんがね」
「……とぼけるつもり?あなたは近衛憂の立場に成り代わって、存在を奪い取った。何をするつもりだったのかはわからないけど、それは許されることではないよ。……少なくとも私も許すつもりはない」
「そうですか。俺は極星将軍ノエルであると同時に、本物の近衛憂でもあるのですがね」
「極星将軍……異名持ちかな。それくらいの存在でないと、憂くんの存在を奪い取ることはできないよね。……でも、私は日本最強の陰陽師。あなたを祓って元の日常に戻してやるから。……簡単に死ねるとは思わないでよね」
次の瞬間、少女は闘気に似た性質の白い光弾を射出した。
無数に、ハイスピードで。
しかし……。
「なっ……!!!」
「これがどうしたというんですか?これには何らかの存在に対する特攻作用があるようですが……俺はそういう存在ではありませんから」
ノエルにはまったく通用していなかった。
この術技はそもそも、妖魔と呼ばれる存在に対抗する術であり、特攻要素を抜きにするとこの少女の領域まで高められてようやく人を殺せるとかそんなものだったから当たり前だ。
「そもそも、格で言えば魔法や闘気にも劣る術技ですしね。この程度の練度では傷一つつきませんよ。いやでも、異界のチカラゆえにあの世界では使えるのかも……?ああ、良いですね。見れてよかったですよ、その術技」
「……何を、言ってるの?これが効かないなんて……まさか、あなた……。妖魔じゃない?」
「妖魔というのがなにかはわかりませんが、俺はただの超人ですよ。人という種のその先にある存在。ちょっとした事情があってこの体になってしまいましたが、俺は『ノエル』であると同時に間違いなく『近衛憂』でもあるんですよ。まあ、もっとも頭脳の方はだいぶ錆びついてしまいましたけどね」
この体になってしまったと言うよりは、生まれつきこの体だったわけでもあるが、言っても伝わらないから言う必要はない。
「……本格的に意味がわからないね。なにがあっても敵わないことはわかったからね。一応、逆らう気はないと思うよ。でも、これだけはもう一度聞かせて?……あなたは本当に近衛憂くんなの?」
「ええ、そこは間違いありません。あなたにいつか追い落とされると悩んで、苦しんでいた、あなたの『ライバル』を自称する近衛憂ですよ」
そう言うと同時に、かつてのような雰囲気を意識して纏う。
憂うような、疲れたような、そんな雰囲気。
「うん、これはたしかに憂くんみたいだね。偽物にこの雰囲気はコピーできるはずがない!……自爆特攻しなくてよかったな。あーでも、びっくりしたっ!ちゃんと事情くらいは聞かせてよ?」
そうして、またもや事情を説明することになった。
だが今度はノエルの側も事情を知りたくなった。
格としては落ちるとはいえ、異界の術技など知りたくてたまらないに決まっている。
この世界に戻った目的の一つがそういった術技の習得にあったから、ちょうどよかったのだ。
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