第39話 逆転

「おかえりなさい」


「ああ、久しぶりだ。……あーもう疲れたぞ!大好きだっ!」


 もろもろの仕事を終えて帰ってきたアーリデ殿が俺の屋敷にやってきました。

 あの呼び出しがあってから七ヶ月ほどでしょうか?

 時間間隔は、やっぱり『オレ』とは全然違いますし『私』よりもずっと早いようです。


 とはいえ、七ヶ月間離れていたのに加え、その前にも戦争に行っており、ほとんど会えていないわけですから寂しさはやっぱりありました。

 それはアーリデ殿も強く感じていたようで、強く抱きしめられました。


 ……これ、やっぱり好きです。心地良い……。

 

「ハハ、幸せそうだな。私も幸せだぞ」


 それから自室へと移動していろいろと話すことになりました。


「なるほど。クルスト侯国はともかく、他国の援軍が本気だったから大変だったと。……頑張りましたね、偉いですよ」


「とはいえ、これでもう敵になる国はビンルインくらいだ。他の国は軽く攻め滅ぼせるだろう」


 なかなかキツイ戦線だったようです。

 メルフェデス殿がクルストの心を攻めるやり方をしたおかげでわりかし簡単に従属させられたけど、真っ向から攻めていたら負けていた可能性もそう低くはなかったようですね。

 どうにも、俺がかつて見せたチカラ……違いますね。チカラそのものというより、バルメの心を砕いた影響力に脅えていたようです。

 どのみち潰されるのは避けられないならば、相手の出方次第によっては降ってしまおうと考えていたみたいです。


 しかし、クルストを除く連合軍の士気は高く、アーリデ殿が陣頭指揮を取ってなんとか立て直した局面もあったようです。


「ああ、そうそう。お前が降したギド将軍、素晴らしい活躍だったぞ。先頭に立って敵を叩き切りながら勇猛果敢に指揮を取り、兵士たちの活躍も素晴らしかった。百人単位の軍勢でありながら、敵を圧倒していた。よほどの信頼を勝ち得たのだろうな。最後の方では兵士たちはメタトロンの兵のような活躍をしていた。個人の実力でも、兵を率いる力でも負けている。五芒星の地位を取って代わられるのが心配になったくらいだ」


 ギド将軍に関しては環境があまりにも合っていなかったということなのでしょうね。

 指揮官としてもある程度はやると思っていましたが、率いる兵士たちがメタトロン殿の兵のように活躍したというのは流石にびっくり仰天です。

 もしかしたら、一万単位の兵士をメタトロン殿の域で率いれる可能性もあるわけですからね。

 アーリデ殿は感嘆するように褒めていますが、内心はかなり複雑なようです。


 事実として、史実においては俺に取って代わられたわけですから……反論するのも難しい。


 ただ、俺の場合はしがらみがなかったから五芒星に入れましたが、ギド将軍の場合は他国出身者ですので、そういう方用のポストを用意するとは思います。

 これを言ってもあまり慰めにはなりませんので言いませんけど。


 ならばどうするか。それは決まっています。


「……これは?」


「プレゼントですよ。頑張ってきたアーリデ殿に労いを込めて、です。よく頑張りましたね。偉いです!」


「あ、開けていいか?」


「もちろん」


「……わっ。こんな良いもの、貰って良いのか?」


 以前選んだネックレスを渡しました。

 目をうるませて喜んでくれています。そこまで喜んでくれるなら、こちらとしてもとっても嬉しいですね。

 かわいいなぁ。


 当然であると、頷いて返します。


「ありがとう……。大事にするからな。すっごく大事にするからな!」


「ふふ、嬉しいです」


 その後は、いなかった間の魔都の話になりました。

 その中で当然言わなければならないこともありまして。


「……もうそこまで手を出したのか。むう」


 手を出した、手を出しかけている女の子のことを白状しました。

 ……本当に申し訳ないことをしていますね。


「そこは納得した上で恋仲になったのだから仕方ないが……ペースが早すぎないか?加速度的に増えていくのではないか?」


 アーリデ殿はふくれっ面から、だんだんと微妙な表情になりながらそんな事を言っていました。


「流石に際限なく増やすような真似はしません」


「まあ、流石にないよな。今回名前を出された娘たちはみな、以前からライバルとして意識していたし……。だが、メタトロンとそこまで進んでいるというのは少し聞き捨てならないな」


 そこまで言って、アーリデ殿はニヤつきながら俺の頭を撫でてきました。

 撫でられるのは心地よいんですけど、なにか覚悟を決められたような……?

 それに、だんだん手つきがいやらしくなってません?

 あれ?デジャブってませんか、これ?


「幸い、最悪の状態にはなっていないようだから……お前のハジメテ、奪わせてもらうぞ」


「きゃっ……」


 思わずアーリデ殿に押し倒されてしまいました。

 直前にこうなることは予測していたし、そもそも腕力はこっちのほうが上なわけですから避けられたはずなのですが……どうにも、簡単に組み伏せられてしまいました。


「……そういうことで、良いんですよね?」


 ドキドキが止まりません。

 頬も真っ赤になっているでしょう。

 ですが、やられっぱなしでいるわけにも行きません。


「……なっ!?」


 腕力で押し返して、逆に押し倒すような態勢になりました。


「たくさん可愛がって差し上げますからね。本で学びましたから、ちゃんと気持ちよくさせられるはずです。……知ってますよね?俺の瞳がアーリデ殿の心を見抜いていること」


「……うん。予定とは違ったが、これも悪くない。……優しくしてくれよ?」


 真っ昼間からお楽しみが始まりました。

 まともな知識を知った俺に怖いものはありません。

 どうすればよいのか、どうされたいのかを的確に察し、それを実行に移して楽しむ。

 他人を弄ぶということがそもそも大好きですけど、好きな人をそういう意味で弄ぶのは格段の楽しさですね……ふふ。


 最高の体験をできました。一生忘れることはないでしょう。

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