エピローグ「悪い竜」



 むかしむかし、あるところに悪い竜がおりました。


 悪い竜は、人の住む村に住み着き、悪逆の限りを尽くしていました。


 ある時、村に不作の年が訪れ、飢饉が起こりました。


 お腹を空かせた悪い竜は村人に言いました。


「村の娘を一人よこせ。取って食ろうて腹の足しにする。逆らえばお前たちの命はない」


 村人たちは自分の命惜しさに、争いを始めます。


 それを眺めて、悪い竜は大いに喜んでいました。


 そして、多くの村人が犠牲になりつつも、ある村娘が悪い竜に差し出されました。


「おお、見事に黄金の髪を持っておる。これは美味しそうだ」


 悪い竜は供物として差し出された村娘を食べようとしました。


 しかし、その時、村娘は奇跡を起こしました。


 突如として稲光のようなものが悪い竜の翼を砕きました。


「こりゃたまらん! なんという娘だ!」


 悪い竜は村娘に恐れを成して逃げ出します。


 しかし、稲光は悪い竜に降り注ぎ続けました。


 悪い竜は必死になって逃げました。


 遠くへ、さらに遠くへ。


 村娘の居ないところへ、もう二度と会わないところへと、ずっとずっと遠くへ逃げました。


 そして、悪い竜はとうとう、森の中で力尽きてしまいました。


 自分の死を悟り、悪い竜が後悔をした時です。


「これはこれは大きな竜さん。傷だらけで可哀想に」


 おひめさまが現れて、悪い竜を治療しようとしました。


 悪い竜はおひめさまの優しさに感銘しました。


「心優しいおひめさま。本当にどうもありがとう。お礼に一つお願いを叶えて差し上げよう」


 自分の命を使って、悪い竜はおひめさまの願いをかなえようと尋ねました。


 おひめさまは言いました。


「では、お友達が欲しいです」


 なんというお願いだろうかと、悪い竜は頭を抱えてしまいます。


 そして、悪い竜は一つだけ思いつきました。


 悪い竜は「友達」を作ってあげることにしました。


 翼も、大きな顎も捨て去り、ついには死にゆく自分の肉体で、悪い竜は「人」を作りました。


 その「人」は悪い竜の頃の記憶はありませんでした。


 「人」はおひめさまに言いました。


「わたしがお守りいたします。ずっとずっと」


 こうして、悪い竜は「人」として、今度はおひめさまの国で一生懸命に働きはじめました。




 めでたしめでたし。

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