エピローグ「ノレアとレヴァイアサン」
―――ザザーーーン。
夜風が覚めぬ早朝の海辺、一人、ノレアは早めに起きて散歩をしていた。
「気持ちいい……」
砂場を素足で歩きながら故郷の風を浴びて、いつもはまとめている茶色の髪を靡かせる。
そこには、メイドである自分も、ヤクルゴンの社長である自分も居ない。
一人のノレア=ピスティとしての自分が、そこに居ることを波の音と潮風の中で感じる。
「……?」
――――ピィイイイ……!
そんな風に浸っていると、遠くのビーチの端、岩場のある場所から鳴き声が聞こえてくる。
その音色は、何処かノレアを呼んでいるような気がした。
「なんだろう?」
導かれるように、歩いていく。
手に持っていた靴を岩場で履いて、少し不安定な足場を少しずつ進んで行くと、そこには一匹の竜と見慣れた人が居た。
「レヴァイアサン……!?」
「来たか」
待っていたとばかりにこちらに振り返ったのはロアだった。
傍にはカニを山ほど入れた籠があり、手で持ってレヴァイアサンにカニを与えていた。
「レヴァイアサンは討伐されたはずでは……?」
「討伐したってレオスが大げさに触れまわっただけで、実際は暴走していたのを止めただけだ。結局アイツは何もしなかったしな」
「暴走……」
そこで、ノレアはあることに気付く。
「ちょっと待ってください。なんでそのことを……」
「……」
彼は何も言わない。わざわざ語ろうともしない。
それが、答えだった。
「レヴァイアサンは、君に謝りたいそうだ。―――いや、本当ならこの領地の人間全てに謝りたいらしい」
「レヴァイアサンが……?」
「”おうちを滅茶苦茶にして、ごめんなさい”……と、言っている」
「言葉が分かるのですか?」
「なんとなく、な」
それを聞いて、ロアの隣で海から顔を出しているレヴァイアサンを見る。
レヴァイアサンはまるで謝罪をしているかのように、頭を下げていた。
それがかわいらしくて、ノレアは少し笑ってしまう。
「……そこまで、しおらしくされると、流石に許してしまいますね」
ノレアはレヴァイアサンに近づいていき、下げていた頭をなでる。魚とは違う、分厚い鱗を感じる肌ざわりがした。
きゅーーん……と、レヴァイアサンが気持ちよさそうに鳴き声を上げた。
「暴走していたとは、なんでしょうか?」
何があったかは正確にはわからない。と前置きをして、ロアは語る。
「レヴァイアサンは元々は人と共存をしていた竜だ。温厚で、優しい性格をしていてな……船旅の安全を守ったりして、人からこうやってカニやら魚を分けて貰ったりな」
「それは、なんとなく漁師のおじいさん達から聞いてます」
飲みの席で、なんとなく漁師の人達が語っているのを聞いたことがある。
海岸沿いの漁村が津波に飲まれた時、漁師たちも心底ありえないと口にしていたのは記憶に残っていた。
「俺は、レヴァイアサンの暴走には裏があると思っている」
「裏……ですか」
「あぁ、帝国の陰謀でもなく、ましてや王国の策略でもなく、もっと大きな世界のうねりの中に、もしかしたら俺達は居るのかも知れないと、俺は考えている」
ロアは、拳を握って語る。
なにか、やっと、手がかりを掴んだとでも言わんばかりに。
「今回、リゾートを作り、銀行を立ち上げて、貴族を超える権力を手に入れた果て……やっと、俺は真実に近づけると思うんだ」
「……アトリー様はそのことを?」
ロアは頷いた。
「話したさ。……”好きにしなさい”って一言だけ」
「……そうですか」
その言葉で、会話が途切れて、二人の間にさざ波の音だけが流れていく。
覚悟を決めたと、ノレアは唇を強く結んでから、口を開いた。
「なら、私も力の限り協力しますよ。……どこまで出来るかは分かりませんけど」
「頼むな」
「――――おーーーい」
ノレアと話し込んでいると、遠くの方から声が聞こえてきた。
その声に反応してか、レヴァイアサンが海の中へと逃げるように沈んでいった。
「アトリー様?」
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと見つけた」
ロア達の目に前にやってきたアトリーは血相を変えており、ロアは「どうした?」と聞く。
するとアトリーは息を整えながら、ロアの方へと「大変よ!」と声を上げた。
「大変、大変なのよ!!!」
「なにがあったんだよ。そんなに血相変えて」
ロアが尋ねると、アトリーは右手に持っていた紙を、ロアの目の前に突き出した。
それは新聞紙で、帳面が近すぎてロアは見えず、取り合えずそれを取り上げた。
「――――はぁ………?」
それを見て、ロアは呆けたように声を上げた。
「…………レオス=パルパが、帝国評議会役員への暴行容疑で投獄された……だと?」
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