エピローグ「悪の組織、大計画を打ち立てる(ボスは何も知らない)」



 帝国の夏は、とんでもなく暑い。

 外に出るだけで汗が吹き出るほどの猛暑で、風もそこまで吹かない窪地に帝国は立地しているためか、とにかく暑い。

 例に漏れず、ロア達がやってきた年の夏も、激烈な猛暑だった。


 ただしかし、ロアが居れば、そんな夏などイルミナティカンパニーには関係がない。


 竜乳会社ヤクルゴンの事務所にある会議室。

 そこではロアを始めとした、彼が立ち上げた会社の現社長をしている全員が、部屋で涼んで、顔を合わせていた。


「いやぁーーーーすずすぃーーー!!! FOOOOOO!」

「旦那が持ってきた氷、すげぇがなぁ! 部屋がすずしかばい!」

「千年竜氷……でしたっけ? すごいですねぇロア会長」

「あぁ、ツンドラゴンっていう氷を纏ったドラゴンの寝床で取れる氷なんだが、これがあれば夏場は快適だよな」

「世界が違うって感じっす!! 夏最高!」


 竜乳会社ヤクルゴン社長、ノレア=ピスティ

 派遣会社ヤローワーク社長 サギー=ギャルオ

 建設会社インパクト社長 アンジー親方

 警備会社スターバックル社長 ティターニア


 その他にも、ロアが立ち上げた会社の重役達数人が大きな机を囲んでおり、みな一様ににこやかだ。

 「さて」とロアが話を切り込む。

 全員の視線が一斉にロアに集まり、その真剣かつ期待に満ちた視線に、思わずロアも居住まいを正した。


「君たちに集まってもらったのは他でもない」


 ごくりと誰かが息を飲む。

 それはもしかしたらロア本人だったかも知れないし、緊張感で誰が飲んだかは分からない。

 しかし、確実に言えることは「なにかすごいことを始める」という予感が、全員の中に生まれていたことだ。


「みんなのお陰でヤクルゴンを始め、多くの事業が大成功となり、我が”イルミナティグループ”は国外にも影響を与えられる企業に成長した」


 ロアが目を伏せて、思い返す。

 自分で鍬を振り下ろし、竜乳を売るために街中を駆けずり回って営業し、厳しい冬の間でも建築現場で作業をしていた頃を。

 その頃から考えれば随分と遠くまで来たものだと、改めて自分を褒める。

 目を開けると、全員の顔が目に入る。自分についてきてくれた、戦争の時とはうってかわった仲間たちの顔だ。


「だがしかし、これは皆が知っているように。たった小目標の一つが達成したに過ぎない。それは何故か……わかるな?」

「「世界征服……」」


 誰かがつぶやく。

 その言葉にロアは、こくりとうなづいた。


「これから我々は、世界に羽ばたき、その力を示す必要がある」


 ロアは顔の前でぐっと拳を握りこむ。


「ではどうするのか?」


 仮面の男、ロアは背後にあるホワイトボードに、何かを書き込んでいく。

 キュキュキュと音だけが場を支配し、それを書き終えると、ロアは振り返った。


「”この国の貴族の上を行く”」


 会議室が、一瞬でざわつきだした。

 そのざわつきに、ロアはフッと笑って答える。


「皆が戸惑うのも無理はない。だがしかし、その程度のことはやり遂げて貰わねば世界征服など夢のまた夢だ」


 ざわつきがたったの一言で静まり返る。


「上を行くとは、今までの関係を一変させるということだ。今まで我らは貴族を相手に”商売”をしていた」

「それを変える……と?」


 ノレアが手を上げて質問する。

 ヤクルゴンをひたすらに魔改造し、販売促進に寄与してきた彼女には、理解しがたかったのだろう。


「あぁ、今まで我々は”買ってもらった”という意識が強かったことだろう。だがそんな考えでは貴族には勝てない」


 ロアの言葉に、ノレアは手を下げない。

 あくまで、まだ聞きたいことはあると言わんばかりに、ロアに対抗している。


「今後必要なのは”提供する”という意識だ。あくまで俺達は相手を客としてもてなす姿勢は変わらない。変えるのは今、俺達が”売り込んでいる”という状況だ」


 ロアは静かにそういうと、ノレアが「というと?」と問う。


「俺達が促さずとも、おのずと貴族ですら”買うしかない”と思わせるような商売をするのだよ。そのために俺達は”そのための場所”を用意する」


 全員の顔が一変して、期待に満ちた。

 ロアの言葉をもはや疑う者など居ない。




「我々は―――”楽園”を作る」




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