第34話 三秒間のキス
詩乃と入れ替わり、今度は俺が洗っていく。
――とはいえ。
手足がガクガク、ブルブルと震えてまともに動かない。……いかん。心拍数が急上昇中だ。
このままでは大量の鼻血を噴いて死ぬかもしれない。
いや、耐えるんだ俺。
今は耐え抜く時だ。
「……い、いくぞ」
まだ触れてもないのに詩乃は、身を固くした。
そして、ついにバスタオルという封印を解き放つ。……おぉ、なんて美しい肌。
俺は緊張しながらも、その傷ひとつない背中に触れていく。
「……っ!」
ぴくっと反応を示す詩乃。敏感……なんだな。
今度は俺が詩乃の体を洗っていく。
優しく、丁寧に。
「だ、大丈夫か?」
「…………だ、大丈夫」
耳まで赤い。しかも息も荒い。
こ、これは……このまま背後から襲いたくなる衝動に駆られた。だが、抑えた。
俺は獣ではない。紳士だ。百歩譲ってヘンタイ紳士だ。
「よ、よし……体も冷えてきたし、風呂でも入るか」
「そうだね」
とはいえ、肝心のお湯を張り忘れていた。
しばらく待つとお湯が満たされた。
俺が先に浴槽へ。
その後、詩乃が俺の股の間に入る形で背中を預けてきた。
背後から抱きしめるような形になるとは……。
想像以上の密着度に、俺の思考は強制停止した。……なにも考えられん。
「………………」
「……い、嫌だった?」
「そうじゃない。嬉しいんだ」
「良かった」
沈黙が続く。
俺はどうしたらいいか分からなかった。
童貞だからだ。むしろ童帝だからだ。
……困った。
いつも動画で嗜んでいるとはいえ、いざリアルを目の前すると俺はこんなにも動けないのか。我ながら……情けないッ!
「すまん……」
「なんで謝るの?」
「……俺ヘタレだよな」
「あ~…。気にしないで。わたしも……どうしたらいいのか分からないもん」
そ、そうか。詩乃も
「今日のところは……」
「そ、そうだね。でも、キスならしてくれる……よね」
「そ、それは……もちろんだよ」
立ち上がって、お互いに向き合った。
なるべく体を見ないよう、詩乃の目を真っ直ぐ見据える。
詩乃は、ゆっくりと
顔を近づけて唇に触れ――『コンコン』――。
そうそう、コンコン……って、うわッ!!
「だ、誰か来た」
「そうだな、詩乃」
どうやら、この感じは三鷹さんだ。きっとなにか用で来たんだろう。居留守も悪いし、俺が出よう。
「お兄ちゃん……」
「あ、ああ」
ねだられ、俺は触れるだけの軽いキスをした。たった三秒のキスだ。
腰にタオルを巻き、俺は浴室を出た。
本当はもっとたくさんキスやハグをしたかった。また次回だな。
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