第52話 婚約破棄の罠
トンデモないことになった。
けど、これだけ進化したのなら、もう不審者が不法侵入してくる心配はないだろう。安心しかない。
「な、なんだか凄いことになりましたね……」
「ああ、幸来。安心感は凄い。面倒は増えたけど」
ひとまず、自分の部屋へ向かう。
階段を上がって二階へ行こうとした。だが、幸来が立ち止まっていた。
まさか……。
「…………」
「幸来、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「え、ええ……。その、ここで何かあった気がしたもので……」
「……そ、それは」
その場所は“事件”があった場所だ。
やはり思い出してしまうのか……。
だが。
「大丈夫だよ、幸来ちゃん」
詩乃が幸来の手を握っていた。安心させていた。
すると落ち着きを取り戻していた。
思い出さない方がいい。
その方が良いんだ。
各々の部屋へ戻った。
だが、俺は落ち着かなかった。
いくら事件が終わっても……実家に戻ったと言っても、義妹たちが心配でならない。
どうすればいいんだ……?
部屋の前で悩んでいると父上が現れた。
「久しぶりだな、八一」
「父上……」
「部屋の前でウロウロして何をしているのだ」
「落ち着かないんだ。また襲われないかと……心配で」
「ハッハハ! なにを言っている。これだけセキュリティを強化したのだぞ! もう不審者が侵入できる隙などあるまい」
「……でも」
「気にし過ぎだ。確かに今までは玄関を開けっぱなしにしていた。それは私が悪かった。そのせいで幸来ちゃんには悪いことをしてしまった」
「……」
「だが心配するな。幸来ちゃんの傷付いた心を癒すためには支援は惜しまないつもりだ」
「父上……!」
「もちろん、詩乃ちゃんもな。お前の大切な義妹なのだろう」
「ああ……そうだ! 二人を幸せにしてやりたい!」
父上の言う通り、俺は気にしすぎていたのかもしれない。
それに俺自身が守ればいい。
強くなる為に体を鍛えねば。
「八一、もし強くなりたいのなら、門番の万丈を頼るといい」
「あの男を?」
「うむ。彼は優秀な傭兵だ。きっと戦い方を教えてくれる」
「なるほど!」
その手があったかと俺は思った。
ならば善は急げ。
俺は玄関へ向かった。
庭に出ると番犬にエサをやる万丈の姿があった。あの優しい顔つき、もしかして動物が好きなのかもしれない。
「こんにちは」
「……君はこの家の主の息子か」
「そうだ。俺の名は八一。柴犬家の男だ」
「そんな息子が俺になにか用かね?」
「戦い方を教えて欲しいんだ」
「戦い方を? なにを言う。君たちを守るために俺がいるのだよ。君のお父様も高い金を出してくれた。それに見合う働きをするつもりだ」
「そうじゃない。俺には二人の義妹がいる。いつでも守りたいんだ」
「……家族を守りたい、か。なるほど、そうであれば教えなくもない」
「!? いいのか!」
万丈は立ち上がり、俺を見つめてくる。
こう近くで見ると迫力があるというか、凄い威圧感だ。
「俺にも妹がいた。だから気持ちはよく分かる」
「もしかして戦場とかで……」
「日本で無事に生きているがな」
「生きてんのかよっ! なんで深刻そうな顔で言った!」
てっきり亡くなっているのかと思ったぞ。
「ともかく戦い方を学びたいのなら、料金は弾んでもらうぞ」
「分かった。金の心配はするな。父上が払う」
「了承した」
これで俺は更に強くなれる!
詩乃も幸来も守れるんだ。
強い男になって、いつでも守れるようになったら俺は二人に結婚を申し込む!
「じゃあ、さっそく!」
「いや、訓練は明日から行う。準備もいろいろあるからな」
「そうか。じゃあ、そうするよ」
今日のところは素直に撤退し、部屋へ戻った。
しばらくして父上に呼び出された。
なにか話があるらしい。
なんだよ、改まって?
リビングへ向かうと父上の姿が。ジークフリートも遠くで待機している。
「よく来た、八一」
「父上が呼びだしたんだろう」
「うむ。重要な話がある」
「重要?」
「そうとも。お前は以前、八塚家の長女と婚約していたはずだ」
「あ、ああ……可奈だろ」
「その可奈さんとは正式に婚約破棄したわけではない」
「え……」
「つまり、まだ続いているんだ。それを言っておきたくてな」
「な、なんだって!?」
まてまて。俺は自分で宣言したはずだぞ。
いやまさか!
「いいか、八一。お前は言葉で婚約破棄したと思っているようだが、そうではない。柴犬家と八塚家は“正式”に婚約を交わしていたのだ。だから、正当な理由がなければならないのだ」
「なにィ!?」
「ちなみに裁判になった場合、慰謝料は50万円~300万円程度掛かるようだ。間違いなく負けるだろうな」
「マジかよ」
「ゴーグル先生が教えてくれた」
「ググってんじゃねぇよ!」
「円満に終わらせたければ、可奈さんと一度話し合うのだ」
父上は話はそれだけだと言い、立ち上がる。
そ、そんな……婚約破棄って言うだけじゃダメだったんだ……知らなかったぞ!
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