第6話 認められなくても義理の妹
あれから三日。
詩乃は、生活にも慣れ始めていた。新しい高校への転入も検討し、それまでは俺と一緒に過ごすことに。
父上は頑なに俺と詩乃の関係を認めない。
それどころか、最近は追い出そうと必死だ。
そうはさせない。父上は俺という跡取りを失えば痛手だろう。だから、今のところは強く出ていない。今のうちに説得してどうにかしないと。
しかし、どうしたものか。
「う~ん……」
「どうしたの、お兄ちゃん」
「いやぁ、父上にどう認めさせようかなって」
「あ~…そうだよね。わたし、未だに正式には義理の妹じゃないもんね……」
口約束なだけで、まだ正式な手続きは踏んでいない。父上が頭を縦に振らないことにはな。けれど、手段は養子に迎えるだけではない。
結婚すればいいんだ。
そうすれば必然的に家族になれる。
今は義理の兄妹だけど、それでいい。今はな。
「気にするな。父上や世間が認めなかろうが、俺と詩乃は兄妹だ」
「嬉しい……」
目尻に涙を溜める詩乃。そうだ、この子は親も頼れる親戚もいない。ひとりぼっちなんだ。あまりに可哀想じゃないか。
詩乃の頭を撫で、落ち着かせていると――。
「坊ちゃん、お取込み中のところ失礼いたします」
「ジークフリート、どうした?」
「お手紙が来ております」
「手紙だと?」
今の時代にしては珍しいな。
いったい誰が……差出人の名前を見て俺は驚いた。……可奈じゃないか。
そうか、この前別れてから俺はメッセージアプリをブロックしたんだっけ。もう会うことはないと思って。
まさか手紙を送ってくるとはな。
中身を見るべきか、このまま破り捨てるべきか。
「いかがなさいますか」
「……この手紙は燃やしてくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ。未練はない」
余計な感情は、詩乃との関係を破綻させかねない。
詩乃にも心配を掛けたくない。
それに……それに未だに可奈と凍夜の交わっているシーンがフラッシュバックする。胸が苦しすぎる……。
早く忘れる為にも俺は、可奈の連絡はすべて拒絶する。
それが正しい選択なんだ。
手紙の処理をジークフリートに任せた。
これでいい……これでいいんだ。
◆
今日は詩乃の服を買いにいく。
女の子の服はほとんどないし、詩乃も可愛い服を着たいだろう。
「え、本当にいいの……?」
心苦しそうに詩乃は眉をひそめる。
「いいんだよ。兄である俺に任せろ」
「でも……わたし、貰ってばかりで……」
「気にするな。どうせ父上のブラックカードだ。ブランド物を買いまくって、ジャブジャブ使ってやろう」
「ブ、ブラックカードって……?」
「プラチナカードより上のランクで、噂だと戦車も買えるらしいぞ」
ジークフリートによれば、マジらしいけどな。まあ、戦車なんていらないけど。とにかく最強のクレジットカードというわけだ。これ一枚でなんでも買える。
「す、すご! 本当、お兄ちゃんの家ってお金持ちだよね」
「柴犬家は、それだけが取り柄だよ」
「でも、なんでお金持ちなの~?」
「十年前、ただのサラリーマンだった父上は『暗号資産』で大儲けした。当時、ビットメダルという通貨が1万円くらいの時に買いまくったんだと。へそくりで何百万と購入して……五年以上忘れていたらしい。それが気づけば数十億以上となっていたようだ」
現在、1ビットメダルは600万円以上の価値がある。
父上はいくつ保有しいてるのか教えてくれないが、少なくとも100億円以上は資産があると言っていた。いったい、いくら買ったんだかな。
それから自身も暗号資産の取引所を立ち上げ――大儲け。
数年後にやってきた“仮想通貨ブーム”で一気に大富豪の仲間入り。今や、世界の大富豪ランキングのそこそこの位置にランクインしているようだった。
興味はないけど、なんちゃらコインを作ってウハウハのようだ。
「すご! 暗号資産って今流行ってるよね~」
「前のブームよりは落ち着いたけどね。今の時代はどっちかといえば株らしいし」
「そうなんだ。博識だね、お兄ちゃん。かっこいい」
詩乃から憧れみたいな眼差しを向けられ、俺はいい気分になった。
高校生だし、あんまり株だとか分からないよな。
俺もそこまで詳しいわけじゃないけど。
そんな話をしているとマイバッハが玄関前にやってきた。ジークフリートだ。
車に乗り込み、さっそく服を買いにいく。
「詩乃、お店はどこがいい?」
「う~ん……ユニシロかな」
「ユ、ユニシロ?」
「え、服屋だけど……」
知らなかった。そんなお店があったとは。
俺は普段、ビトンしか行かないからなぁ。あとたまにステファニーくらいか。
けど、詩乃が普段どんな買い物をしているか興味はある。そのユニシロとやら、行ってみるか。
俺はジークフリートに指示を出した。
「では、出発いたします。シートベルトをお願いいたします」
マイバッハが走り出す。
快適な走行で風景が流れていく。
このまま何事もなく詩乃と買い物へ……ん?
ふと後ろを向くと車がついてきているように思えた。なんだろう、尾行されている……? いや、まさかな。
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