第21話 義妹とホテル暮らし

 父上の勧めもあり、都内のホテルへ避難。

 俺は詩乃と二人きりとなった。


「ここならもう誰にも邪魔されないな」

「うん、お兄ちゃん。もう安心だね」


 疲労のせいか、高級ホテルの中を楽しんでいる余裕はなかった。

 夜景だけが綺麗だなぁと思えた程度だ。

 てか、本当に綺麗だな。


「しばらくはホテル生活だ」

「お金大丈夫?」

「気にするな。父上が緊急資金として口座に振り込んでくれた。一年は余裕で暮らせる」

「す、すご……」



 けど、すぐにマンションを探さないとなぁ。

 ずっとホテルというのも――いや、アリか。

 いっそ、ホテル暮らしにするのもありかもしれない。



「詩乃、荷物は?」

「ある程度は持ってこれた。着替えとか日用品はあるよ」

「それは良かった。慌しくてごめんな」

「ううん、いいの。わたしはお兄ちゃんのそばにいられれば……それで幸せ」


 そんな風に言ってくれる詩乃。嬉しくて俺は泣きそうになった。

 あんな惨い事件が続いたというのに。


 ……幸来もあんなことになったのに。


 あれから幸来は目覚めることはなかった。

 ショックが大きすぎたらしい。


 可奈から聞かされたが、もし目覚めても重度の『心的外傷後ストレス障害PTSD』や鬱でもう動けないかもと言っていた。

 精神的にはボロボロだろうな。


 俺は幸来の支援を申し出た。

 可奈はありがたくと珍しく普通に答えてくれた。

 今後は、幸来の面倒を見ることになり、しばらくは会えないと言われた。


 きっと可奈は責任を感じているのだろう。

 凍夜と付き合ってしまったばかりに、実の妹を巻き込んでしまった――と。


 俺も悪いと思っている。


 もっと早く駆けつけられていれば……そんな後悔ばかりだ。


「ごめんな、詩乃。幸来を守れなくて。これでは兄貴失格だ」

「……幸来ちゃん言ってた。自分は、お兄さんに救われたって。それだけで十分だって……だから、わたしの身代わりになったのかも」


「……くっ!」


 だからと言って盾になって凍夜のされるがままになるだなんて……。

 くそっ!

 こんなことなら、もっとブン殴っておけばよかった。


 怒りが込み上げていると、スマホに連絡が入った。



 だ、誰だ?



 知らない番号からだった。

 通話ボタンを押し、スマホを耳にあてると――。



『もしもし。柴犬 八一さんのお電話ですよね』

「は、はい。俺ですが」

『あ~。そうでしたか。警察の者です』

「え! 事件のことですか?」

『そうです。実は……凍夜さんが襲われて死亡しました……。という報告です』

「!? ……そ、そんな」



 あの男が死亡!?

 そんな馬鹿な。

 ありえないだろ!!


 だが、警察によると凍夜は、面会にきた父親に刺されて死んだらしい。

 そうだった。

 あの父親も、凍夜と同じく厄介な存在だった。

 息子に失望して刺し殺したか……。


 すぐに取り押さえられ、父親も逮捕されたようだが。


 これで天王寺家は終わりか。


 勝手に自滅してくれて助かるけどね。


 電話は終わり、俺はこのことを詩乃に伝えた。



「うそ……」

「俺もビックリだよ。でも、これでもう脅威はなくなった」

「もう大丈夫かな」

「ああ、きっとな」



 だが念には念を。

 しばらくはホテル暮らしだ。

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