第15話 お兄ちゃん……キスして

「帰ってくれ……!」

「八一、貴様……。誰にモノを言っている」


 凍夜の父親は、俺の前に立ち――睨みつけてくる。物凄い迫力だ。

 けれど、俺は屈しなかった。

 もうコイツ等にはうんざりしているからだ。


「警察に通報するぞ」

「生意気な小僧が! まあいい、今に後悔させてやるからな!」


 散々悪態をついて、凍夜の父親は去っていく。……なんなんだよ、アイツは。


 こう凍夜関連が続くと頭が痛い。いっそ、俺と妹たちだけでも引っ越すべきかもしれない。


 そうだ、マンションでも借りて同棲生活をする、なんていうのもアリだよな。

 住所がバレなきゃ平和に暮らせるのだから。


 今日のところは邸宅の門を閉めることにした。最初からこうしておけば良かったんだ。

 これでもう入られる心配はない。


 その後、夜になった。

 晩飯は三鷹さんが作ってくれた。

 普段は、ジークフリートの担当だが、しばらく不在なので仕方ない。


 食堂に詩乃と幸来を呼び、食事を楽しんだ。


 会話も弾み、詩乃がアニメやゲームが好きだということが分かった。幸来も同じようで、ラブコメにハマっているのだとか。

 そんな話をしながらも、食事を終えた。



「――美味しかったぁ、みんなで食べるって楽しいんだね」



 詩乃は不思議なことを言った。

 いや、でもそうなんだ。

 詩乃は家族との食事もなかったんだな。


「そりゃ良かった。これからも一緒だぞ」

「うん、ありがと。じゃあ、幸来ちゃんと一緒にお風呂へ行ってくるね」

「分かった」



 二人はなんだかんだ仲が良いな。

 いったい、どんな話をするんだろう。同い年のようだし、共通の話題はありそうだけど、気になるなぁ。あとでこっそり詩乃に聞いてみるか。



 ◆



 就寝時間となった。

 俺はひとり自分の部屋でゆっくりしていたが、扉をノックする音がした。


『あの、お兄ちゃん』

「なんだ、詩乃か。入っていいぞ」


 扉を開け、俺の部屋に入ってくる詩乃。可愛らしい寝間着姿で新鮮だった。

 おぉ、なんて可憐なんだ。


「……突然押しかけてごめんね」

「どうした?」

「ひとりだと寂しくて……」

「なるほど。じゃ、俺の隣に座って」

「うん」


 詩乃はベッドに腰掛けた。

 良い匂いがして頭がぼうっとした。

 こ、これは……女の子特有の石けんの匂い。


 それと同時に俺は、詩乃の部屋でのことを思い出してしまった。……記憶が蘇って興奮してきた。


「詩乃……まさか、続きを?」

「…………そ、それもあるけど、少し話がしたいから」


 それもあるのか!


「そうだな、まずは話をしよう」

「えっとね」

「うんうん」

「明日、どこか行こ」

「あ~、そうだな。服も結局買えなかったし、それに幸来も増えたから買い物したいよな」

「そうそう。生活用品がたくさん欲しいの」


 年頃の女の子にはいろいろだろうし、必要な物は多いはず。明日こそは普通に買い物をするぞ。

 決まりだ。


「分かった。タクシーの予約をしておく」

「ありがと。優しいお兄ちゃんが大好き」


 詩乃は嬉しそうに俺の手を握る。

 俺の方こそその笑顔が見れて嬉しい。


 しかし、こうしている間にも可奈からの連絡が絶えなかった。


 う~ん……ブロックしたいところだけど、下手に連絡を拒絶すれば刺されかねん。悩みどころではある。

 かと言ってずっと反応しないのもなぁ。


「俺もだよ、詩乃」

「こんなにドキドキするの人生で初めて」


 まるで恋する乙女のように詩乃は頬を赤くしていた。潤んだ瞳が宝石のようにまぶしい。

 正直、俺も同じ気持ちだった。


「これが恋なのかな」

「うん、きっとそうだよ。ねえ、お兄ちゃん……キスして」


 切なそうに声を漏らす詩乃。

 唇が目の前にあった。


 ……詩乃がここまで求めているんだ。


 迷いはない。

 義理の妹にもしたいし、結婚を前提に……詩乃と付き合いたいんだ。


 だから――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る