第16話 義妹とベッドへ

 雰囲気に押され、俺は詩乃の唇を……。

 ゆっくりと顔を近づけて“頬”にした。


 だめだぁ……俺、チキンすぎる!!


 それでも詩乃は嬉しそうに微笑む。


「い、今は……これで」

「うん、いいよ。嬉しい」


 くそう、俺の馬鹿。本当は……唇にしてあげたかった。でも、だめだった。心臓が破裂しそうなほどバクバクしていたからだ。


「ごめん……」

「謝らないで。でも、いつかしてくれるよね……?」

「もちろんだ。今はヘタレな俺を許してくれ」

「許してあげる。その代わり、一緒に寝て」

「マジか」

「幸来ちゃんには悪いけどね」

「いや、今晩は詩乃と寝るよ」

「やった! ありがとう、お兄ちゃん」


 それくらいはいいだろう。

 添い寝くらいなら……多分なんとかなる、はずだ。


 お言葉に甘え、俺は詩乃のベッド中に。

 詩乃が部屋を暗くして、俺の隣へ。


 呼吸音が分かるくらい近い。

 緊張で俺は背を向けるが、詩乃はピッタリくっついてくる。そ、そんなに密着されると……嬉しい反面、興奮が止まらなくなる。


「……詩乃、近いぞ」

「この方が寂しくないから」

「な、なるほど」


 納得していると詩乃は更に手を伸ばして、俺を抱きしめるようにしていた。

 こ、これはいくらなんでも密着しすぎな気が!

 ていうか、柔らかい何かが背中に当たっているぞ……。こ、これはまさか。いやいや、考えるな俺。理性が吹き飛んでしまいそうだ。


 今は詩乃のぬくもりに身を委ね、眠ろう。


「おやすみ、お兄ちゃん」

「ああ……おやすみ」


 不思議と俺は眠ることができた。

 きっと詩乃が俺を包んでくれているからだ。こんなに優しく抱きしめられたのは人生ではじめて。


 ……やっぱり、キスしておけば良かったな。



 ◆



 朝を迎えたらしい。

 そうか、俺は詩乃の部屋で寝たんだった。


 起き上がると違和感を感じた。

 ……ん、なんだ。

 なんか手がスベスベするな。


 その方角へ視線を向けると、詩乃はなぜか下着姿だった。……な、なんだこりゃあ!?


「……………お兄ちゃん」



 詩乃はまだ眠っている。

 まてまて、寝相もずいぶんと悪いな。まさか、寝ぼけて脱いじゃったのか。

 にしても、ここまで見事に寝間着を脱いでしまうものかね。

 幸い、下着はつけているけどさ。

 こ、これは……神々しすぎて直視できない。


 朝から刺激が強すぎるし、それに詩乃が風邪を引いてしまう。


 布団をかぶせ、俺は詩乃の部屋を出ることにした。こんなところを見られたら、いろいろ誤解されるからな。


 いったん自室へ戻り、二度寝した。


 相変わらずスマホに着信が来まくっている。可奈のヤツ、どんだけ構って欲しいんだ……。そろそろ反応してやろうか? いや、ダメだ。甘くすれば、可奈は誤解してまた調子に乗る。


 今日一日考えて、今後の対応を考えよう。


 少し寝ると部屋をノックする音がした。


 ん、誰だ?



『あの、お兄さん』

「幸来か」

『はい、そうです。ちょっと話がありまして』

「分かった」



 俺は扉を開け、幸来を部屋に招き入れた。

 幸来はなんだか不安気な表情だった。



「ちょっと困っていて」

「ん?」


 スマホを向ける幸来。

 その画面には姉である可奈からのメッセージが大量に。

 妹にも送っているのかよ。

 なんて奴だ。


「これ……お姉ちゃんからで。八一さんと連絡を取らせろとしつこくて」

「俺のところにも千件以上来てるよ」

「え! そんなに! ごめんなさい」

「幸来が悪いわけじゃないよ」

「でも」

「大丈夫さ。近い内になんとかするつもり」

「いっそ、ブロックした方がいいかなと」


「んや、したところで家に乗り込んでくるだけだ。だから考えたんだけどさ……マンションを借りようかなって。詩乃と幸来と俺、三人で住むんだ」



 そう提案すると幸来は、その発想はなかったと感心していた。



「でも、お金とか」

「金なら心配するなら。父上を説得して出させるから」

「なんだか申し訳ないです」

「気にするな。暴走する可奈から身を守るためだ。またいつ襲ってくるか分からないからな。それに、凍夜も復讐しに来るかもしれない」


「え……凍夜さんが?」


「逮捕されたとはいえ、あの手この手で出てくるだろう。あの父親がいるし」

「そ、そうですね。納得です!」



 いろいろ考えた結果、俺は引っ越す方がいいと結論付けた。

 けど、直ぐとはいかない。

 部屋も探さなきゃいけないし。

 まずは父上に相談だ。



「そんなところだ」

「さすがお兄さんです。頼りになります」

「いやいや。さて、そろそろ朝食にしよう」

「はい、分かりました!」



 部屋を出て、下の階へ降りると父上の姿があった。誰かと話している……?



「――悪いのだが、幸来を返してくれ」

「……うむ。そうだな」



 え、幸来を返せだって?

 相手は誰だ?



「……お父様」



 ぽつりとつぶやく幸来。えっ、父上が相手にしているあの厳ついおじさんは、幸来の父親か……!


 幸来を迎えに来たのか。

 くそ、本人は嫌がっているというのにな。なら俺が守る。

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