第17話 義理の妹とお風呂へ

 幸来の父親は、こちらに気づく。


「幸来! やはり、ここにいたのだな」

「どうして……お父様、どうしてここに!」

「知れた事。お前の行動など筒抜けなのだよ」


 恐らく、西東さんから情報が漏れたか……。自ら辞めて、八塚家に情報を売った可能性さえある。でなければ、幸来がここにるとか分かるはずがないんだ。


「あたしは帰らないから!」

「わがままを言うな、幸来。そもそも、家出をしてただで済むと思うな」

「家出じゃない。あたしは柴犬家の養子になるって決めたの!」


「な、なに……!?」


 父親は驚いていた。

 それどころか、父上も意外だったようで驚愕していた。


「だから帰って」

「さ、幸来……なんてことを言うのだ! 八塚家を捨てるというのか!」

「うん、捨てる」

「……お前というやつは!!」


 怒り狂う父親。手を出そうとしていたので、俺は間に入った。


「止めてください」

「……八一くん」


 ああ、そうか。八塚家にとっては俺は有名人というわけか。

 もともと可奈と婚約を交わしていたわけだからな。


「幸来は望んで柴犬家に来たんです。今は様子見でいいじゃないですか。それに彼女、死にそうになっていたんですよ。今の精神状態はかなり悪いです」


「だ、だが」


「そんな環境に陥ったのは八塚家のせいでしょう。それより先に可奈を何とかして下さい。彼女、ずっとおかしくて……」


「……分かっている。可奈はお前さんに好意を抱いていた。だが、凍夜くんが可奈を狂わせてしまったのも事実……」


「その凍夜が全部悪い」

「しかし、これとそれは話は別。幸来にも家に帰ってもらわねばならない」


「幸来の意思を尊重すべきです」

「…………む、むぅ。よかろう、少しだけ猶予をやる。確かに、八一くん君には可奈の件で迷惑を掛けた。その詫びというわけではないが、特別に幸来をお願いしようではないか」


「いいのか?」


「ただし、一週間に一度は帰ってくること。それが条件だ」



 一週間に一度か……。

 あとは幸来がうなずけばいいが。


 振り向くと幸来はうなずいた。



「それならいい」

「よし、決まりだ。では、一週間後に八塚家に戻ってこい」



 怒りを収め、くるりと背を向ける幸来の父親。意外と話が分かるんだな。

 しばらくして去って行った。



「ふぅ、幸来。これで良かったんだよな」

「は、はい……。ありがとうございます」

「俺に出来ることはこれくらいだ」

「すごく嬉しいです。お兄さんのそばにいたいから……嬉しいです」



 幸来は俺に抱きついて喜んでいた。

 本当に八塚家に戻るのが嫌だったんだ。


 抱き合っていると、父上が咳払いした。



「ゴホン。八一、お前の覚悟を聞けた気がする」

「父上、俺はずっと本気だ。詩乃も幸来も義妹にする」

「仕方のない奴だ。だが、ちゃんと面倒を見ているようだし……まあいいだろう」



 厳しく言われることも減ったし、俺は父上に少し認められたらしい。

 もちろん、今までの行動を総合したうえでの評価だろうけど。

 真面目にやっていてよかったよ。

 努力はいつか報われるんだな。


 少しして、父上は書斎へ戻っていった。


 俺と幸来は残され、静寂だけが残る。



「あの、お兄さん」

「ん?」

「お礼がしたいです」

「お礼……別にいいよ」

「いえ、あたし、もらってばかりですし……返したいんです」


「十分返してもらってるよ」

「いいえ。ダメです。ちゃんとした形で帰したいんです」


 幸来は、俺の手を引っ張る。

 耳を赤くして、どこへ向かう気だ?」


 しばらく歩くと浴場が見えてきた。


 邸宅に備え付けられている大浴場だ。朝なら、誰も使用していない。


「え……風呂?」

「はい。八一お兄さんと一緒にお風呂に入ります」


 脱衣所に入ってしまった。

 幸来は服に手をかけて脱いでいく。あっと言う間に下着姿になり、上目遣いで視線を送ってくる。


 な、なんだって!


 一緒にお風呂だって……!?


「い、いいのか」

「はい。お礼がいしたいので」

「分かった。そのお礼、もらうよ」

「はい、お背中流します!」



 こうなったら断る理由もない、幸来と一緒にお風呂へ。

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