第43話 いつ結婚するんだ……?

「……ちょっと待ってよ、八一くん」


 可奈が俺を呼び止めた。

 ……そうなるよな。


 予想はしていたけど、きっと可奈は止めてくると思った。


 ここは穏便にいきたい。ので、俺は可奈と二人きりで話すことにした。



「分かっている。幸来を無条件で渡してくれるわけないよな」

「もちろん。今までずっと見守ってきたんだから。それに一応、実の妹だし」

「そうだよな。ありがとう、可奈」


「お礼はいいわ。それより、私との関係を修復して欲しい」

「つまり、婚約?」

「無理強いはしない。だから妥協して……友達からでいいわ」


 これは意外だ。

 可奈がまさか友達という関係を要求してくるとは。

 以前なら、婚約を強引に押し通してきそうな気がしたが。


「それでいいなら」

「……うん、今はそれでいい」

「今は?」

「気にしないで。……フフフ」


 なんか目が怖いけど、ヨシとしよう。

 今はとくにトラブルを起こす気はないようだし。後々あっても俺がなんとかする。


 これで幸来を預かっていいことになった



「今度こそ行くぞ。詩乃、幸来」


「うん」

「やっと病院から出られるー! 楽しみ」



 病院を去り、タクシーへ。



 ◆



「ここがホテルだ」

「お兄さんたち、こ、ここに住んでるの……!? ホテルじゃん」


 事実を知り、驚く幸来。

 あの事件があってから安全の為にホテル生活をしていると教えた。今後、幸来も同じようにホテル暮らしだ。


 とはいえ、そんなに長くないだろう。


 邸宅が復活すれば以前の暮らしに戻る。



「部屋は三鷹さんと同じ部屋の方がいいだろう」

「三鷹さん?」



 ああ、そうか。記憶がないのか。

 とはいえ、三鷹さんとはそれほど長く付き合ってはいないはず。そんなに違和感はないはず。


 ホテルへ入り、部屋へ。


 まずは三鷹さんの部屋に向かい、ノック。

 すると、すぐに顔を出した。


「おかえりなさいませ、八一様。詩乃様……あら」


 すぐに幸来の存在に気づく三鷹さん。


「あ、あの……はじめまして」

「……はじめまして?」


 さすがの三鷹さんも首を傾げた。

 俺は耳打ちして事情を話した。


「――かくかくしかじかで、記憶がないんだ」

「……なるほど」


 理解が早くて助かる。


「幸来のためにサポートしてあげて欲しい」

「分かりました。お任せください」


 快く引き受けてくれる三鷹さん。専属の世話係として働いてもらおう。


「決まりだな」

「では、幸来様をお預かりいたします」

「頼んだ」


 部屋の説明とかあるし、いったん別れることに。


「え、私はお兄さんと一緒の部屋では……?」

「詩乃と交代制でね。今は三鷹さんから説明を受けてくれ。俺もあとで行くから」

「分かりました。じゃあ、詩乃ちゃん。そういうことだから」


 一方の詩乃は「うん、またね」と返事を返した。


 俺たちも戻ろう。



 部屋へ戻り、少しのんびりした。



 くつろいでいるとスマホに電話が入った。父上からだ。



「なんだ?」

『八一、緊急の話がある』

「き、緊急だって?」


『……詩乃ちゃんといつ結婚するんだ……?』


「なッ!? な、なにをいっているんだ、父上!」


『お前、そう言っていたろ』


「それはそうだけど、実は……」


『なにいいいいいいい!? 幸来ちゃんが意識を取り戻したァ!? それは良いニュースだ! 良かったじゃないか!』



 驚く父上は、電話の向こうで喜んで泣いているようだった。

 なんだかんだ心配してくれていたんだな。



「というわけで、今はまだ結婚とか考えられん」

『そういうことか。だが、詩乃ちゃんと結婚したいんじゃないか?』


「今はまだ義妹だよ。幸来もね」


『そういうことにしておいてやろう。ああ、そうそう。邸宅いえだが、突貫工事で修復が早まるかもしれん』


「マジか」


『一週間以内にはセキュリティもパワーアップして原状復帰できるはず』


「早いな!」


『ふははは。私の力があれば労働力を掻き集めるなど容易い』



 つまり、金の力でなんとかした――と。さすがと言わざる得ない。だが、これで家へ戻れる可能性が高まった。

 今度はセキュリティも強化してくれるようだし、安心だろうか。



「分かったよ。でも今はホテル生活でがんばる」

『うむ。また戻れるようになったら連絡する。それまでは詩乃ちゃんと幸来ちゃんと生活を楽しむがよい』


 そこで電話は切れた。

 さて、そろそろメシにしようかなと思ったら。


「ねえ、お兄ちゃん」

「詩乃……」


 バスタオル姿の詩乃がこっちに向かってきていた。

 今にもそのタオルを脱ぎそうな、そんな気配。


「……しよ」

「え……詩乃」


 頬を真紅させ、真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。……詩乃、まさか望んでいるのか。

 俺は……。

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