第42話 帰ってきた義妹

 今日も仕事を終えた。

 と、同時に可奈から連絡が入った。……む?

 スマホを覗いてみると、そこにはメッセージが。



 可奈:幸来が目を覚ました



 !?


 幸来が……やっと意識を取り戻したんだな。無事でよかった。



 八一:分かった。病院へ向かう


 可奈:でも会えないかも


 八一:なんで?


 可奈:詳しくは病院で話すよ


 八一:了解した



 そうか、幸来が……。俺は彼女に謝りたい。それと改めて義妹して迎えたいと思った。

 水口さんに挨拶をして事務所を出る。


 詩乃には、すでに校門にいるよう指示を出した。

 きっともう待っているはず。



 向かうと、校門前に詩乃の姿があった。



「あ、お兄ちゃん~!」

「お待たせ、詩乃。今からタクシーで病院へ向かう」

「幸来ちゃんが目を覚ましたって本当なの?」

「ああ、本当らしい。でも、会えるかどうか分からんようだ」

「そうなんだ……」



 とにもかくにも病院へ向かい、可奈から事情を聞く。今後のことはそれからだな。


 タクシーに乗り込み、病院へ向かってもらった。


 少しして到着。


 建物の中へ向かうと、可奈が待ってくれていた。



「わざわざ来てくれてありがとう。私も嬉しいし、幸来も喜ぶと思う」

「それで、幸来とは会えないのか?」

「うん。難しいかも」

「理由は?」


「多分、会っても辛くなるだけ」



 可奈は、なんだか寂しそうに言った。

 いったい、なにがあったというんだ……?



「教えてくれ」

「分かった。言うね……。実は幸来は……」



「わッ!」



 いきなり背後を押され、俺はビックリした。




「うああああああ!?」



 振り向くと、そこには幸来の姿があった。



「久しぶり、お兄さん」

「さ、幸来……幸来だよな!?」


「うん。幸来だよ。あ、詩乃ちゃんも久しぶり」



 元気な姿でそこに立つ幸来がいた。……よかった、復活したんだな。

 俺は視界が涙で歪んだ。

 詩乃も同じくしてボロボロ泣いた。



「幸来ちゃん!!」

「詩乃ちゃん……ごめんね」

「ううん。わたしのせいだよ……わたしの方こそごめんなさい……」

「いいの。私はお兄さんと詩乃ちゃんを守りたかった。だって、助けて貰ったから」

「でも……でも」



 そうだ。幸来は凍夜に身も心もズタズタにされた。今も辛いはずだ。

 だらこそ、今度こそは幸せにしてみせる。



「てか、可奈。会えないみたいなこと言っていたが、嘘か!?」

「嘘だよーん。ちょっとサプライズ」

「そういうことかよ!」



 くそっ、騙されたぜ。

 でも、おかげで幸来の顔を見られた。ちょっと、やつれているが意識を取り戻してくれて良かった。


 安堵していると、幸来は俺を呼んだ。



「あ、あの……お兄さん、話しが」

「俺も山ほどある」



 詩乃と可奈には少し離れてもらい、俺は幸来と話すことに。



「ここで」

「分かった」


「えっと……。まず、前のことは気にしないでください。正直、覚えてないんです」


「え」


「記憶が抜けているというか、記憶喪失的な? ていうか……もう過去がほとんど思い出せないんです。たぶん、事件のショックで……」


「そうなのか? でも俺と詩乃の名前を覚えているじゃないか」


「辛うじて覚えていたのがお兄さんと詩乃ちゃんでした。多分、助けてくれたから印象に残っていたんだと思います」



 なんてことだ。幸来のダメージは想像以上ということか。

 生活に支障はないレベルだが、今までの思い出はほとんど抹消されたようだ。……可哀想に。



「もう一度、俺たちとやり直そう」

「……いいんですか?」

「あたりまえだろ。ぜひ、俺の義妹になってくれ」


「嬉しい。私、お兄さんと一緒に住みたい……」


「ああ。家に帰ろう」

「……でも」


「え?」


「…………」



 言葉に詰まる幸来。なにか言い辛そうだ。



「どうした?」

「……私、もう処女じゃないんです。お兄さんにはじめて……あげたかったのに」

「その気持ちだけで十分だよ。それに幸来が俺のことを覚えてくれて嬉しい。そばにいてくれて嬉しい。ずっと居て欲しい」


 それを伝えると、幸来はぽろっと涙を零す。

 そして、気づけばボロボロに泣いていた。


 俺の胸に顔を埋め、泣き続けた。


 ……さあ、帰ろう。

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