第41話 義妹の守護者

 昼になった。

 水口さんは元気を少し取り戻し、仕事もちょっとずつ進めていた。


 少し待つと詩乃が事務室にやってきた。


「お待たせー、お兄ちゃん! あ、あと水口さんも」


 元気な挨拶で入ってくる詩乃。

 その手にはパンが。

 俺の分もある。


「購買部で買ってきてくれたのか、詩乃」

「うん。買っておいたよー!」


 カレーパン、焼きそばパン、あんパンにクリームパンなどなど、今日はちょっと多めだ。


「こんなに?」

「水口さんの分もあるよー。おやつの時にでも食べて」



 そういうことか。なんか多すぎると思った。



「じゃ、俺はカレーパン」

「わたしは焼きそばパン!」



 そして、水口さんは、あんパンを手にしていた。



「ありがとう詩乃ちゃん。なんだか悪いね。今度、私が買ってくるから」

「いいんです! 気にしないでください」



 ああ、もしかして水口さんの心情を察して……詩乃は優しいなぁ。確かに、食べることによって活力が沸くし、元気も出やすい。


 詩乃は椅子に座った。


「ところで詩乃、授業はどうだ?」

「今のところは問題ないよ~。ただね」

「ただ?」


「うん、今日は男の子と話した」

「……む」


「でも、風吹ちゃんのガードが固くてね。守ってくれるの」



 ほっ、安心した。

 どうやら風吹さんは、めちゃくちゃ頼りになりそうだ。

 また会うことがあれば、改めて詩乃を頼んでおこう。


 昼飯を食べ終え――解散。


 俺は再び事務の仕事に集中。

 そんな中、水口さんが話しかけてきた。


「そういえば、八一くんは大学生だっけ」

「そうです。こっちのバイトしながらでも何とかなるので」

「へえ、凄い。単位とか大丈夫なんだね」

「勉強の方はそこそこに得意なんです。父上――いえ、父が元教師なので」

「そうなんだ!」


 今や教師を辞めて隠遁生活中だけどな。

 多分まだ鎌倉の別荘にに篭もっている。早くこっちに返って来て欲しいものだ。

 久しぶりにジークフリートに会いたいし。


 そんな談笑を交えつつ、俺は事務の仕事を進めた。


 その後、奥野校長がやってきた。


「こんにちはあるいはこんばんは。捗っていますか?」


 どこかで聞いたことのある挨拶だな。

 まあいいや。


「はい。おかげさまで」

「八一くん、そして水口さん。川辺さんのことは申し訳なかったです。まさかあのような事態になるとは……」


 奥野校長は頭を下げた。

 その光景が以外で驚いた。

 まさか謝ってもらえるとは。校長が悪いわけではないのに。


「いえ、俺はともかく水口さんが……」


 そうだ。彼女はかなり無理をしていると思う。

 本当ならここへ来たくもないはず。

 でも、それでも彼女は来た。


「そうでしたね。本当に申し訳ない」

「その、私はこの学校が好きなんです。だから……がんばります」


 水口さん凄いなぁ。

 あんなことがあったら普通辞めたくなると思う。でも、それでも……。なら、俺もがんばらなきゃ。

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