第40話 可愛い妹と共に

 このままでは遅刻してしまうので、俺は止めた。



「だめだ、詩乃」

「えー…。って、遅刻しちゃう!」



 今気づいたのかよ!

 ようやく目を覚ましたのか、詩乃は急いで仕度を進めていた。


 バタバタとしたが、なんとか準備完了。


 今日も学校へ向かわねば。

 だが、通路へ出ると三鷹さんが現れた。



「八一様、おはようございます」

「おはよ、三鷹さん。どうした?」

「旦那様がご連絡したいと。昨晩から電話をしているようです」

「俺に?」

「はい」


 スマホなんてまったく見ていなかった。

 急いで確認すると、凄まじい着信履歴が……。

 やっべ。

 思った以上に通知が来ていた。


 すぐに電話してみるものの、父上は出なかった。まだ寝ているか。

 いったい何の用だろう。


「だめだ。あとで掛ける」

「分かりました。では、お気をつけて」


 三鷹さんと別れ、ホテルの外へ。

 そして、タクシーへ乗った。


 後部座席で詩乃は俺にべったり。機嫌が良さそうだった。



「お兄ちゃん、今日も天気が良いね」

「そうだな、詩乃。学校がんばれよ」

「うん。でも、お兄ちゃんと一緒に登校できて嬉しいよ。普通、ありえないもんね」

「事務員になれるとは思わなかったよ。でもおかげで詩乃と会えるし、俺も嬉しい」



 父上と奥野校長のおかげで俺は、詩乃と毎日顔を合せられて幸せだ。

 こんな生活がずっとしたかった。


 可愛い妹と共に毎日を過ごす、ということを。


 ◆


 学校に到着早々、詩乃に声を掛ける女子が現れた。


「おはよー、詩乃ちゃん」

「あ、風吹ふぶきちゃん。おっはよ~」


 詩乃は楽しそうに挨拶を返す。

 なるほど、同級生か。

 以前、友達が出来たと言っていた。

 この子がそうなんだな。


 へぇ、ショートヘアがすごく似合っていて可愛いな。背も小さい。



「あれ、こちらの方は? もしかして彼氏!?」

「お、お兄ちゃんだよ~」


「え! 詩乃ちゃんってお兄ちゃんいたんだ!」



 風吹という少女は、こちらを物珍しそうに観察してきた。そう、ジロジロ見られると照れる。



「よろしく」

「よろしくです。お兄さん!」


 元気な挨拶をしてくれる風吹さん。明るくていい子だな~。


 詩乃と風吹さんと別れ、俺は事務室へ。

 今日はひとりだろうなぁ……。


 なんて扉を開けてみると、そこには何故か水口さんが。



「あれ……水口さん、おはようございます。大丈夫なんです?」

「おはよう、八一くん。うん、仕事をしている方が気が紛れるから……」


 でもちょっと辛そうだな。

 表情に出ていた。

 あの川辺にいろいろされたんだ。そりゃ一日では回復しないだろう。でも、ここへ来た。なら、俺が心の傷を癒してやらないと。


「分かりました。今日は仕事そんなにありませんし、話でもしましょう」

「優しいね、八一くん。ありがとう」


 俺は席に座り、水口さんとまずは世間話をした。

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