第56話 新たな事務員(校長の娘)

 久しぶりに自分の部屋で過ごした。

 疲労のせいか、瞬間で眠ってあっさり朝を迎えた。



 目を覚ました俺は、出勤の準備を進めていく。

 今日もバイトと大学があるのだ。


 少しするとジークフリートが現れた。



「おはようございます。八一様」

「おはよう」


「今日から私が送り迎えをいたします」


「おぉ、それは助かる」

「それではいつでも出発できるよう準備をしておきますので」

「頼んだ」


 そうか。邸宅へ戻れば、執事のジークフリートの力を借りれるのだ。これはデカい。

 今までタクシーを利用していたが、トラブルもあったし。

 これで安全が確保できるな。


 などと思考を巡らせていると、制服姿の詩乃が現れた。


「おはよー、お兄ちゃん」

「お、もう準備できたのか。おはよう」

「うん。でも幸来ちゃんはまだ掛かるみたい」

「じゃ、先に下で待ってるか」



 しばらくすると幸来もリビングに来た。

 三鷹さんの作った朝食を食べ、余裕をもって家を出た。


 邸宅の前には、すでに高級車のマイバッハが停まっていた。ジークフリートだ。



「それじゃ、頼む」

「分かりました」



 後部座席に詩乃と幸来。助手席に俺が乗り込む。

 タクシーと違い、高級車だから乗り心地が最高だ。

 快適な移動で、あっと言う間に学校に到着。


 車を降り、学校へ向かう。



「二人とも、また後で」



「またねー、お兄ちゃん」

「またですー!」



 俺は事務所へ向かった。

 だが、途中で奥野校長とばったり会った。



「おはようございます、八一くん」

「奥野校長。おはようございます」


「丁度いい。少し話があります」


「話、ですか」


「ええ。事務所のことです。人員が減ってしまって大変でしょう」



 そういえば、川辺が逮捕されてから俺と水口さんの二人きりになってしまっていた。確かにちょっと人手不足感はある。でも、二人きりでのびのび仕事が出来ているから、そこまで不満はないかな。



「多少ですけどね」

「そこで人を増やそうと思うのですが、八一くんはどう思いますか?」

「そ、そうですね……。一人だけならと思います。でも、できれば女性がいいかな……って、俺が意見できることじゃないですよね……」


 期待はできないと思った。

 だが、奥野校長は微笑んだ。


「女性ならいいのですね」

「え?」


「実は、私の娘が無職でしてね……」


「そうなんですか?」

「ちょうど職を探しているようなので、当校の事務仕事を紹介したのです。すると、やってみたいと返答があったので検討している段階でした。八一くんがそう言うのなら、迎えようと思います」


「へえ、奥野校長の娘さんですか~」


「情けない話ですが、大学を中退してしまいましてね」



 奥野校長は頭を押さえていた。

 なにやら事情がありそうな感じだな。



「大学生だったんですね」

「はい。偶然にも八一くんと同じ大学でした」

「それは驚きです。会ったことあったかもですね」

「もしかしたら、ですけどね。ともかく、娘を迎え入れるのでよろしくお願いします」

「分かりました」


「このことは水口さんにもお伝えください」

「了解です」



 奥野校長の娘さんが入ってくれるのなら、問題はなさそうだな。女子ならウェルカムだ。


 事務所へ到着すると、中がなにやら騒がしかった。


 扉を開けるとそこには。



「奥野 つきです。よろしくお願いします」

「へえ、奥野校長の娘さんなんだ~」



 って、もういるじゃないか!!


 奥野校長め、俺を驚かせる為にわざと言わなかったな!?


 立ち止まっていると、水口さんも奥野校長の娘・皐月さんも俺に気づいた。



「あ、八一くんおはよー」

「おはようございます、水口さん」



 席へ向かい、俺は改めて皐月さんを観察した。清楚系の美人だな。……って、なんか睨まれているような。なんだ? 俺、なにかしたっけ?



「はじめまして……ではないですね、よろしくお願いします」

「え? 俺、やっぱり、君と会ったことあったかな」

「同じ大学でしたので」



 なんだかそんな予感はしたが、まさか顔見知りだったとは。しかし、俺は覚えがないんだよな。

 皐月という名前も記憶にない。


 どこで会ったかなぁ。



「ごめん。ちょっといろいろあって思い出せない。これからよろしく」

「……そう、ですか。はい、よろしくです」



 ちょっと残念そうにする皐月さん。

 大人しそうな子だなぁ。

 でも、これで事務仕事も楽になるし、女子が増えて俺はむしろ嬉しい。

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