第4話 義妹と新たな生活スタート

 病院を去り、東京の実家へ戻った。

 片道八時間という長旅を終え、無事に帰宅。


 マイバッハから降り、詩乃を連れて邸宅へ。


 玄関に着くなり、父上が現れた。

 顔面中、血管をブチブチさせながら。怖っ。


 恐怖を感じていると、俺はいきなりグーで殴られた。



「この馬鹿息子があああああああッッ!!」

「ぐはあぁぁっ――!!」



 フィギュアスケート選手も驚愕のクワッドアクセル――いや、それ以上の回転をして俺は庭に投げ出された。


 父上にも殴られたことないのに……って、今殴られたな。


 めちゃくちゃ痛ぇ。

 涙が出るほどに痛い。



「いったい今までどこで何をしていた!」

「聞いてくれ、父上」

「八塚家の婚約者を放置し、突然いなくなり……一ヶ月以上どこへ行っていた! 事と次第によってはお前は勘当だ!」


 かなり怒っているな。

 当然か。

 俺は父上に黙ってやりたい放題やっていた。

 死にに行っていたなんて口が裂けても言えない。それに今は違う。


 俺は変わったんだ。


 いや、これから人生を変えるんだ。



「俺は義理の妹と幸せに暮らす」

「……? 義理の……妹? お前は何を言っているんだ」


「本気だ。そこにいる少女……詩乃は俺の妹だ」


「馬鹿な……馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。愚かなり! 八一、お前は柴犬家の長男だぞ。いずれ、私の家督を継ぐんだ。こんなワケの分からん家出少女を妹にするとか、お前は頭が狂ったのか……!?」



 可哀想な子供を見るような目で、父上は言った。それに必死だった。

 確かに家のことを考えると、正気ではないかもしれない。それでも、俺は……俺の人生は自分で決めたいんだ。


 お見合いとかじゃない。

 俺の選択肢によって。



「悪いんだが父上。婚約者の可奈とは別れたよ」

「な……なんだと!」


「アイツは、天王寺家の凍夜とよろしくやっているさ」


「お前まさか……婚約者を奪われたのか……?」


 どうやら父上には知らされていなかったようだな。


「……さあ知らないよ。俺はもう可奈とは関係ない。それより、詩乃だ」

「まて。まてまて……! そんな得体のしれない少女を家に入れるなど……」

「俺の義妹いもうとだ」


「し、しかしだな……」



 世間が、父上がなんと言おうと関係ない。俺は詩乃を幸せにする。そう決めたんだ。


 怯んでいる隙に俺は詩乃の手を引っ張る。



「さあ、行こう」

「お、お邪魔します……」


「そこは“ただいま”だ。これから住むんだから」


「で、でも……」

「父上なら気にするな。いずれ分かってくれる」



 今は放心状態で立ち止まっているが、父上は理解はしてくれる。今まで俺の望みをなんだって聞いてくれたんだ。

 心配させたのは申し訳ないとは思うけど。


「では、坊ちゃん。こちらへ」

「ありがとう、ジークフリート」


 邸宅の中へ進む。

 詩乃はこういう豪邸は初めてなのか表情に緊張があった。手足がぷるぷる震え、恐怖さえしていた。これはまずいな。


「落ち着け、詩乃。ここはお前の家なんだから」

「こんな家はじめて……。すごく広いね……。八一さん、お金持ちの人なんだ」


「詩乃。お兄ちゃんだろ~?」


「そ、そうだった。まだ慣れなくて……お兄ちゃん」



 恥ずかしそうに詩乃はそう言ってくれた。それが嬉しくてたまらなかった。……イイ。最高だ。

 妹がずっと欲しかったから、やっと願いが叶った。


 そのまま部屋へ向かった。


 俺の隣の部屋だ。



「ここを使ってくれ、詩乃」

「え……お部屋をくれるの?」

「もちろんだよ。俺の隣だから、いつでも会える」

「わぁ、すご……広くて綺麗」



 最新のプロジェクター、ふかふかの巨大ベッド、勉強机と椅子。パソコンに冷蔵庫や電子レンジも完備。もともとは動画投稿サイトで配信をやるつもりが放置していたものだ。可奈の要望で作った部屋だったが、もうどうでもいい。

 これからは、詩乃の部屋だ。



「自由に使ってくれ」

「ありがとう、お兄ちゃん」



 手を握ってもらえ、俺は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。こんなに幸せそうに微笑んでくれる詩乃。あんな死にそうな顔していたのに……良かった。


 そんな時、スマホが鳴った。


 俺のスマホだ。


 画面を覗くと相手は可奈からだった。



 な……なんで?



 可奈:久しぶりに会いたい



 なぜ今更……。

 凍夜とよろしくやっているんじゃないのか?

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