第60話 義理の妹と結婚した

 いろいろ回っていれば、夜になった。

 さて、そろそろか。


 だが、その前に幸来に説得をしなければならない。きっと分かってくれると思うけど。


「詩乃。悪いが、幸来と二人きりで話がある。少し待っていてくれ」

「え……なんで二人きりなの?」

「心配なのは分かる。でも信じてくれ」


「うーん……」



 少々……いや、かなり心配そうな表情の詩乃。そうだよな。こんなことは今までなかった。でも、詩乃は渋々ながらうなずいてくれた。


 どうやら俺を信じてくれるようだ。


「すまん、詩乃。あとで必ず事情を話す」

「分かった。お兄ちゃんのこと世界一信じてるから……うん」


 そこまで俺を信用してくれるか。

 嬉しすぎて今泣きそうな気分だ。

 でも堪えた。


 先にこちらを進めなければならないのだから。


 幸来を連れ出し、少し離れた場所で俺は話を進めた。



「幸来……」

「分かっています。詩乃ちゃんに求婚するんですね」

「そ、そうだ。俺はずっと詩乃が好きだ。もちろん幸来もね」


「私のこと、捨てないんですよね?」


「当たり前だ。詩乃にもちゃんと説明する。その……今は義妹でいいだろ?」

「はい。今はそれで十分です。いずれ愛人にしてください」

「そうだな。詩乃がオーケーしてくれたらね」

「それでもいいです」



 少なくとも俺と詩乃の関係に異議を申し立てるつもりはないようだ。

 幸来には本当に悪いと思っている。

 俺の気持ちは詩乃に向いていた。

 ずっと目で追っていた。


 でも、幸来のことも同じくらい好きだ。

 だが選べるのは一人だけだ。……少なくとも日本にいる限りはね。


 金持ちの特権というか、海外移住すればいくらでも方法があるけど、今は日本にいる以上はそうはいかない。


 この気持ちを全力でぶつけるだけだ。



「行ってくる」

「がんばってください、お兄さん。私も応援しています!」


「ありがとう。幸来は最高の義妹だよ」

「嬉しいですっ」



 幸来には待ってもらうことになった。

 俺は再び、詩乃のところへ。



「待たせたな、詩乃」

「あれ、お兄ちゃん。幸来ちゃんは……?」

「ちょっと外してもらっている。それより、大観覧車へ行こう」

「え、でも」


「気にするな。幸来には了承してもらっている。あとで詳しいことを話すから」


「……分かった」



 少し歩いて大観覧車まで到着。

 さすがに大がつくだけあって巨大だ。

 目の前にすると大型巨人のような迫力がある。

 料金900円を支払い、さっそく乗り込んだ。


 静かに上昇していく観覧車。

 まだ気持ちを打ち明けるタイミングではない。できれば頂点で告白したい。



「夜景が綺麗だな」

「そうだね、お兄ちゃん。まさか二人きりになれる時間があるなんて思わなかった。でも、なんで……?」


「もう少ししたら話す。……とりあえず、あれだな。やっと平和と幸せを掴み取れたような気がするよ」


「うん。お兄ちゃんのおかげでとても幸せ。幸来ちゃんも同じだと思う」



 こんな美人で可愛い義理の妹が出来る人生とか、まったく想定していなかった。


 俺は、可奈を寝取られて絶望しかしていなかった。

 でもあの旅で。

 東尋坊で幸来と出会った。


 いつの間にか好きになって、今では結婚したいとさえ思っている。



 沈黙が流れ、次第にテッペンが見えてきた。



「おぉ……さすがに大迫力だな」

「すごい綺麗だね……!」



 今しかない。

 俺は……勇気を振り絞って……詩乃に全力で気持ちを伝える。


 拳をぎゅっと握り締め、視線を向けた。



「詩乃……話がある」

「う、うん……」



 詩乃もなにか察したのか、潤んだ瞳でこちらを見つめる。もしかしたら、もう気づいていたのかもしれない。


 俺が何を言おうとしているのか――。


 お互いの気持ちは一緒だって……そう感じる。でも、やっぱり言葉できちんと伝えたいし、詩乃の気持ちも知りたい。


 だから。


 噛みながらも俺は全力で気持ちを伝えた。



「……お、俺と……け、結婚してくれないか……。詩乃、お前を愛している……」



 懐から指輪を取り出す。

 横浜に来る前、父上からひっそりと受け取っていたものだ。



「え……うそ。本当に……?」

「あ、ああ。俺はずっと結婚したいと思っていた。……ダメかな」


「嬉しい。わたしもお兄ちゃんと結婚したい」

「……!!」



 手を伸ばしてくる詩乃。

 俺は左手薬指に指輪をはめた。


「わぁ、ありがとう。まさか観覧車で求婚されるとは思いもしなかった……すっごく嬉しい。愛してるよ、お兄ちゃんっ」



 抱きつかれ、そして愛情たっぷりのキスをもらった。


 そうか。そうだったな。


 断られないかと妙に恐怖が勝っていたけど、そんなことはなかった。


 ようやく思いを伝えることができた。



 ◆



 結婚には年齢制限があった。

 だから俺は詩乃の卒業まで待ち、それまで事務員の仕事も続けた。


 時は経ち、俺は正式に詩乃と結婚。



「やっとこの日が来た」

「堂々と指輪をつけられるよ~!」

「ああ、幸せだ」

「うん。最高だよ。でも、幸来ちゃんとも結婚するんでしょ?」

「いずれ海外でね」


「なるほどね。でも反対はしないよ。幸来ちゃんも同じくらい大切だから」



 懐が深いというか、なんというか。

 詩乃は、俺と幸来の愛人関係を認めてくれた。


 過去に助けて貰った恩があるからと。

 命の恩人だからと……それがあって快諾してくれた。


 だから俺は幸来とも深い関係をもっていた。



「もー、お兄さんと呼べないね。八一って呼ぶ!」



 あれから幸来の口調も、俺の呼び方も変わった。そうだな、もう愛人だからそうでないと困る。


 これまで、たくさんのことがあった。


 恋人を奪われたり、事件に巻き込まれたり……。


 だが、苦難それを乗り越えてやっとここまで来れた。



 詩乃が俺の右頬にキスを。

 幸来が俺の左頬にキスをしてきた。



 義理の妹と結婚した――!




 -完-



 ◆



【ありがとうございました】


最後まで追っていただき、本当にありがとうございました。

みなさまの応援のおかげで久しぶりに10万文字以上書けました。


当初は厳しいコメントやレビューがございましたが、どれも目を通していますし、ありがたく思っています。

返信できなくてごめんなさい。

リアル仕事が多忙や体調不良続いたりで無理なんです(泣)


また新作も追っていただけると嬉しいです。


しばらくは下記の作品のみ更新していく予定です。


『三番目に可愛いクラスメイトが天使すぎて人生はじまった』

https://kakuyomu.jp/works/16818093073361282138

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義理の妹と結婚したい 桜井正宗 @hana6hana

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