第23話 義妹のおかげで助かった

「詩乃、日比谷公園へ向かうぞ」

「え……。なんで?」

「お巡りさんが事件のことで話があるんだってさ」

「そうなんだ。じゃあ、着替えるね」


 詩乃もついて来るらしい。いや、その方がいいな。二人で行動する方が安全だ。

 ホテルに一人残しておく方が危険だ。


 俺は、詩乃の着替えを待った。


 少しして、準備完了。

 忘れ物はなし。


 部屋を出て、隣の部屋の三鷹さんに事情を説明してから、俺は外出した。



「では、日比谷公園へ行ってくる」

「分かりました。お二人ともお気をつけて」



 不審者が部屋を訪ねてくるようなら、直ぐに電話してくれることになった。これで万が一があったら、直ぐに逃げられるわけだ。


 ホテルを出て、徒歩で日比谷公園へ。


 早くも見えてきた。

 サイトウという警察官は……あ、あれかな。


 しかし、一人とは……。

 そういうものだっけ。

 パトカーの姿も見えないような。



「八一です」

「君が八一くんか。よろしく」



 サイトウは、爽やかな笑みで俺たちを出迎えてくれた。第一印象は悪くない。



「それで、話しってなんです?」

「その前に、そちらの女の子は?」


「義妹です。名前は詩乃」

「へえ、妹さんがいるのかい。可愛いね。……でも、失礼だけどあまり似てないね」

「義理の妹なので」


 納得したのかサイトウは、話を続けた。


「なるほどね。それで八一くん。君は今どこに住んでいるんだい?」

「都内のホテルです。邸宅は、あんな有様ですから」


「そういうことか。参考にどこのホテルか教えてくれないかな。……ああ、ほら。またあんな事件が起きたら大変だろう? 直ぐに駆け付けられるようにしたいんだ」



 それは助かるな。

 詩乃に何かあったら俺はもう自分を許せない。これ以上の地獄は御免だ。



 だから俺はお巡りさんを頼りに――。



 だが、その時だった。

 詩乃が俺の服を引っ張った。



「ねえ、お兄ちゃん」

「ん……?」

「あのお巡りさん、なんか怪しくない……?」



 違和感がないわけではなかった。

 けど、ちゃんと制服を着ているし……いや、まてまて。冷静になれよ、俺。

 まず、忘れてはいけないことがあった。


「分かった。ちょっと待ってくれ」

「うん」


 俺は、再びお巡りさんに話しかけた。



「あの」

「なんだい、八一くん」

「警察手帳を見せてもらえませんか」


「……その必要があるかい?」



 ……!

 こ、この人……ニセ警官なのか?


 警察官は、求められたら警察手帳を提示しなければ“違法”となるのだ。これは法律で定められていること。


 つまり、このサイトウという男は……。



「い、いえ。分かりました。俺たち、ちょっと急用を思い出しました。いったん、帰っていいですか?」


「急用か。じゃあ、付き合うよ」

「い、いいですって! 大丈夫です」


「そうか。分かった。またこちらから連絡するよ」



 今となっては不気味に見える微笑み。サイトウは、諦めたのか背を向けて去っていく。……ニセモノとするならば、これはヤバいぞ。

 俺たち、まだ何かの事件に巻き込まれているんだ。



「詩乃の言う通りだ。あれはニセ警官だ」

「だよね。おかしいと思ったもん」

「ホテルの場所はバレていない。けど、電話番号はなぜか漏れている……。いったい、誰が……」


「ねえ、サイトウってどこかで聞いた覚えがない?」


「ん……そういえば、メイドに“西東”……あ!」



 俺の馬鹿。なんで思い出せなかったんだよ。

 そうだ。あの父上がクビにしていたメイドの苗字だ。

 元メイドの西東だとすれば、関係者で間違いない。


 彼女は裏切って天王寺家と繋がっていた。情報を流していたんだ。


 だとすれば、あの警察官はニセモノ!


 俺や父上に復讐するつもりか。



「ねえ、帰ろう」

「そ、そうだな。なんだか不気味だ」



 いったん、安全な場所へ戻った方がいいな。

 特に詩乃のことを考えれば、もうウロウロしていられない。


 俺たちは早々に立ち去り、ホテルを目指す。



 ◆



【Side:西東 南(ニセ警察官)】


 柴犬家のメイドをしていた妹の為に、オレはニセ警官に成りすました。

 八一の電話番号は、妹が盗み聞きして入手。

 おかげでニセ警官を演じることができた。


 あと少し……あと少しで目標が達成できる。


 天王寺家から莫大な報酬が支払われるんだ。多少のリスクはやむを得ない。


 そもそも、オレは柴犬家が気に食わねえ。

 妹を不当解雇しやがったし、オレを執事に採用しなかった過去がある。


 だから、柴犬家のセキュリティを甘くして、凍夜を出入りしやすくしてやったのにな。

 けど、凍夜は失敗だった。アイツは欲望にまみれ、それで自滅した。だが、オレは違う。俺はただ妹の為に……柴犬家を潰す。

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