第36話 好き好き好き

 少し経ち、俺は途中で水口さんに許可を貰って病院へ向かった。


「校長先生から事情は聞いてるよ。行ってらっしゃい」

「ありがとうございます!」

「いいのいいの。気にしないで」


 笑顔で快諾してくれた。本当にありがたい。


 俺は学校を抜け出し、病院へ向かった。



 タクシーで向かい――到着。



 車を降りると病院の方から駆け寄ってくる気配があった。

 あれは……可奈か!


「待っていたよ、八一くん」

「可奈。久しぶりだな」

「待っていてくれたのか」

「当然だよ~」


 可奈には、予め連絡をしてあった。

 まさか病院の外で俺を待ってくれていたとは。

 ていうか、俺の腕なんかに飛びついてきて……くっ、胸が当たっている。


「ち、近いって」

「え~、いいじゃん。久しぶりなんだし」


 なんだか目が虚ろだ。

 疲れている表情さえあるような。

 もしかして、幸来のことで大変なのかもしれない。


「ま、まあいいけど……。ところで幸来の容体は?」

「まだ目を覚まさないの」

「……マジか」

「多分今日もお見舞いはできない。でも、近くまでなら」

「そうしよう。せめて少し立ち寄るだけでもしたい」


 病院の中へ向かい、そのまま幸来の病室へ。


 だが、やっぱり『面会謝絶』であり、中へ入る事は不可能だった。


 ……だめか。


「ごめんね」

「可奈が謝る必要はない。ここまで来れただけでも良かった」


 長居もよくないので、俺は離れた。

 病院の外へ。


「ところで八一くん」

「ん?」

「ここ最近いろいろあったんだ?」

「ああ、そういえばメッセージアプリで近況を知らせたっけ」

「うん。なんか事件があったんだよね」


 俺は、西東兄妹のことを可奈に話した。

 すると彼女は驚いて少し引いていた。


「というわけさ」

「酷いね……」


「もう逮捕はされた。大丈夫だ」

「そっか。無事でよかった」


 可奈は、また俺に抱きついてきた。

 更にキスを迫ってきた。


「お、おい……」

「私、まだ八一くんのこと……好き、好き、好き」


「なんで急にそんな話になる」


「お願い。好きでいさせて」

「それは構わないけど、でも俺は詩乃の方が大切だから……」

「それでもいい」


 いいのかよっ。

 ここで拒絶すれば、可奈は何をしてくるか分からん。また暴走されても嫌だからな。大人しくしてくれる分には……まあいい。



「今日のところは帰る。また来るから」

「……もう帰るの?」

「仕方ないさ。仕事があるんだ」

「バイトはじめたの?」

「まあね。お金も稼がないと」


「そっか。寂しいけど、またね……」


 またキスを迫ってくるし!

 俺は回避して、可奈から離れた。


 逃げるようにして去った。



 ◆



 なんとか病院から撤退。

 幸来には会えなかったが、いつか会える日がくるだろう。その日まで俺は通い続ける。

 再びタクシーで学校へ戻り、事務所へ。


 水口さんがちょうどお昼を食べていた。


「ただいまです」

「おかえりなさい~」


「すみません。空けちゃって」

「気にしなくていいよ。それより、詩乃ちゃんが待ってるよ」


 椅子に座る詩乃の姿があった。

 待っていてくれたんだ。嬉しいな。


「お兄ちゃん、お昼にしよ。三鷹さんからパンを貰ってあるから」

「おう、そうしよう。場所は……ここでいっか」

「うん、いいよ。水口さんとお話ししていたところだから」


 俺がいない間に世間話に花を咲かせていたらしい。いつの間に仲良くなっていたんだか。だが、おかげで和やかな雰囲気に包まれていた。


 このままお昼にしようっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る